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ARゲームに挑む我侭姫とプレイヤーたち-不正破壊者の我侭姫-  作者: 桜崎あかり
ステージ5

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エピソード58-2

・2022年7月7日付

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 ジャック・ザ・リッパーとしては誤算があった。ARアーマーをレイドバトル仕様にカスタマイズしたはずが――裏目に出たと言えるだろう。本来のジャックはスピードタイプであり、あのマントや軽装備だった事も一撃離脱戦法をメインとしていた為である。しかし、レイドバトルで速攻は出来ないだろうと考え、火力重視にした結果が――今回用意したARアーマーだった。


 それが思わぬ所で誤算を招いていたのである。それがアルストロメリアの存在――ライバルプレイヤーの出現だった。


「本来であれば、他のプレイヤーを無視してレイドボスのHPを削れれば――そう思っていた」


 見通しが甘かったと言われれば、それまでなのかもしれないが――。ジャックとしては火力で対応出来ればゴリ押しでなくても攻略は可能と考えていた。しかし、ライバルプレイヤーがスピードタイプで止めだけを――という事を考えていなかったのである。レイドバトル系を実装したソシャゲでは、残りライフがわずかな所で止めだけを担当するようなプレイヤーも存在していた。アーケードリバースでは、立ち回り的に似たような行為は不可能だろう――そうジャックは考えていたのである。


 しかし、その見通しは甘かった。不可能と思いこんだ事が、ジャックの敗因なのかもしれない。ARアーマーはアーケードリバース内で途中パージやカスタマイズは出来ない事になっている。唯一の例外は搭乗型の大型ガジェットやオプション武器だが、こういうケースは特例とも言えるので――基本的にはフィールドへのログイン後は不可能と言ってもいいだろう。


【ジャックのメインはスピードを生かした一撃離脱戦法――レイドバトルでも、それで行けばよかった物を】


【あの装備ではジャックの持ち味が生かせない】


【しかし、ブースターの出力は高速タイプに近いのでは?】


【対人戦では――それでもよいだろう。しかし、問題はレイドバトルだと言う事だ】


【レイドバトルの場合、協力プレイが必須だ。しかし、それはプレイヤー同士で連携が取れている場合に限る】


【いつぞやのRTAリアルタイムアタック勢力が無双していた時は、そうではなかったと?】


【その通りだ。あれは明らかに自分が首位になろうと足の引っ張り合いをした結果でもある――】


【しかし、それでも会った事のないようなプレイヤーと連携を取れと言うのか?】


【別のFPSゲームではマッチングシステムも完備していたし、いざとなればCPUと組むことだってできる】


【アーケードリバースの場合は、色々な個所で手探りの部分が多い。おそらく、ネット炎上で評判が落ちるのを懸念した結果だろうな】


 ネット上では様々な考察が行われている。ジャックの装備ミスに関しては一部で指摘する程度であり、アーケードリバースのマッチングがレイドバトル向きではなかった事を指摘しているのが大半だろう。そのタイムライン上に超有名アイドルの宣伝目的とされるつぶやきも混ざるのだが、それらが表示される事はない。NGワードに引っ掛かったというよりは、何らかのトラブルで書き込みに失敗したと言うべきか。



 レイドユニットの形状は、レールガンを装備した重戦車だった。人型ロボットや恐竜という報告もあったのだが――エリアによって種類が違う可能性も高いのだろう。このエリアは市街地に近いような形状をしており、重戦車と言うデザインもフィールドに合わせた物かもしれない。戦車の火力は相当なもので、主力兵器のレールガンは射程距離内であれば一撃で沈む。


 しかも、バリア系も貫通する能力を持つ。それ以外にはビームガトリング砲、ミサイルランチャー、単発式の40ミリオーバーの主砲と言った所か。主砲及びレールガンに関しては至近距離に潜り込めば射程外となるので、対策は可能だろう。問題は――至近距離に潜り込んでもビームガトリングで蜂の巣にされる可能性だ。


 こちらの火力は大したことがなく、一発単位ではダメージは微々たる物と言える。しかし、ビームガトリングは秒間100発位が当たり前のスピードで撃ってくるので、接近戦も困難を極めていた。


【レイドバトルだからと言って、運営がチートユニットを投入するのか?】


【RTA勢力が介入した事で、難易度を唐突に上げてきたのか?】


 前日の事例を踏まえれば――こういう炎上を招くような発言が出るのは当然だろう。しかし、全く弱点がない訳ではない。レールガンも1発撃てばチャージまで1分はかかるし、主砲もターゲットを狙うのにラグが存在している。こうした部分を踏まえれば、攻略不可能と言う訳でもないし、レイドユニットは一度出現すれば撃破されるまでHPが回復する事はない。


 単純な事を言えば、自分達のやってきた事を棚に上げての炎上発言なので、こうした発言は無視をするに限る。しかし、それでも気にするような人間がいて、ネット炎上を招くような要素がある限りは――悪目立ちするような人間は根絶される事はないだろう。



 ゲーム開始直前、アルストロメリアはジャックに提案をしていた。その提案とは――。


「レイドバトルの際には、ダメージを与えた数値がスコアとして計算される。1回のバトルで集計されるシステムだ」


「つまり、このバトルでのスコアが高い方の勝ち――と言う事か」


「話が分かりやすくていい。もしも負けた場合は――そのARバイザーを脱いでもらおうか?」


「そっちが負けた場合は――どうする?」


 話は進んでいき、重戦車にダメージを一番与えたプレイヤーの勝ちと言う事になった。仮に他のプレイヤーが勝った場合は無効試合とでも考えているのかもしれないが。


「こちらが負けるなどあり得ないが――お前にだけ、ある秘密を教えてやろう」


 アルストロメリアは若干本気だった。何の情報なのかは不明だが、それを教えると言う。当然だがジャックにだけ得をする情報と言う事で、ギャラリーには教えないようだが。逆にジャックが負けた場合はARバイザーを脱いで正体を見せろ――と。定番と言えば定番か。


「ある秘密とは――何だ? まさか、ビスマルクの正体やガングートの正体と言う訳ではないと思うが」


「既にネットで拡散しているような情報は秘密とは言わない。情報の価値は――かなりの物と断言してもいい」


 アルストロメリアも自信があるような情報――それを教えると言う事らしい。ビスマルクやガングートに関してはネット上に拡散しており、価値がある情報ではないだろう。それに加えて、ふるさと納税やARゲーム課の情報とも思えない。ジャックは――本当に自分が得するような情報か聞きだそうとした。


「デンドロビウムの正体――と言えば、察しがつくだろう」


 その発言を聞き、ジャックは確かに価値のある情報だと確信する。我侭姫ことデンドロビウムの正体はネット上でも様々な考察が出ているのだが、どれもネット炎上を想定して用意されたダミーでしかない。アルストロメリアの声のトーンからしても、彼女は明らかに何かを知っているような口調だ。


「そう言う事か――ならば、勝負だ!」


 ジャックは勝負を受ける事にする。デンドロビウムの行動には一部で謎の箇所が多い。考察等も盛り上がっているのは事実だが、都市伝説クラスやまとめサイトの偽情報と言う物も圧倒的だ。だからこそ――彼女の正体を知る事は、一連の事件が起きた理由を含めて――最大の近道と言える物だろう。


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