エピソード60-5
・2022年7月8日付
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9月5日、前日のガングートの一件がワイドショーで取り上げられる事はなかった。何故と言われると――それ以上に視聴率が取れる案件が出てきたからだろう。どのような内容なのかは、現実の読者にも悪影響を与えかねない観点から割愛する。超有名アイドルのファンは、FX投資をしているのと同じと言う例えをした所で――。
「相変わらずのまとめサイトと言うか――そこまでして超有名アイドルのCDやグッズと言う名の株式投資をして――」
テンプレ通りの書きだしやニュース記事を扱うまとめサイトを見て、削除申請をしていたのはスレイプニルだった。今回に限っては谷塚駅にARインナースーツも装着せず、私服で姿を見せている。
しかし、身長が170辺りなぽっちゃり女子を――誰もスレイプニルと分かる人物は、誰もいなかった。外見に関しても素顔が一切判明しておらず、過去に目撃された人物も影武者説が浮上している。それだけでなく、AR技術を応用した変装を得意とするというデマ情報がある程に――彼女の素顔は都市伝説とも言える程の物になっていた。黒髪のツインテールと言う髪型を見ても、おそらくは誰も気にはしないだろう。
「どちらに転んでも、アルストロメリアのシナリオ通りに事が進むのは――納得できないけど」
彼女はアルストロメリアの行動原理に理解を示しつつも、やり方が回りくどいとも考えていた。それこそ、物理攻撃で芸能事務所を襲撃すると言う過激派発言が炎上しそうなのに、アルストロメリアの方が炎上すると言うレベルで。
『シナリオも、いよいよ佳境と言う事か』
そして、スレイプニルはいつものARメットを被り――近くのアンテナショップへと向かった。メットを被っただけではARスーツが装着される訳ではないので、私服はそのままなのだが。
『芸能事務所を壊滅させるのと、今までの行動を謝罪させるのでは――どう違うと言うのか』
鹿沼零の方針転換、それが芸能事務所AとJのそれと類似案件かどうかは不明だが――。現状で言える事は、力で圧力をかけるような方式で芸能事務所を黙らせても、それこそネット炎上はリアルウォーへと変化するだろう。だからこそ――何処かで妥協する必要性がある訳だが、その妥協は芸能事務所への忠誠や圧力などで使われるべきではない。過去に超有名アイドル商法が賢者の石と揶揄された事は――あながち間違いではなかったのである。
それを踏まえれば、ガングートの一件は政治家を巻き込んで大規模な事件になり過ぎた――そう言えるのだろう。ARゲームコンテンツが前途多難となったのには、ガングートの一件があったからというのもある。実際、ゲームメーカーもVRゲームやソーシャルゲームの方が利益を得られると考え、ARゲームには消極的だったのは――この為かもしれない。
午前11時、レイドバトルで首位に立ったのはガングードだった。その後もスコアを稼いでいき、順調に首位固めをしているのだろうか。一方で、昨日の一件を引き合いにして不正プレイをしたと通報する偽アカウントも続出している。これに関しては運営側も捨てアカウントに関して、ガイドラインでも禁止している事を引き合いにしてスルーを決め込んでいた。
ネット炎上や超有名アイドルファン等による超有名アイドルの人気上昇に、ARゲームが利用されるのは何としても阻止すべきである。一連のARゲームに関するガイドラインが変更になったのは、この為なのかもしれない。
午前12時、何人かのプレイヤーは昼食を取り始める事である。それでもレイドバトルを今の内に……と考えるプレイヤーは存在するだろう。レイドバトルにおける最後の一撃におけるスコアはバランス調整が行われる方向になり、ハイエナ狙いのプレイヤーも減ると思われていた。
しかし、今度はレイドボスの防御力が調整され、ワンパンチ程度では沈まない様な調整が入ったのである。これに関しては賛否両論あるのだが、便乗勢力等が止めだけを刺すような事は減るので、歓迎する方向の意見が多い。
【ソシャゲのレイドとは違う意味で調整されている予感がする】
【ARゲームの場合、ソシャゲの様なアイテム課金方式ではない。それを踏まえれば、平等なバランス調整が図られるのは自然なことだ】
【逆に課金方式が違うソシャゲと同一扱いするプレイヤーのマナーを疑うな】
【やはり、超有名アイドルファンによるフィールド荒らしなのか?】
【芸能事務所は組織的関与を否定しているが、自分達のアイドルをタダで宣伝してもらう事を条件に――と言うのもあるだろう】
やはりというか、ネット上には様々な意見が飛び交っている。中にはアフィリエイト収益や超有名アイドルの人気上昇狙いで、特定コンテンツを炎上させるような煽りを行う様な人物も存在しているのだが――。こうした勢力に共通するのは、自分が行っているのは正義であると断言し、その他を悪と断罪している事だろう。
『これも――か。何処まで悪質なまとめサイトを増やせば気が済むのだ――アルストロメリア』
こうした状況にしている犯人がアルストロメリアだとスレイプニルは気づき始めている。それ以外のメンバーでも、アルストロメリアの行動に変化が生じ、それが一連の動きに繋がっているのでは――と考える人間もいた。
その一方、焼きそばパンを食べながらテレビのニュースを見ていたのはデンドロビウムだった。彼女は今日から参戦しようと考えていたのだが、様々なニュースを見て情報を集めていると言ってもいい。
しかし、民放のニュースでは芸能人の不倫疑惑や不祥事、地下アイドルのメンバー脱退と言った物ばかりで、ARゲームは取り上げる気配がなかった。天気に関するニュースはあるのだが――雨天でARゲームが中止になるようなジャンルは一握りで、アーケードリバースは含まれない。場所によっては雨天で使用エリア制限がかかる場所もあると思うが、大きな影響があるとは思えないだろう。ただし、レイドバトルを開催中なので混雑する場所が雨天だと増えるのは、間違いないと思うが――。
「懸念すべき事はガングートではない。おそらく、アーケードリバースをフィールドにして何かを起こそうとした人物が――」
デンドロビウムも真相に若干気付き始めていた。犯人は分からないが、ARパルクールのアニメに類似した事件、アカシックレコード等の存在――。何かしらの理由でネット炎上しないコンテンツは――もはや存在しないと言いたそうな、その状況を生み出しているのは間違いない。
「犯人は、ネット炎上がどのようにしてコンテンツ流通を阻害するのか、フジョシや夢小説勢、アンチ勢力がどのようにして暴走するのか――」
彼女は近くのテーブルにあったコーヒーの入ったカップを手に取り、そのまま口にする。コーヒーの方はブラックなのだが、既に冷えているような感じだ。
「マナーを守り、ルールも守って正しくプレイすると言うのはホビーアニメでも言及されているはずだが――」
過去に似たような事を体験した事のある彼女にとっては――非常にマナーと言う単語は耳が痛いほどに聞きなれている。全ては超有名アイドルのゴリ押し商法の仕業と言う風に言うのは簡単だろうが――それでARゲームで起きた事件を表現できるかと言うと、それは難しい。




