エピソード58-5
・2022年7月7日付
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9月3日、ある意味でも想定外の事件が起こる事になった。それは、芸能事務所AとJとは違った芸能事務所が抗議をしたという事である。何に抗議をしたのかと言うと、想像に難くないだろう。前日、ネットのニュースにもなったアレなのだから。
【これはどう考えても勘違いだろう?】
【八つ当たりはみっともない】
【これは、もはや芸能事務所側が自爆したとしか――】
【全ての芸能事務所が芸能事務所AとJの子会社的なレッテルを貼られかねない】
【しかし、この芸能事務所は聞いた事がない。テレビで有名ではない所か?】
【確かに――大手の事務所とは雰囲気も違う】
【もしかすると、これ自体が釣りかもしれないな】
ネット上では、抗議した芸能事務所がテレビでも聞かないようなマイナー事務所だった事で釣り記事と考えていた。しかし、ネットで検索すると――思わぬ所だった事が発覚する。
【えっ!?】
【ちょっと待ってくれ、実在事務所なのか?】
【作られたのが半年前だから、認知度が低かった可能性も高い】
【しかし、その事務所が訴えたのはどういう事だ】
【所属アイドルに関係してるのか?】
【実は違う。所属しているのはアイドルでもなければ声優等でもない】
【それで芸能事務所を名乗るのか? まさか、まとめサイトの管理人でも芸能人化しているのか】
半分は冗談で言ったと思われるまとめサイト管理人の芸能人化――これは全くだが当たっていない。しかし、この発言がまとめサイト等で拾われ、ワイドショーでも取り上げられた事で炎上する事になるのだが――それは別の話である。
午前11時、鹿沼零が何時も通りに草加市役所に足を運ぶ。ARゲーム課に立ち寄ったのは午前10時だったが、別の用事でアンテナショップへ向かい、再び戻ってきた形だ。そこで、一連の芸能事務所が抗議した一件及び話の流れを駆けつけた男性スタッフから聞いたのだが――。
『その芸能事務所は本社が何処にある?』
ARバイザーの関係で表情は確認出来ないが、声のトーンで激怒しているのは周囲のスタッフにも分かった。あまり激怒するような人物ではないと言う事で市役所でも有名な彼だが――初めて激怒する場面を見たような気配でもある。
彼の場合は表情で怒っていると分かるのではなく、声で分かるのだ。普通は怒っているような喋り方でなくても、周囲の人物によってはケースバイケースで激怒しているように感じる。自転車に乗った状態でスマホを操作、歩きながらの喫煙――こうしたマナーを守っていないような人物を見て、警察に通報したいと思う様な人物もいるだろう。今の鹿沼が激怒しているのは――そう言う理由でもあった。
「本社は東京です。確か、足立区に出来たとかニュースでも――」
スタッフから場所を聞き、即座にタクシーでも呼ぶのかと思ったが、鹿沼はARバイザーで芸能事務所のサーチを行う。まるでカチコミに行くとか――秘密基地に乗り込むようなノリである。しかし、芸能事務所の名前を発見して住所を検索した辺りで、鹿沼はため息が出た。先ほどのテンションが嘘みたいな流れには、周囲のスタッフや職員も驚いている様子である。
『なるほど。本社は北千住か――』
しばらくして、鹿沼の怒りも収まっていった。そこまでの電車賃が請求できない訳ではないのだが――。今は草加市の方で忙しい事もあり、他の場所へ遠征等へ行くのはリスクを伴う。そこで、彼が取った行動――それは別の組織への情報提供だった。
しばらくして、秋葉原での周辺警戒をしていたのはアキバガーディアンのメンバーが何かのメールを受信する。
「このメールは?」
ガーディアンのメンバーは、共通のスーツを着ている訳ではない。警備員のアーマーなのは、支部のメンバーや一般兵に限られる。一部のネームドプレイヤー等はゲームやアニメのコスプレをしている事が多いのだ。これによって、周囲と混ざろうと言う考えらしい。逆にコスプレイヤーと言う事で、AV出演などに声を掛けられそうな気配もするが――コンテンツ流通を阻害する存在は、何処だろうと容赦する事はないだろう。その勢いはARゲームにおけるチートキラーと同じであり、デンドロビウムの行動は彼らを参考にしたのかもしれない。
「何処かの芸能事務所らしいな。これはリーダーに報告しておこう――」
スーパーヒーローのコスプレをした男性メンバーが、リーダーへと該当メールを送信した。その数分後には該当箇所へ向かうように指示が出される事になるのだが――。
メールを確認したリーダーと言うのは、橿原隼鷹である。ワンオフ制服を着ている理由は別所へ向かう用事があった為だが、メールが来た事で予定が変更になった。
【北千住の芸能事務所に炎上案件あり。至急、該当するであろう組織は向かわれたし】
どう考えても何かが抜けているような文章である。添付されていたURLには芸能事務所の住所が分かるホームページもあるのだが――。
「まさか、こういう事務所を摘発する事になるとは――。管轄外な気配もするが、向かわせるべきか」
橿原はホームページの内容を見て、自分には無関係とも考えていた。この芸能事務所に所属しているのは、いわゆる動画サイトで有名になった歌い手や実況者、動画投稿者の所属する事務所だ。彼らを題材とした夢小説が拡散している件は――芸能事務所A及びJとは無関係であるが問題になっている事件である。
ARゲームに対し、彼らの人権保護を求めていたようだが、それが夢小説勢を駆逐して欲しいという文面に都合よく書きかえられていた。それを仕掛けたのが仮に芸能事務所A及びJだったとしても――芸能事務所同士のライバル潰しに協力するのも、彼にとっては機嫌が悪くなるような案件である。それでも行くしかなかったのには、更に理由があった。この事務所を摘発すれば、例の情報に近づける可能性がある――そう鹿沼が明言したのである。
「噂の事件の真犯人――誰なのかは察しが付いているが」
噂の事件とは、ARゲームアニメを模倣したような事件の事を指す。ネット上では特定の名称で説明されていない為、メディアによって表記揺れも多い。
「アルストロメリア――彼女の狙いは、コンテンツ流通の何だ?」
橿原もアルストロメリアが犯人であると考えている人物だった。例のサイトを含め、彼女の行動には不審な物がかなり多く存在し――そのうえで、一部経歴が不明なのも拍車をかけている。




