エピソード63-3
・2022年7月10日付
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アルストロメリアが一連の事件で使用していたのが、あのアニメではなかった事が拡散する事は――直前で回避された。その理由として、彼女が拡散を拒否したのではなく、別の理由が存在していたのである。
【芸能事務所が謝罪をしておいて、この状態なのか?】
【最後の抵抗と言うべきなのか?】
【過去のランキング荒らしや青騎士襲撃事件を思い出す】
同じようなコメントが飛ぶほどに、それは衝撃的だったのだろう。何と、まとめサイトが一連の事件の真相を発表した事による物だったのだ。しかし、それは超有名アイドルの芸能事務所AとJを物理的に潰す為――という歪められた理由としてだが。
【結局、あの謝罪は何だったのか?】
【あれこそ広告会社がシナリオの修正を行い、今回のまとめサイトの件でARゲームの人気を落とすという形式に変えたのだろうな】
【広告会社と芸能事務所が裏で動いているのは知っていたが――】
【物理的に潰すって、テロを起こすと言う事か!?】
【夢小説の存在を全否定するような勢力は許してはおけない――】
案の定というか、フェイクニュースに釣られるつぶやきサイトのユーザーは存在した。しかし、これをテレビ局が取り上げるかと言うと――不思議な事にゼロだったのである。これには最初から一連のシナリオをテレビ局が知っており、報道をしないようにと連絡があったとする説を言及する人物がいる程だ。
「そう言う事か。こちらも裏バイトが犯人と決めつけていた事――それが裏目に出たという事かもしれない」
一連のタイムラインを西新井の某所で見ていたのは、橿原隼鷹である。何故に西新井にいたのかと言うと、別のARゲーム発表会を視察する為に訪れていた事に由来していた。発表会の視察は表向きであり、本来は別の会社にあるサーバーを調査する為と言う目的がある。
「結局、裏バイト路線はハズレだった。しかし、そこを調べた事で収穫もあった――」
裏バイトに関してはARゲームのネット炎上を依頼するようなバイトと言う意味では――収穫なしのハズレと言えた。しかし、その情報を警察に提供する事で振り込め詐欺、転売屋の商品仕入れ、裏ビデオのスカウト、超有名アイドルのテレビ番組の視聴率水増しのマッチポンプ――そうしたコンテンツ流通の闇を晒した点では大きい。
数日後には、コンテンツ流通と言う意味で日本は方針転換の必要性を国会内で言及され――そこで芸能事務所AとJに関する裏取引も明らかになる。これらの事件が完全解決するのは、まだ先かもしれないが――アーケードリバースを巡る事件では、もう取り上げられない事を祈りたい。
フェイクニュースを見て、動きを見せたのはもう一人いた。レイドバトルにも参戦し、上位ランカーに肉薄するプレイで観客を魅了するジャック・ザ・リッパーである。今は従来の暗殺者モチーフの様なARアーマーではなく、黒色のメイド服をモチーフとしたアーマーを着用していた。これに関しては賛否両論あるかもしれないが、今までの一件に対するけじめなのだろう。 ジャックのスコアに関してはアルストロメリアには及ばないものの、1日で稼ぎ出すスコアもかなりの物だ。毎日プレイしてスコアを稼いでいるのは、下位のプレイヤー以外では彼女位かもしれない。
動画サイトで投稿されているプレイ動画は、大抵がジャックからのプレイ視点ではなく他のプレイヤー視点が多いのも特徴だ。だからこそ――彼女のプレイ技術を確認出来ると言う事かもしれない。
【ジャックのプレイスタイルは、以前とは違うな】
【デンドロビウムと同様に、プレイスタイルの調整を行った結果が――これなのかもしれない】
【ARゲームの中でも色々と異例な部分が多い以上は、他のARゲームで使える技術が使えない可能性もある】
【そう言う物なのか?】
【類似ジャンルでプレイすれば分かるが、FPSではプロゲーマーレベルと言われたガングートも最初は苦戦していたらしい】
【最初からチートじみたプレイヤーが大量に出てきたら、明らかに炎上商法や広告会社が絡んだ超有名アイドルの宣伝活動とみるだろう】
【それもそうだな。大抵のARゲームでチートプレイヤーが荒らしまくっていた環境の原因が、広告会社や芸能事務所の圧力をにじませた宣伝活動と聞く】
【チートプレイヤーも、本来は超有名アイドルの演じるプレイヤーが倒し、CDやテレビ番組の宣伝をする――バラエティー番組であるあるな手法を使い――】
【それを察したのがチートキラーだったのか?】
【キラーの方は技術力が低かったらしい。実際にチートプレイヤーを倒せるのは、ジャック・ザ・リッパーやビスマルクの様なプロゲーマーや上位ランカーが現れてから――と聞いている】
【それでも、デンドロビウムは? アガートラームの様なチートブレイカーはなかったはずでは――?】
【まぁ、そうなるな。最初の内はチートブレイカーの存在も気づかなかったのだろう。一部勢力が担ぎあげるまでは】
その他にも、様々な情報が情報解禁と言わんばかりに拡散していた。しかし、拡散しているからと言っても真実とは限らない。一部にはフェイクニュースや炎上サイトへの誘導もあるかも――という可能性はある。
「これが――世界の真実だったと言う事か。全ては広告会社と芸能事務所による――」
プレイ後に一連のタイムラインをのぞいたジャックは、怒りと言う物がこみ上げてくる事はなかった。単純な呆れ――と言った方が正しいだろうか? 既にこの一件は解決したも同然であり、それを今更掘り返そうと言うのは――アフィリエイト収入目当てでまとめサイトを管理にしているアイドル投資家だけだろう。
ガングートは、アルストロメリアに対して――こうも言及した。
「同じ土俵に上がって勝てるかどうか――と言ったな。確かに、そんな事は実現不可能だろう? 十種競技のようなルールで競う事が可能であれば――別だがな」
アルストロメリアの方は黙り込んだまま、そのまま立った状態でガングートをにらみつけている状態が続く。
「そこまで万能なチート能力じみた人間が量産されていれば――既に地球は終わっている。バランスブレイカーと言う単語は聞いたことあるだろう?」
バランスブレイカーの単語を聞き、アルストロメリアは北条高雄と過去にやり取りした事を部分的に思い出す。その際は若干のバランスブレイカーも高雄は許容しているような節があった。しかし、それすらも許容できなかったのが――誰であろうデンドロビウム本人だ。
「バランスブレイカーと言っても、色々と存在する。それこそ――ゲームバランス調整時に生み出されたような存在も」
「それすらも許さない人物が――何人か存在していた。理想のゲームバランスを求めて独自理論を展開する人物もいただろう――」
「私は万人受けするようなゲームバランスが理想形と信じて疑わなかった。マニアックな難易度では初心者が敬遠するからだ」
「しかし、それはマニアックな難易度でもクリアし、付いてくるであろうプレイヤーがいたからこそできた事――分かるか?」
「最初はどんなジャンルのゲームでも、初見でクリア出来ると限らない。それでもクリアできるのは過去の経験や努力が進化を発揮する時だろう――俗に言う、違うゲームをプレイした時の感覚かもしれないだろうな」
「私が言いたい事を直球でお前にぶつけてやる――これは、一度しか言わない」
ガングートの話は続き、アルストロメリアはそれに反論すらできなかった。全てが正論過ぎて、逆にツッコミを入れればネット炎上勢力に利用されると考えていたからだろう。
「どのようなゲームであれ、プレイヤーが1人もいないようなゲームは――存在価値を失う。そうした時代になってきている」
「だからこそだ。アルストロメリア――」
次の瞬間、ガングートはARガジェットを操作し、何かをアルストロメリアのARガジェットに転送する。その内容をすぐには確認出来るような状態ではなかった為、データ転送完了のメッセージが彼女のガジェットに表示されたままだが――。
「何も考えずに、ルールを守ってゲームを楽しめ。イライラして、それをゲームにぶつけたら――誰だって面白くないだろう?」
その一言をアルストロメリアに伝え、ガングートはフィールドを後にした。彼女には自分と同じフィールドに入り込んで欲しくない――そう考えてオブラートには包んで警告はしたつもりである。ガングートが関係した一連の事件を政府が謝罪したという記録はなく、これに関しては歴史からも抹消されていた。だからこそ――なのだろうか? ガングートの表情も、何だか悲しそうな目をしている。涙は流していないが――。
「後はお前次第だ――自分の本来やろうとしていた事、何処で道を間違えたのか――それを自覚しろ」
ガングートは、自分に言い聞かせるような口調でつぶやき、近くのコンビニまで歩いて行った。




