エピソード59-3
・2022年7月8日付
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橿原隼鷹が北千住のアンテナショップへ何とか到着し、そこで改めて渡されたデータの解析を行う。
「こう言った小説が普通に拡散し、ネット炎上させているのか――まるで、1ジャンルとして認識させようと言う気配も感じる」
橿原は完全に呆れるしかなかった。表に出してはいけないジャンルと言うのもあるはずなのに、それを認識させてどうしようと言うのか? それこそ、芸能事務所AとJのアイドル以上に認識させて神コンテンツとするつもりなのか?
しかし、それを普通に認めさせるような風潮ではないのは火を見るよりも明らかであり、肖像権等の観点からしても――非常に危険だろう。一歩間違えれば、こうしたコンテンツの流通はアルストロメリアが完全に根絶すると言いかねない。アルストロメリアがこのジャンルにまで手を伸ばすかと言われると、疑問点が残るのでスルーされる可能性は大きいか。
「ここまでくると――」
橿原は更に別の考えにも到達したのだが、それを口にすれば――危険思想と認識されて排除されかねない。芸能事務所AとJが考えるコンテンツ流通に関しても理解できないし、アルストロメリアが想定している物に関しても不明なままだ。本当の意味でコンテンツ流通とは、そもそもネット炎上と紐付けされるような芸能事務所AとJの売り方は、まるでリアルウォーを連想するかもしれない。
「デスゲーム要素を排除したリアルウォーを、芸能事務所が広告会社等と手を組んで展開するのか? コンテンツ市場で?」
やはりというか、彼もリアルウォーと言う単語に辿り着いた。この単語自体、ネット上で大きくは拡散していない。単純に被害妄想と言う事で切り捨てているのが現状だからか。しかし、それでも世界大戦よりは現実味がある単語なのは間違いなく――。
【芸能事務所2社と他のコンテンツ企業で戦争を起こすのか?】
【さっきの芸能事務所が強制捜査を受けたというニュースを見ただろう? そう言う事だ】
【芸能事務所2社によるディストピアは、それこそWEB小説だけの世界ではないのか?】
【あのサイトに載っていた小説はフィクションじゃなかったのか?】
【あれがアカシックレコードと言うのか?】
ネット上では、一連の事件を受けての反応が拡散されている。その中でもアカシックレコードに言及するつぶやきも存在し、その単語がまとめサイトにも載りつつあったのだが――。
午後3時、谷塚駅近くのアンテナショップに足を運んだアルストロメリアは一連のネット上にある記事を見て――少し驚いて見せた。
『想定外の動きをするが――まだ、こちらで修正可能の範囲か』
運営側も反応が遅く、もはや自分の手で下さなければ遅いと言う所まで――コンテンツ市場の危機は迫ってしまったのである。彼女はリアルウォーに関しては把握しているものの、それに言及すらしない。戯言と切り捨てている訳ではなく、別の理由で。アンテナショップと言っても、彼女はガジェットの整備を行う為に来店した訳ではない。その彼女は、ARバイザーでウェブサイトのいくつかをチェックした後、ある記事の存在に気付いた。
『瀬川――アスナ?』
瀬川アスナ、それはハンゾウと名乗っていた人物の名前らしいが――そちらとは別の何かを彼女の名前に感じていた。かつて、アカシックレコード上で『コンテンツ流通を変えた人物』と言う記事で彼女の名前を見た事がある。その当時は名前を見ただけで、彼女が何を行った人物なのかを調べるような事はしなかった。彼女としては興味が全くない――と言う事なのかもしれない。
『伝説級のプレイヤーという事は、サイトでも書かれつつあるが――』
瀬川が実は別の小説等では最強のプレイヤーとも言われている。完全無欠や絶対無敵という様な物ではないのは間違いないが――弱点を安易にばらすようなまとめサイトは存在しない。
同時刻、ARスーツを含めた装備をしていないジャック・ザ・リッパーが、別のARフィールドに姿を見せた。
『要するに、泳がせたという事。あの芸能事務所に求めるのは――自分達の商法が全て間違っていたという謝罪よ』
アルストロメリアの言葉を、彼女は唐突に思い出した。ある勢力は芸能事務所AとJが荒らし尽くし、更地となったコンテンツ市場を再生させる――と明言した。更に別の勢力は芸能事務所2社が国会や広告会社とのマッチポンプマーケティングが終わりを告げようとしている――そう拡散していた。また別の勢力は芸能事務所2社の都合だけで動く歴史に終止符を――そう断言し、動画サイトでは該当発言の動画が100万再生を記録する。
「アルストロメリアは謝罪を求めている一方で、他の勢力は芸能事務所2社を消滅に追い込むだろう。そして、黒歴史と認定させ――闇に追いやる」
ジャックはペットボトルのコーラを口にしつつ、センターモニターの中継を見ていた。そこでのレイドバトルは、プロゲーマーやランカーから見れば――ままごと遊びにも見える可能性はある。
しかし、誰もが最初からプロゲーマー並の実力を持っている訳ではない。それこそ、異世界転生や異世界転移で最初からチート能力を持っているようなWEB小説を思わせる展開は――アーケードリバースには存在しないと言ってもいいだろう。
「それ程に超有名アイドル商法が賢者の石と呼ばれ、どれほどの損害や風評被害を他のコンテンツに与え、100万人以上のFX破産を生み出したのか――」
FX破産に関してはまとめサイトに書かれたネタかもしれないが、その例えが正しいという程にコンテンツ市場にダメージを与えたのは事実である。芸能事務所の謝罪だけでは生ぬるい――と考える人物に共通するのは、アイドル投資家を含めて異世界へ追放するというネタ発言が飛ぶほどだ。さすがにデスゲーム禁止という世界の中では、ネット上でも過激発言をすれば警察に即逮捕されると把握しているのだろう。つぶやきサイトの、こうした検閲等が一連のディストピアを連想しているというつぶやきもあるほどだ。
「この世界は――コンテンツ市場はどうなるのか?」
中継動画を注視しつつ、ジャックはこれからのコンテンツ市場がぶつかるであろう壁の存在を――予言していた。その壁が姿を見せるのは――レイドバトルの開催中であるとも考えられる。つまり、それが意味するのは――炎上マーケティングだ。




