エピソード55-3
・2022年7月6日付
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デンドロビウムが辿り着いたある物――それはアカシックレコードだった。アカシックレコードと言う単語自体は固有名詞かもしれないが、特定の作品等を指すものではない。過去・現在・未来の全てが描かれたデータベースである事は、大手サイト等を調べれば多くヒットするだろう。アカシックレコードにアクセスし、その内容を文章として書くことでアカシックレコードの内容が――と言うのも大手サイトの受け売りだ。
しかし、デンドロビウムが発見したアカシックレコードは誰でも閲覧できるような状態で放置された――サイト跡地に近い物である。サイト跡地と言うには、アフィリエイト広告も最近の物が表示され、ランサムウェアの様な物も仕掛けられている気配がない。しかも、このサイトにはWEB小説が新しく投稿されている形跡もあったのだ。つまり――サイト跡地という表現は偽装と言えるかもしれない。何から欺く為なのかは、容易に想像出来るが――。
その内容はデンドロビウム自身も口を押さえたくなるような物で――それを一言で表現する事は難しい。アカシックレコードの内容を解析しようと言うサイトは存在するのだが、その半数以上が解析とは名ばかりの超有名アイドルを持ち上げてアフィリエイト収入を得ようと言う典型的なアフィサイトだ。その原点がここにあると考えると――彼女は何としてもアカシックレコードをこの世から消し去ろうとも考えたくなる。
彼女はサイトの文章をいくつかチェックし、その内容に何かの共通点を発見する事が出来た。それは――エッセイと言う方式で超有名アイドル商法や歌い手や実況者の夢小説に関する一件、その他にもマスコミの問題――そう言ったコラムが投稿されている。小説サイトなのにノンフィクションを投稿するとは矛盾が――と思ったが、落ち着いて考えると『ここに』書かれている事は基本フィクション――虚構だ。
「どの文章の固有名詞も、この世界には存在しない物ばかり――どういう事だ?」
デンドロビウムも困惑するような単語の数々に――最初は言葉も出なかった。しかし、ある程度は自分の世界にもあるような単語も存在しており、完全にノンフィクションと言えるのかも疑わしい。つまり――ここに書かれているエッセイは『別の世界』から投稿されたWEB小説を掲載しているサイトと言う事だ。そうなると、このサイトこそが第4の壁さえも打ち破るような存在と言えるのかもしれないが、色々と疑問点が浮かんでくる。
「おそらく、これらの文章は電波や予言を受信して書かれた――あるいは、それこそ創作のネタをノンフィクション風味にしている可能性だって――」
文章の内容が同じようなワンパターン物を多く見かける。それから今回の件に関係する文章を探すのも一苦労かもしれない。一方で、特定のキーワードに関しては検索をしても0件と言う事実も判明した。例えば戦争、大規模テロ、紛争――流血のシナリオと言った物はいくら検索してもエラーが表示される。0件と言うよりは、数件あっても削除されている可能性も否定できないだろう。
逆に超有名アイドル、芸能事務所、歌い手、実況者、コンテンツ流通、フジョシ勢力、夢小説と言った物は多いように思える。こちらも直接的な表現に近いキーワードは検索エラーが出るようだが。
「このサイトが数日で作られたとは考えにくい。事前に仕込みでもあったのか――」
彼女は考えた――が、結論が出る事はなかった。一連の超有名アイドル商法を巡る炎上事件、青騎士騒動、それにアーケードリバースを巡る事件――それらの理由が、アカシックレコードにあるとしたら? この件を解決させようと焦れば、レイドバトルに集中できなくなる可能性だって否定できない。
「ARゲームに政治的思想や超有名アイドルの宣伝等を持ち込むのが禁止されている理由――」
彼女はテーブルに置かれていた自分のARガジェットで改めてARゲームのガイドラインを確認する。一連の禁止行為には、プレイヤーの殺傷行為や八百長行為等と同じクラスで禁止されているのがネット炎上行為だった。何故、ネット炎上を殺傷と同列で並べて禁止としたのか――。
「アカシックレコードを読める事は、ARゲームにとっても有利に働くのか?」
チートプレイと同列で語る事自体はアレかもしれないが――アカシックレコードの存在はARゲームにとって何に該当するのだろうか? それ次第によっては、大きく状況が変化するのは間違いない。
レイドバトル前日の8月31日にはアンテナショップでも強力なガジェットを求めるプレイヤーが訪れたと言う。しかし、金に物を言わせるような廃課金と例えられる人種、レイドバトルで1位になろうとして卑怯な手を使ってでも――と言う人種が、がどのような末路をたどるのかは想像に難くない。
【ガジェットって、値段で変わる物なのか?】
【カスタマイズ型のパソコンじゃあるまいし、そこまでは――】
【だからと言って、汎用のガジェットでは勝ち目がないという訳ではないだろう】
【ワンオフと言う概念もあるのだが、それはプレイヤーの使い勝手的な部分に依存する。他のプレイヤーが容易に扱えるわけがない】
【ソシャゲやTCGの様に『このカードがあれば勝てる』的な要素は――切り離した方がいい】
【ARゲームで求められるのは、あくまでもプレイヤーの技術だ。それこそ、チートプレイでなければ勝ち目がないと思わせるほどの――】
【さすがにチートプレイ推奨の発言は、運営に削除されるだろう】
【それは、あくまでも例え話。最終的には実力の差が勝負を分けると言う事だ】
つぶやきサイトでも、ガジェットを強くしただけではレイドバトルには勝ち残れない事が言及されていた。ランキング報酬等は明言されていない物の――ARゲームと言う事もあり、相当な物が期待できるとも言われている。
【しかし、アーケードリバースは草加市が運営しているようなものじゃないのか? 賞金が出るとは思えない】
【ふるさと納税的にも――そう言う利用方法は想定していないだろうな】
【イベントなのに参加賞もないのか?】
【ARゲームの場合は、ARガジェット等で使用出来る電子マネーが賞金代わりに出る事もあるし、別のARゲームでは100万円クラスの賞金が出る】
【どちらにしても、過剰な期待はしない方がいいという事か】
草加市が運営に参加している以上、そこまでの賞金は出ないとも言及されたが――公式発表ではない。あくまでも申し訳程度の参加将位は出るのではないか――と言う意見もあったが、支持される事はなかった。




