エピソード55
・2022年7月6日付
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8月31日、自室にこもって動画を集中的に視聴していたのはアルストロメリアだった。
『お前達が私に挑んだ事こそが――』
見ていた動画は、かつて視聴した事のあるデンドロビウムの動画だ。おそらくは、彼女の攻撃パターンを研究する為なのだろうか? デンドロビウムが左腕に転送した武器、それはビームサーベルと言っても過言ではない形状の武器――。
「彼女の呼び出した武器――そう言う事か」
瞬時にして鞭のようにしなり、高性能とも言える追尾能力でターゲットを確実に仕留める。剣のようでもあり、鞭のような動きをする武器――それを蛇腹剣だと見破った。しかし、使い方が若干荒いような気配を感じ、蛇腹剣を使用したのは武器の試し切りと言う可能性を考える。
1振りするだけで相手を一撃で沈黙する様子は――チート疑惑が出てきそうな気配がしていた。実際、敵を一撃で倒せるような武器はアーケードリバースには存在しない。唯一ある特殊ケースはチートガジェットの撃退用に用意された特殊なガジェットだ。俗に言うアガートラームと呼ばれる武器――アカシックレコードでの名称だが、チートキラーの機能を持っている。
「不正破壊者の我侭姫か――」
アルストロメリアは動画をいくつかチェックしつつ、ゲーマーの弱点を研究し続けた。しかし、過去のデータだけでは倒せないのは百も承知である。データを過信して負けるケースは一種の負けフラグだ。
『チートや不正ツールを使って、恥ずかしくないのか?』
デンドロビウムの発言は一理ある。不正アイテムなどを使い、イベントで1位を取ったとしても――失格になるのは目に見えているのに。結局は一瞬でも目立ちたいと言う欲望が、ARゲームのチート行為に手を染めるきっかけになっているのだろうか?
8月31日と言えば夏休みの最終日――。しかし、アーケードリバースをプレイしているユーザーは大体が18歳以上だ。専門学校や大学に通うようなプレイヤーがいるのかもしれないが、レイドイベントに参加するのは社会人が多い。おそらくは資金的な事情でプレイできない学生には厳しいイベントと言う認識も高いだろう。
【ソシャゲでレイドバトルだと、回復アイテムのストックがあればゴリ押しもできるだろうが――】
【ARゲームは1クレジット100円だとしても――日程や時間、様々な事情でプレイ出来るのは1日2回、あるいは3回が限度か?】
【100円2クレはさすがにないと思うが、混雑が多いフィールドだと――学生が不利過ぎる】
【連コインをするようなプレイヤーは、さすがに出てこないが――そこまでやるとネットが炎上するのも目に見えているな】
【それに、VRゲームとは違って――体力も使うだろう? スポーツマンや格闘家でも感覚がつかめないと、苦戦すると言う話だ】
【ARゲームって、そんなに難しいのか?】
【難しいと言うと認識の違いがあるのかもしれない】
【VRゲームとARゲームの違いが分からないという時代もあったが――】
【VRゲームと混同するような人間は、大抵がゲームの知識がないエアプレイ勢と言う認識だ。あっさりとネット炎上して自滅するタイプでもある】
ネット上では、様々な不安等も聞かれる。それ程にレイドバトルがアーケードリバースでは初めてのイベントと言う事になるだろう。このイベントが大失敗となると、草加市としても方針転換は避けられないし、ふるさと納税の存在理由さえも揺るぎかねない。
草加市が大失敗すれば他県にとってライバルが減ると言う考えを持つ都道府県もあるだろうが――そんな事をつぶやきサイトで発言すれば、即炎上は避けられないだろう。それに、そんな事をすれば選挙戦にも影響が出るのは明らかで――政党によっては最大の汚点にもなるかもしれない。
「さすがに工作員がネット炎上するようなケースは――今のタイミングでは目立たないで終わる。それを分かっているのか――」
つぶやきサイトをチェックし、何かネット炎上につながる発言をしているか探っていたのはガングートである。超有名アイドル商法や炎上マーケティングには情報戦と言う物があり――それがリアルウォーにも繋がると警告している人物もいたほどだ。おそらく、仕掛けるとしたら絶好のタイミングで仕掛けるのだろう。それは、今日ではない。
「仮に仕掛けても、夏休み最終日ではあまり目立たないで終わるだろう。それよりも絶好のタイミングは、レイドバトルの初日以外の――」
ガングートは思うのだが、大体の仕掛けるタイミングは――アイドル投資家や工作員によって違うだろう。一番狙うのは推しアイドルのCDがリリースされる前日辺り、超有名アイドルの出演する番組の放送当日が狙い目とされているが――レイドバトルは、そうした日程を外したスケジュールが組まれていた。




