エピソード60
・2022年7月8日付
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9月4日、朝のニュースでは一連の事務所が起こした事件に関して扱っていた。しかし、その内容は『芸能事務所AとJには不祥事はない』や『彼らのような失敗は起きない』と言った、炎上マーケティングその物である。
それを報道したのは――長時間放送の感動をねつ造とネット上で毎年炎上している生中継番組を放送していたテレビ局であり――出演アイドルの宣伝を兼ねて、あの事務所を炎上させているのだろう。それ程にマイナーアイドルは不要と切り捨てているのだろうか? 実際は広告会社や芸能事務所の指示と言う可能性もあるが――真相は定かではない。
【やはりこうなったか】
【芸能事務所と広告会社が手を組んでいる疑惑は、前々からあった。それを改めて――という具合だろう】
【噂によると芸能事務所AとJのOBが国会へ進出しようとしている】
【それこそ、WEB小説のネタだろう? そこまでやったとしたら――】
【結局、芸能事務所AとJのアイドル以外を不要と考える数百人程度のアイドル投資家が国会を動かしている――そう言う感じかもしれない】
【まさか?】
【それが現実化したら――】
つぶやきサイトでも、こうなる事は想定内という様なつぶやきが相次ぐ。しかし、あまりホットワードになるような状況ではなく、これも炎上マーケティングやマッチポンプと切り捨てられた。実際にそれを確定させたのは、アフィリエイト系まとめサイトのURLを引用していたり、明らかに芸能事務所Aから裏金を受け取っているようなつぶやきユーザーが炎上させている事が――証明だろうか。
そうした流れを叩き斬るように、コンテンツ流通の可能性を示唆するような記事が発表されたのは――午前10時である。
『これは――どういう事だ?』
この記事を草加市役所でチェックしていたのは、鹿沼零である。今回の彼は特に大きな用事もないので、市役所へ一部の業務に関して相談をしようと思っていた。しかし、この内容は相談しようとしていた業務にも影響を及ぼす物だったのである。
「鹿沼さん、これは――」
男性職員の一人が、鹿沼の所へと駆け寄る。彼も応接間から出る所だったので、丁度――という気配か。表情も落ち着かないので、かなり大きな事なのだろう――と鹿沼は考えた。しかし、その内容は鹿沼の想像を超えるような物――ある意味でも想定外と言っても過言ではない。
『完全な先手を打たれたという事だ。運営側も一部の暴走した事例ばかりに注目した結果と言うべきなのか――』
その記事とは、ARゲームをふるさと納税の返礼品にしている草加市にとっては問題となるような物である。この記事を見る前に相談しようとしていたのは、他の周辺エリアにも返礼品として提案しようと言う物だっただけに――計画は白紙になったと言ってもいい。
【ARゲームに関して、新たなクラウドファンディングガイドラインの緩和とルール追加】
記事の内容は、ARゲームの運営にクラウドファンディングを用いる事に関して緩和すると言う物である。ARゲームをプレイしないようなプレイヤーにも、ARゲームの技術がどのようなものに使われているか――それを理解してもらう為の緩和なのだろう。実例としては、新規ARゲームでプレイ料金とは別に個別の寄付やカンパ等を認める物だった。
今までは投資家等による投資だけというのも、今回の事例がコンテンツ流通の可能性を導き出したと言える物だろう。こうした事例はクラウドファンディングサイト等でも実例が存在していたが、サイト側がARゲームの実体的な物を警戒して禁止していた経緯もある。過去に芸能事務所側が圧力を賭けた事もあるので、仕方がないと言えるのかもしれないが。
その一方で、いわゆるソーシャルゲームの様なアイテム有料タイプのサービスやふるさと納税方式に関し、廃止を含めてルールを変えると言う物だった。草加市にとっては寝耳に水と言うべきなのだが、これは他の市町村で詐欺まがいの資金集めが週刊誌でピックアップされたのも理由の一つだ。鹿沼は、この件を芸能事務所AかJによる炎上マーケティングの戦法と訴えたのだが――草加市が方針転換をする事はなかったという。
『この提案をしたのが誰なのかは知らないが――代償は高くつくぞ!』
この声はミュートにより、役所の職員やスタッフなどには聞こえない。それ程に今回の件は鹿沼にとっても切り札の一つを失ったと言えるだろうか。ARゲームでも一時的に問題視されていた特定の投資家に関する行動が炎上を呼ぶ事があり、それを踏まえてふるさと納税にすれば炎上しないと提案したのは鹿沼の方である。それ以外でも様々な提案を行い、ここまで発展してきた経緯もあった。だからこそ――今回のルール追加は鹿沼にとっては寝耳に水であり、致命傷と断言出来る。
この件に関して、もう一人寝耳に水の人物がいた。今の彼は潜伏活動を行い、ネットでも炎上マーケティング等を誘導している存在としてブラックリスト入りしている。
「山口飛龍――まさか、奴が武者道にいたとは予想外だった」
その彼とはジークフリートである。数日前に山口飛龍とのバトルで敗北後――密かにネットで情報を拡散し続けていた。あの時は、あくまでもゲームの決着で敗北しただけなので――仮に気絶したと言っても問題なく逃げられた。しかし、レイドバトル中に行動を起こそうとしたのは大失敗と言える。ネット上でも炎上勢力が、ガーディアンに鎮圧されている事を考えると一目瞭然だろう。
彼の居る場所は竹ノ塚のネットカフェであり、ARゲームとは無関係の場所だ。下手にスマホで情報を拡散すれば、アキバガーディアンが駆けつけるだろう。ARガジェットで拡散すれば、チートキラー等が現れる。アキバガーディアンは物量で来られると勝ち目がない。チートキラーであればデンドロビウム等の有名プレイヤーでなければ、何とか勝てるかもしれない――と。
「しかし、このままで終わると思うなよ? こちらとて、まとめサイトのパイプラインを――?」
目の前のパソコンは個室仕様であり、犯罪行為でもなければ強制シャットアウトされる事はないはず。実際、ネットカフェの注意事項でも書かれており、そこに触れるような事はしていない――そう彼は考えていた。
【ARゲームに関して、新たなクラウドファンディングガイドラインの緩和とルール追加】
彼が発見した記事、それにはARゲームのクラウドファンディングに関する部分の緩和と別のルールを追加したという記事が載っていた。ルール追加には、今まで魔女狩りと批判されていた特定キーワードを含むつぶやきの強制削除機能に関して廃止する事も書かれている。それ以外には――彼にとっては致命的なルールも新たに追加されていた。
「ネット炎上及び炎上マーケティングの規制――だと!?」
思わず大声を上げてしまうが、あくまでも個室なので周囲には聞こえていない。しかし、カラオケ並の大音量だと聞かれてしまう可能性はある。防音仕様の壁でも限度があると言う事だ。
「このままでは、ARゲームは大きく注目される事無く――歴史の闇に消えるだろう」
ジークフリートは青騎士の都市伝説を初めとして、様々なARゲームに関する都市伝説を生みだした。それに加えて、適度に炎上させる事でARゲームに潜んでいる問題も浮き彫りにしてきている。情報屋と言うポジションにい続けたのは、そうした経緯もあると言ってもいいだろう。
「そうだ――あの人物とコンタクトを取ればいいのだ」
ジークフリートは、ある場所へとメールを送り――該当する人物にコンタクトを取ろうと考える。その人物とは、毒を以て毒を制すると言うべき存在でもあった。




