エピソード60-4
・2022年7月8日付
行間調整版へ変更
鹿沼零による、今までの方針を転換するような流れは――彼にとってブーメランだったのは言うまでもない。実際に気付き始めたのは、ふるさと納税が成功の軌道に乗り始めた頃よりも、超有名アイドル商法に関して規制が叫ばれた辺りだったようだ。その後も特にツッコミが入る事もなかったので、問題はなかったと判断し――現在までに至る。
「ここまで放置され続けたのには、どういう意図があったのか?」
ビスマルクは一連の鹿沼に関する行動を問題にはしていたが、目立って言及するようなことはなかった。ARゲームの運営批判はネット炎上の観点からガイドラインでも禁止されている。
しかし、この運営批判は新たなガイドラインでは指摘や改善案という形であれば問題がない――という変更が加えられた。つまり、この変更が今回の方針転換につながったのではないか――と言われている。
「ARゲームは単純な炎上マーケティングで売り上げが上がるようなコンテンツ――そうした部類とはケタが違う」
山口飛龍は再びマッチングバトルで、向かってくる敵をなぎ払っていく。それらのプレイヤーは、大抵が悪乗り便乗やタダ乗り勢力のような存在であり――ARゲームのガイドライン上では追放の部類とされた存在でもある。
しかし、そうした存在も悪意を持って実力行使をする事を禁止したのも、非常に大きい。あくまでも実力行使と言うのは無差別テロ等に代表される部類、それこそカルト宗教でも問題視された一件等――警察沙汰になる行為を禁止する事になった。さすがにARゲームで殺傷行為やデスゲームを禁止していると言うのに――とツッコミが入りそうだが、念には念を入れるようである。
午後2時辺り、草加市近くのARフィールドで多数のギャラリーを集めたバトルがあった。それはレイドバトルなのは間違いないだろう。しかし、そこに参加していたのはデンドロビウムではない。
「デンドロビウムかと思ったが、違うのか」
「アルストロメリアも、やっと名前が出た辺りだ。更に様子を見るのだろう」
「しかし、7日には中間発表がある。いつまで行われるか不明な以上、スロースタートは致命的だ」
ギャラリーからはレイドバトルに期限こそ設定されていないが、中間発表が控えていると言う発言が聞こえた。初日からRTA勢力が荒らした事もあり、様子見を決めていたプレイヤーがいるのは知っている。しかし、遅く参加してもスコアの差は開くばかりだろう。最悪でも5日には参加しなければ、7日の中間発表は間に合わない。一方でレイドバトルの攻略情報を扱ったウィキには、興味深いであろう情報もあった。
【レイドバトルのレイドボスはレベルの数値が高いほど、スコアが高い】
【やろうと思えば、1000レベル以上のレイドボスの止めだけを刺す事も可能だろう】
無茶な話だが――レイドバトルの予想外とも言える攻略パターンが掲載されたのである。これが運営にチェックされた場合、この攻略法は使えなくなるが――現状ではノータッチだった。その結果が、このギャラリーを集めたバトルなのである。
「まさか、あのウィキの攻略法を試す人物がいたとは」
「しかも――まだ有効なのか?」
「これでアイドル投資家辺りがランキング上位に入ったりでもしたら――」
動揺に交じり、このような声が聞こえていた。しかし、彼女にはそうした声は全く聞こえていない。今回のレイドボスを撃破した事で、彼女のスコアは急上昇し、気が付くと1位のプレイヤーを――。
「こんな馬鹿な事があるのか?」
「信じられない!」
「下手をすれば、レイドボスのパターンも変更される可能性が高いぞ」
「これが、プロゲーマーのやる事か?」
「ハイエナは超有名アイドルファンだけがやると思っていたが――」
周囲の声があまり聞こえていないとはいえ、ここまで言うとブーイング等と変わりない。正々堂々としたバトルに水を差すような発言が相次いだ事に対し――彼女は一言叫ぶ。
『お前達が望む結果とは何だ? システムの穴を突くようなプレイをしているのは――どっちだと言うのだ!』
彼女としては、感情を抑えているつもりなのだが――ある意味でも本音が出ているのだろう。白銀のモノアイタイプバイザーに特徴的なARアーマーから判断して、明らかにこの人物がガングートなのは予測できる。だとすると、今回のマッチングに参加したプレイヤーの目的はガングートの炎上狙いなのか、それとも今回のプレイを不正と申告するつもりなのか?




