エピソード59-2
・2022年7月8日付
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午前12時40分、お昼のワイドショーでは速報テロップで事件を伝えたのである。
【大手芸能事務所でドラッグ密売容疑で強制捜査。歌い手や動画投稿者が所属】
当然のことだが、このテロップはあるテレビ局では流されていない。国営放送でも流れていない。
【芸能事務所B、コンテンツ流通の違法行為により摘発される】
明らかに何かを伝えていないと言うよりも、視聴率稼ぎがあからさまなテロップを打ったテレビ局が――という具合だ。これに対し、ファンからは別テロップで放送したテレビ局に抗議のメール等を送ると言う展開となる。それをARゲームに対する批判としてまとめサイトが取り上げ、芸能事務所AとJのアイドルを信じれば救われる的なカルト集団的な方法が――と言うループが行われたという。これに関しては広告会社や芸能事務所A及びJ、カリスマ超有名アイドル投資家等が仕向けたのは火を見るよりも明らかなのだが――。
これらの炎上に関するレポートのあるにはあるのだが、事実が歪められている可能性もあるのに加え、不適切な表現を含む為――ここでは割愛する。
「やはり、こうなったか――」
ワンセグ放送で一連の報道を知ったのは、山口飛龍だった。大規模なテロ行為が芸能事務所A及びJ主導で起こり、それが本当にリアルウォーに変化したとしたら――クールジャパンどころではない。何としても、一連の事件を歪めようとする犯人を見つけなければ――と。
「特定芸能事務所にだけ無限の利益が与えられるようなノウハウ――それは賢者の石と同義だ。正当な報酬とは言えない――それこそ、不正ツールやチートと――」
山口はふと口にした言葉に――何かヒントがあると考えた。超有名アイドル商法が賢者の石と同じと言うのは、アカシックレコードの受け売りである。しかし、それを『正当な報酬』と言及しているようなレポートや記述はない――。それは暗黙の了解的に超有名アイドル商法が『チート』と明言化しているのは間違いないだろう。
「デンドロビウムのチートキラー、もしかすると――」
山口はタブレット端末のメールソフトを開き、即興で文章を打ち始める。その内容は武者道へのスタッフに対するメッセージ的な物だが、その内容は単純明快な物だった。
【アカシックレコードと言うワードを検索せよ】
おそらく、山口はアカシックレコードの正体は掴んでいない。しかし、その単語には大きな意味があるのは否定できないとも思っていた。だからこそ――つぶやきサイトでも言及され始めたと見ていたのである。
北千住の事務所、そこでアキバガーディアンのメンバーが目撃したのは衝撃の光景だった。
「なんだ、これは!?」
突入部隊のリーダーと思わしきパワードスーツ姿の男性は、本丸と思われた部屋を見て驚きの声を上げる。その場所は会議室だったと思われるのだが、大体の荷物は全て持ち去られた後だった。更には折りたたみ式の机とパイプ椅子、何かを売っていたと思わしきスペースもあるのだが――テーブル配置には疑問もある。しかし、周囲には監視カメラが設置されている形跡はなく、罠が仕掛けられている様子もない。
「まさか、テレポーターや自爆装置がある訳では――」
別のガーディアンが冗談交じりに言うのだが、ジョークとしては笑えないネタである。自爆装置と言っても、物理的に建物が爆発するような物ではない。そんな物を仕掛けていれば、爆破処理班を呼ばなくてはいけないだろう。あくまでも、これはARゲームであり、リアルウォーではないのだ。
「これは――!?」
別のメイド服を着た女性ガーディアンが、無造作に置かれていた本を手に取った。爆発物トラップの部類ではないのはARバイザーで確認済みの為、本のページをめくったのだが――。
その中身を見た女性ガーディアンは固まった。本の中身を見ての反応かもしれないが、周囲のガーディアンも困惑している。
「他にも雑誌の部類がないか調べろ! もしかすれば、密売していた物の正体かもしれない」
橿原隼鷹は他のエリアにも同じような物がないか調査するように指示、それを回収するようにも命じた。その支持は見事に的中する事となり、別の類似エリアでもダンボール箱を発見したという報告が入る。
調査に時間をかけてしまった関係もあるのだが、橿原はビルの外が慌ただしくなっている事に違和感を持った。ARゲームを見に来た野次馬にしては、どう考えてもテレビ局のスタッフが紛れていたり、中には週刊誌の記者等も存在するのだが――。
【大手芸能事務所でドラッグ密売容疑で強制捜査。歌い手や動画投稿者が所属】
このテロップを番組経由ではなく、つぶやきサイト経由で確認したガーディアンが橿原に駆け寄ってきた。彼の慌てっぷりを見ると、ARバイザーで表情は確認出来なくても緊急要件であるのは分かっている。
「どうやら、このビルは囮である可能性が――」
これだけのゲームフィールドを展開しておきながら、まさかの囮だったという発言には耳を疑った。特に橿原は別人経由で極秘情報を手にしていただけに――彼に騙されたとも考えるだろう。
「囮と言うのは早計だが、資料の確保はできた。地下ルートから撤退を行う」
橿原が地下ルートでの撤退を指示、ARバイザーにも地下ルートの最短距離が表示された。北千住もそうだが、地下は主にARウェポンやARガジェットの運送をメインとした地下道が整備されている。ここから地上にいるマスコミ等に気づかれず、別エリアへ向かう事も可能なのだ。
これらに関してはアキバガーディアンを含め、一部勢力しか知らない特別なルートでもあり、テレビでも企業秘密を理由に非公開としている。地下ルートは自然災害時の避難経路等でも運用される為、市役所の人間が知らないと言う事はないと思うが――実物を見た事あるのは一握りと橿原は考えていた。
「ここが囮だとすれば、他のガーディアンも――?」
別のアンテナショップへ繋がるルートに出る直前――ARスーツを装備した謎の一団が出口の前に立ちふさがる。これに関しては完全に想定外と言えるだろう。あれだけの激闘の末、手に入れた資料を他の勢力に取られてしまうのか――とも考えた。
『橿原隼鷹――完全に利用されたな、あの人物に』
目の前に姿を見せたのは青騎士ことスレイプニル。つまり、都市伝説となっている本物だった。これには橿原も驚きを隠せないと言うよりも――。
「スレイプニル、お前もか! 芸能事務所と手を組み――ARゲームをオワコンにしようとしているのは?」
橿原は勢いでガーディアン内でも禁句とされているNGワードを口にしてしまった。これを口に出せば、他のまとめサイトでコンテンツが歪んだ意味で拡散し、それこそアンチによる活動やまとめサイト勢にも燃料を与えてしまう。更には、芸能事務所AとJが持っている賢者の石とも言えるアイドルビジネスのノウハウ――その価値を高める結果を生みかねない。
『私は君たちの言う青騎士ではない――』
青騎士の使うボイスチェンジャーをカットし、スレイプニルはARメットを外した。しばらくするとARアーマーもCGの様な演出で消滅し、そこにはサイバー忍者を思わせる女性の姿があったのである。
「お前は――ハンゾウ? いや、違うな――瀬川アスナ」
橿原は目の前の人物が向こうではハンゾウと呼ばれている人物だと確認した。頭に血が上っていた関係もあり、それこそマスコミが偽装した青騎士とも思っていたらしい。
「その名前で呼ばれるのもアカシックレコード的には運命と思うけど――悪くないわね」
ハンゾウの正体、それはアカシックレコード上でも特別な存在と言われている瀬川アスナだったのである。彼女は改めて、メガネを取り出してかけ直す。そして、橿原にあるデータを転送した。そのデータの正体は、ダンボール箱の資料の正体を示すあるカタログだったのだが――。
「これを渡して、どうするつもりだ?」
「それをどう扱うかは自由よ。貴方達にだけ、情報を開示しないのは不公平と判断しただけ」
その後、瀬川の姿はなかった。一連の部隊も既に撤退しているようだ。そして、橿原は転送されたデータを開くと、謎の文字列等に頭を痛める。
「これって、フジョシの――」
その一言を放ったのは、先ほどの本を見て赤くなっていたメイド服のガーディアンである。どうやら、あの場で売られていたのは歌い手や実況者の夢小説だったようだ。しかも、人物名は判別出来ないようにしている物もあれば、全く隠していないような物もあったのである。
「なるほど。これをドラッグ扱いとして摘発し――」
橿原は何となくだが、あのメールを出した人物の意図を理解した。既にマスコミや広告会社等が炎上させている為か、一足遅い気配もするのだが――。




