エピソード67-4
・2022年7月11日付
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フィールドAのバトルは、あっという間に決着が付いた。デンドロビウムが介入した事で、芸能事務所勢力は壊滅的打撃を受け、敗北をする。これに関して、芸能事務所側はARゲームのガイドライン違反を言及された事を――。
『改訂後のルールに従っただけなので、違反とは思わない』
まさかの開き直りとも言える反応には、ネット上も驚きの声があった。確かに改訂前のルールでは、同人アイドルや芸能事務所を持たない地下アイドルは問題なしで、それ以外は禁止だったのである。これは、最近になって色々と問題になっている動画投稿者、夢小説問題を引きずっている歌い手や実況者でも大手芸能事務所と契約していれば禁止対象と言う事を意味していた。
改訂後のガイドラインでは、芸能事務所A及びJと関係ある芸能事務所ではなければ、ARゲームへの参戦は問題なし――としている。この部分に関して、難色を示したのはARゲーム課や一部の関係者だったのだが、禁止対象となる事務所を絞り込むことで、この部分はクリアした。
【ARゲームで荒らしまくって、その後に成績次第では復帰と言う状況だったら――】
【そう言う可能性は否定できないだろう。それに、どの芸能事務所もコンテンツ的には危機的状況なのは変わらない】
【結局、コンテンツ炎上も――マッチポンプと言う事なのか?】
【ARゲームでは自作自演系の行為は禁止されているはず。これは――単純にオワコン化が狙いだろう】
【地球上で唯一のコンテンツは芸能事務所AとJ――まるで、別の抗争をイメージさせる】
【ジャパニーズマフィアの勢力争いに例えるのもアレだが――】
今回の一件は、芸能事務所のアイドルに無関心なARゲームプレイヤーにも影響を与えていた。ガイドラインの抜け穴が発見されたという――悪い意味でだが。
「何とも――言い難い状況になったの物だな」
ARインナースーツではなく、何時もの私服姿でセンターモニターのニュース記事を見ていたのはビスマルクである。彼女の左手にはクリスタルグラスを思わせるようなボトルを持っていた。中身はスポーツドリンクだが、透明な水には見えない。ラベルは何も付けられていないのだが、この場合はボトルに傷がつかないようにしているケースに書かれているパターンだろう。
「今は、この状況を分析するよりも――レイドバトルの再開を待つか」
一連の事件を分析するには情報量が足りない。クラッカーも逮捕されていない、手口も非公開、どのサーバーがハッキングされたのかも未発表だ。クラッカーが単独犯かどうかも報道されていない以上、まだ似たような事が起こる事も否定は――出来なかった。
「どちらにしても、今回のレイドバトルは――」
持っていたボトルはペットボトルだったのだが、キャップを開けてスポーツドリンクを飲み始めた。中身は炭酸風味のスポーツドリンクであり――コンビニ限定のレアものである。さすがに、これを好き好んで飲もうと言う強者は少ないかもしれないが。その理由は、青色に見える飲み物の色もあるだろう。着色料未使用と言われても、疑う人物はいるかもしれない。
《レイドバトルに関しては、システムの復旧が完了次第の再開となります。しばらくお待ちください。》
センターモニターもアーケードリバース以外のプレイ動画がアップされているが、アーケードリバースの方は動画投稿も止まっているようだ。その理由はレイドバトルのシステム復旧もあるかもしれないが――別の理由がありそうと考える人物も後を絶たない。
午後4時、アーケードリバース運営からレイドバトルの復旧がアナウンスされた。その原因はハッキングによる物――という発表だったが、どちらにしてもネット上では芸能事務所の陰謀説や政治家の圧力が半数を占める。しかし、そうした陰謀論はアフィリエイト系サイトを運営している管理人が一人だけ儲けを独占しようと言う意図が透けて見えた。
本当にハッキングであれば――クラッカーが逮捕されるはずだが、それが報道されている気配はない。一体、犯人は誰だったのか? それを知る為の手段は誰にも用意されていなかった。その状況はマスコミなども同じだろう。
【やはり、あれだけのシステムをハッキング出来るとは思えない】
【ARゲームの情報を盗み、それを軍事利用――】
【それこそ、Web小説の見過ぎじゃないのか?】
【しかし、レイドバトルが早いタイミングで再開されたのは大きいだろう】
【RTA勢力が荒らした時とは違って、復旧が早いのも大きい。神運営――とは言いすぎだが、手早い対応には――】
つぶやきサイト上でも、予想外の復旧の早さには言及されている。この書き込みを見たアルストロメリアも、思わず驚いたのだが――。
「これだけの反応を出来ていれば――」
デンドロビウムの方は、複雑な表情を浮かべて何処かへと姿を消す。姿を消したというよりは別のアーケードリバース用フィールドへ移動したのかもしれない。実際、このフィールドはガーディアン側の調査で使用不可になる事がアナウンスされていたからである。
「反応? やはり――」
アルストロメリアはデンドロビウムの一言を聞き、そう言う事なのか――と。彼女の過去を知っていた彼女にとって、あの表情をしていた事には一定の理解をしているのだが。
「聞かないのか?」
ジャック・ザ・リッパーはアルストロメリアに尋ねるが、彼女も無言でフィールドを後にする。このタイミングで聞くべきではなかった訳ではないのは事実であるが――嫌な事件であれば、どのタイミングでも最悪なのは当然だろう。
「当事者同士の問題――と言うのも考えるべきだったか」
ジャックは、フィールドを出た後にセンターモニターの復旧告知を見る。それとは別に何かのニュースも報じられていたのだが、それはまとめサイトが著作権侵害で摘発されたとの事。該当するまとめサイトが歌い手や実況者等の夢小説やフジョシ向けの作品リンクを公開していたのも――摘発された原因だが。
「こういうニュースが日常的に流れるのを、今の日常と思うのは――違いすぎるだろう」
ジャックは、ARゲームを含めてコンテンツ市場が変化している事に対し――それこそ非日常化であり、新日常であるのでは――と考えた。本来報道されるような大きなニュースは、こうした物ではないだろう――と言う部分は、ネット上でも言及されているが。