エピソード53-5
・2022年7月5日付
行間調整版へ変更
プロゲーマーの肩書も持っているガングートだが、国内プロゲーマーではなく海外プロゲーマー扱いとなっている。その理由は彼女の国籍が異世界となっている事も理由の一つだが――それだけではないと言うサイトもあった。
【プロゲーマーがARゲームに進出する理由も分かるが――】
【他社ゲームの宣伝の為、自分の知名度を上げる為、様々な理由があるだろう】
【その中でもガングートは異なるだろうな】
【何故だ?】
【彼女は海外ゲーマー扱いだが、世界地図にあるような国のゲーマーではない】
【まさか?】
【その、まさかだ】
【なん……だと……】
【あり得ない! 何かの間違いじゃないのか?】
【ガングートは日本政府から日本出身である事を否定されている――という都市伝説は知っているが】
【えっ!? ガングートって日本人じゃないのか?】
【ネット上の一部サイトでも言及されているが、彼女の国籍は異世界と言及されている】
【コスプレイヤーと言う事で出身地を変えている訳でなく?】
【本来の職業を偽装する為か?】
【そう言う訳ではない。現に――彼女がAVデビューした形跡などは存在しない以上、その路線は否定される】
【ガングートは元々、地下アイドルだったという情報も一部で拡散しているほどだ】
【地下アイドル? 確かに――見覚えある顔だったが】
つぶやきサイトのまとめでも、ガングートの正体に迫るようなコメントが目立つようになっている。そして、彼女の国籍が異世界である事も隠し通せる状況でなくなっている気配もした。
『ガングートの異世界出身説は――これで証明されたのか』
スレイプニルは、様々なアンテナショップでまとめサイト等を確認しているのだが――。その巡回中に思わぬ情報を発見する――そして、スレイプニルは確信した。
『しかし、この目で確認出来るようなイベントがあれば――?』
まとめサイト以外で発見したのは、アーケードリバースのレイドバトルイベントの告知だった。これを見て、スレイプニルはニヤリと表情を変化させる。ただし、ARメットを装着している関係で表情は――。
『なるほど、レイド戦か。この形式ならば、特定プレイヤーが出入りしている場所を当たれば――』
レイドバトルと言っても、ランダムマッチングではない。ARゲームでも、さすがに莫大な情報量をデータ転送するような技術は確立していないだろう。リズムゲームのマッチング等の情報量が少ない物であれば、関西圏でも一部で稼働しているARゲームで何とかなる――。しかし、情報量が非常に多い草加市内のARゲームは――現状の技術では、ラグがひどくてプレイできないと言う悲鳴が聞こえるかもしれない。
それだけの莫大な情報を処理できるような光回線等が開発されれば、おそらくは実現できるだろう。そこまでのデータ処理が可能だとしたら、明らかに軍事転用されるのも目に見えているかもしれない。ある意味でも、ARゲームの技術が軍事転用禁止と言われているのは――こうした背景があるのだろうか。特許が芸能事務所A及びJに独占される事も危険であるのだが、それ以上に危険なのは軍事国家に技術が流出する事かもしれない。
午後1時、草加市役所でテレビを見ていたのは鹿沼零である。市役所と言っても、ARゲーム課の個室なのでARメットを装着したままだが――。
『先ほど届いた速報です――本日早朝、あるまとめサイトでハッキングを行ったとしてアイドルファンである少年が逮捕されました』
鹿沼も目を疑うような内容のニュースが飛び込んできたのである。まとめサイトの内容を改ざんしようとハッキングを仕掛けた人物が逮捕され、その人物が未成年である事が報道された。本名は未成年なので公表される事はなかったのだが、それ以外の情報で誰なのかはネット上であっという間に特定される。
『逮捕された少年の部屋からは、芸能事務所Aのファンクラブ証とメール、1000兆円の通帳が押収され――』
1000兆円という資産を持っているような未成年と言うと、どう考えてもアイドル投資家以外は考えられない。それに、芸能事務所Aが出てくると言う事は――人物も絞られてしまう。それを踏まえると、実名が公表されなくても――特定されたも同然だった。
『ハッキングをしてまで、ARゲームの人気を落とそうと考えるのか――あの芸能事務所は――』
鹿沼はテレビにコップを投げつけるような位の怒りがこみあげてきたのだが、そんな事をしても状況は変化しない。ARゲームの評判を落とすようなまとめサイトを特定し、それを通報する方が健全とも言えるだろう。その手法を行っているのが、鹿沼にはアルストロメリアだと分かっていても――。
『しかし、まとめサイトを彼女ばかりに任せるのも問題か――』
遂には鹿沼も助っ人を呼び出そうとも考えた。人出が足りないと言うか、ARゲーム課は慢性的に人手不足だ。技術があったとしても、それを上手くコントロールできるような人材が欲しいのは鹿沼も思うのだが――。
『悪質な権利独占企業等に渡れば、それこそ軍事国家に横流しも――とはアルストロメリアも言っていたが』
以前の自分であれば、どう考えてもWEB小説の中のフィクションでしか過ぎない様な事を――全力で否定していた。しかし、今となっては――現実に迫る悲劇を回避しようと、様々な手段を考えている。それこそ――後年に悪と言われようが、芸能事務所AとJに渡る位ならば――。




