エピソード64
・2022年7月10日付
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午後2時30分、ARゲーム課の一室でタブレット端末と向き合っていたのは――ARメットを被った鹿沼零である。本来であれば、ARゲーム課に来客があると言うのだが――その姿は未だに確認出来ず。突然のキャンセルと言う訳ではなく、草加市役所に行けなくなったとの事らしい。
『向こうも事情があるとはいえ――』
鹿沼は来客予定の人物がキサラギの関係者である事を察する。キサラギの方でもネット炎上勢力等の対処で忙しいのは分かっているのだが――。
【そちらへ足を運べなくなったお詫びではありませんが、あなたが最も知りたいと思われる情報を提供します】
【その情報とは、アルストロメリアの真の目的だ】
【彼女がARゲームのフィールドを守る為に、様々な行動を起こしているのは周知の事実だが――】
【それと違う方法で類似目的をもった人物は、もう一人いる】
『同じような人種が――もう一人だと?』
メッセージを見ていく中で、もう一人いるアルストロメリアと同じ目的をもった人物の存在に驚く。
【アルストロメリアは、ARゲームと言うフィールドを侵す人物の存在を許さない――】
【その一方で、彼女は別ゲームで起きてしまった悲劇をARゲームでも繰り返さない――】
【それを踏まえれば、考えている事は同じだ。同じ穴のムジナとはよく言った物だろう?】
【その人物とは、おそらくは君も知っている人物だ。会った事もあるかもしれない――デンドロビウムだ】
『何となく察する部分はあったが、そう言う事か――』
メッセージに書かれていたもう一人の人物、それはデンドロビウムの事だった。それを見て、鹿沼は逆に欠けていたパズルのピースが見つかったような表情をする。デンドロビウムがARゲームの為にチートプレイヤーを次々と撃破していく様子は、ARゲーマーにとっても衝撃のニュースとして迎えられた。今までの流れを踏まえると、彼女のやっていた事は本当であればチートプレイヤーの様に営業妨害と認識されかねない。
『これを今更のタイミングで教えた所で、キサラギは何を――!?』
メッセージを閉じ、タブレット端末をテーブルに置く。ニュースの方で気になるような話題が耳に入ったので、テレビ画面の方を振り向いた。そして、そのニュースの内容に鹿沼は言葉を失ったのである。
『先ほど、青騎士と名乗る人物から脅迫状が届きました。その内容によると――』
中継先は竹ノ塚と思われるが、今から駆けつけようとしても遅いかもしれない。脅迫状の内容よりも、竹ノ塚のアンテナショップで喧嘩が発生していた事の方に驚いた。何故、このタイミングで騒動を起こしてネット炎上を誘発させるのか?
青騎士騒動 それに便乗した脅迫状なのかは分からない。ただし、竹ノ塚で起こっている喧嘩は物理的な物である。本来であれば警察が駆けつけてもおかしくはないのだが――。
「こういうのは警察の仕事だろう? ガーディアンが介入してよいものではない」
アキバガーディアンの一人が喧嘩を起こしている人間の一人を取り押さえる。それに使用しているのはブレード型のARガジェットだが、ゲームで使用するタイプと言うよりはゲームフィールド用の発生装置を借りて、ガジェットを実体化するタイプだろうか?
「警察の方が、脅迫状の送られた芸能事務所の警備に向かっている関係で、出動出来ないそうだ」
別のガーディアンはビームライフル型ガジェットで襲撃者を止めているが、あくまでもARゲームなので多少の衝撃はあれど、直撃しても重傷となるような事はない。ある意味でも、ARガジェットが殺傷能力を持ったとしたら――と言う話になるかもしれないが、彼らの狙いは何なのか?
一連の事件を受け、レイドバトルは緊急停止をする事なく続行される。これはレイドバトルの中止を狙ったアイドル投資家や一部のネット炎上アフィリエイト勢力が、今回のレイドバトル中止を狙っていると考えているからだ。
『何も考えずに、ルールを守ってゲームを楽しめ。イライラして、それをゲームにぶつけたら――誰だって面白くないだろう?』
ガングートがあの時に言った言葉、それを思い出していたのはアルストロメリアだった。今回の事態を起こしてしまったのは自分に責任がない――とは言い切れない事もあり、単独で全てに決着を付けようとしている。大規模――それこそ日本全国にいるであろうネット炎上勢力を1人で駆逐出来るかと言うと、それは無理な話だ。この事態を鎮圧する為にも、各地のガーディアンに協力要請をする必要性がある。
【このメッセージを見ているプレイヤーで、ARゲームの未来を守りたいと願う者は――力を貸して欲しい】
アルストロメリアは、覚悟を決めてメッセージを送信する。その内容はまとめサイトに利用されないように、別のツールで拡散を行う事にした。
「やはり、今回の事件を起こしたのは芸能事務所なのか? そうだとしたら、それこそ元の木阿弥に――」
さすがに最悪のケースは思いたくないのだが、アルストロメリアは芸能事務所が見せかけの謝罪だけで何とか乗り切ろうとしている――とも考えていた。




