エピソード53-8
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・7月10日付
次エピソードを踏まえて、若干の細部調整。誤植修正:だがー⇒ダガー
・2022年7月5日付
行間調整版へ変更
フードコーナーに足を運んだデンドロビウム、予想外とも言えるタイミングでガングートと遭遇し――。
「このサイトを見て、何か覚えはありませんか?」
彼女のタブレット端末に表示されていた物、それは2年前位のアニメ作品の公式サイトだった。その内容は町おこしやご当地ヒーローを題材にした物なのだが、タイトルはARパルクールを題材としたそれとは異なる。
「このアニメを再現している訳ではなく、ヒントを得ているとしたら――」
ガングートは、このアニメ作品が一連の騒動の元凶と言う意味で見せた訳ではなかった。ARパルクールを題材とした、あの作品は――。
「ヒントにしていたとして、アイドル投資家を名乗る工作員が便乗炎上を――とは違うのだろう?」
「迂闊に工作員と言う単語は使うべきではない。アイドルファン全てが工作員という例えは――」
ガングートはデンドロビウムが工作員と言う単語を出した事に関して、迂闊だと言及した。自分も過去に類似案件を起こしていた事――それに関しては未だに忘れていない。その時の失敗が、今のガングートの環境を生み出したと言えるのだ。
「そこまで分かっている以上は、知っているのだろう? 今回の事件を主導した犯人を――」
ガングートの様子が変わった事に関して、デンドロビウムが見逃すはずはない。そこから、本当に倒すべき相手――真犯人を聞きだそうとしていた。
「そこまでこだわる理由は何だ――ネット炎上か? それとも、特定団体に対するやり方の批判か?」
ガングートは元凶を潰しても、第2、第3の~と続く事に懸念を持っている。こうした流れは自分の所属していたアイドルグループが炎上した時の事もあるので、デリケートなのだが――。
「特定団体か――広告会社や一部の芸能事務所が行っている炎上マーケティング、タダ乗り便乗宣伝は――到底許せるものではない」
これを聞いたガングートはやっぱり――という表情をしている。結局、彼女も復讐に囚われている人物なのか――。右手には握りこぶしを作っており、何かのトリガーが引かれれば――殴り飛ばしかねないだろう。しかし、暴力で全てを解決させようとすれば――金の力で無双したり圧力でライバル会社を潰す芸能事務所と変わらない。自分の失敗は他の人間にして欲しくない――と、怒りの表情を押し殺しているガングートの葛藤――それが、目の前にあったのである。
「こちらとしては暴力に訴えたとしても、結局は同じような行動をとれば英雄になれると勘違いする人間がいる――それに、これはARゲームだぞ?」
デンドロビウムは、いつの間にかテーブルにあったスイーツを食べ終えていた。その上で、スマホをガングートに向けている。スマホの画面を見ると――そこにはARゲームのガイドラインが書かれているページが表示されていた。
【ARゲームでは、いかなる場合でも殺傷・大規模テロ等に該当する事件を起こす事を禁止する】
【ARゲームは――特定の権力者や芸能事務所が独占するべき技術ではありません】
【ARゲームは、特定プレイヤーを誹謗中傷するツールではありません】
【ARゲームのプレイヤーは実在人物です。夢小説等の題材にして不当な利益を得る事は論外です】
【ARゲームでのチートビジネスは禁止しております。最悪の場合は――】
ガイドライン自体は様々なサイトで改変されて掲載されているケースがあるが、こちらは過去にふるさと納税サイトで掲載された物らしい。つまり、このページは本来であればアルストロメリアが――。
「炎上マーケティングは、それこそ悪ふざけでネットを炎上させ――人生を終わらせてしまうことだってある」
ガングートも反論するのだが――その言葉に何時もの様な気力がない。それを見たデンドロビウムも、さすがに精神攻撃が過ぎたか――と若干反省する。
「これだけは改めて言っておこう。ARゲームをプレイしている以上、そちらのルールに従って動いている――」
デンドロビウムの方はテーブルから立ちあがり、空っぽのコップなどを返そうとしている所だ。
「ARゲームは、悪乗りでフィールドを炎上させて良いような場所じゃない。ゲームは楽しく、正しく、マナーを守ってプレイする物だ――違うか?」
そう言い残して、デンドロビウムはカウンターの方へと向かう。どうやら食券方式の支払いなのだが――食器はセルフと言う事らしい。
一方で谷塚駅に設置されたモニターを見ていたのは、ハンゾウだった。彼女も草加市内でアーケードリバースをプレイしているのだが、思ったスコアが出ない状況である。
しかし、忍者のコスプレはギャラリーに人気が出ており、プレイスタイルよりもコスプレと言う部分で有名になっていた。そんな中でのあるプレイ――それが、大きな事件に発展しようとしていたのであるのだが。
「他のソーシャルゲームとは感覚が違うのは分かるけど――納得できない」
ハンゾウはダブルスコアに近い形で敗北する。彼女の所属は赤チーム、相手は青チームだったのだが――。ゲージの残りを見ればダブルスコアに近いのは明白、青チームのゲージは80%寄りも下回っていない。
『納得できない? これが実力差と言う物だ』
相手チームは重装甲をメインとしており、素顔もARメットの影響で見えない――のはハンゾウも一緒だが。それでもガジェットの差で負けた訳でもないので、ハンゾウは納得が出来ないのである。
「チートガジェットでも使ったの?」
『アーケードリバースでは、チートガジェットの規制が強化されている。それに、数日後にはレイドバトルだ。チート規制が加速するのは当然だろう?』
「チートガジェットでないにしても――レベルから見ても実力は大して変わらない」
『初心者狩り対策がされている以上、レベルを偽装でもしない限りは戦力差が生まれないだろうな』
『しかし、レベル偽装なんてすればツールの使用を疑われるだろう?』
『それに――ARゲームでのサブアカウントは禁止行為として、凍結対象にもなっている』
レベルの事を言及された時は、他の青チームプレイヤーからもツッコミを受ける事になり――ハンゾウとしては圧倒的に不利。この口論とも言えるようなフィールドに割り込もうと思うプレイヤーはいなかったようで、青チームのメンバーは既にログアウト済みだ。
「まさか――」
『その通りだ。このガジェットは違法手段で強くした訳ではない。だからと言って、お前の言う様なチートガジェットでもない!』
彼の方はチートを完全否定し、その直後に見せたのは別の端末だったのだが――それを見せた事でハンゾウの怒りを買う事になった。
「廃課金勢――ARゲームでは賛否両論だけど、問答無用でチートと同類じゃないの!」
ハンゾウは遂にARウェポンのビームダガーを構える。ゲームは終了しているのだが、第2ラウンドを行う気らしい。彼女はソーシャルゲームでも問題視されている廃課金さえもチート扱いと考えており――。




