エピソード53-3
・2022年7月5日付
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午後5時頃からのニュースでは、芸能事務所側の草加市撤退に関する詳細が徐々に明らかとなっていった。
『芸能事務所側の発表によりますと、想定していた利益を得られるような分野ではなかった――と発表があり――』
公式発表では、想定していた程の利益を得られるような分野ではないと言う事らしい。しかし、短期的に数兆円の利益が挙げられるような化け物コンテンツは、芸能事務所AとJのアイドルしかいないので――理由にはならないだろう。今回の発表には明らかに裏があると――確信出来る。どのような裏があるかは、まだ分からないのだが。
【自分達のアイドルグループみたいに、利益が得られると本気で思っていたのか? だとしたら、お笑いだな】
【あのアイドルグループは、大半が転売屋やアイドル投資家がもうかるようなシステムに――】
【芸能事務所の超有名アイドル商法を、賢者の石と例えていたサイトがあったな】
【賢者の石とは、言い得て妙だな】
【結局、芸能事務所AとJが稼ぎ出した利益は一部のアイドル投資家や政治家に回され、それの繰り返し――】
つぶやきサイトでも今回の件は話題となっていたのだが、まとめサイト等が想定している程の話題にはなっていないようだ。アフィリエイト系サイトを立ち上げ、儲けようとしている一部のアイドル投資家を警戒しているかどうかは――不明だが。
『では、次のニュースです――』
男性キャスターも、あっさりと切り上げて別のニュースを読み始める。その内容はあまり聞いてはいないのだが、ある芸能事務所による夢小説作者の魔女狩りとも言えるような内容――だったかもしれない。該当する芸能事務所は、歌い手や動画投稿者の芸能事務所としても有名であり――。
「どちらにしても、3次元のアイドルで二次創作をしようとするとは――自分達が何をしたのか自覚をしないのか」
「これこそ、芸能事務所AやJの商法を妨害しようと言う勢力だ!」
「夢小説は地球上から排除するべきだ」
「必要なのは――」
あるアイドル投資家は、このニュースを見てまとめサイトを立ち上げ、やはりというか芸能事務所Aのアイドルを神化するような記事がメインである。しかし、この人物があっさりと逮捕される事――芸能事務所Aから裏金を受け取ってまとめサイトを立ち上げた事が、大きなニュースになるとはこの時には気づかなかった。
8月23日、ネット上ではアーケードリバースのイベントが発表され――そちらに話題が集中していた。超有名アイドル商法や芸能事務所A及びJの事は、あっという間に風化していく。草加市で芸能事務所の話題は出る事もあるかもしれないが、あまり話題にしたがらないのは撤退した事とは関係ないだろう。ソレとは別の理由で――話題にしたがらないと言うのが正しいか。
「足立区の方も若干騒がしくなるか――それとも、草加市の方で大きな事件が起きるのか?」
昨日のニュースを見て、何か嫌な予感を感じていたのは橿原隼鷹である。彼は西新井駅で電車を降り、周囲のARゲームショップを見て回っていた。その目的はARゲームのチート拡散に関して――と言えば、彼がちゃんと仕事もやっているというのが分かる。
【ARゲームはジャンルによって、チートの扱いが異なるな】
【レース系やアクション等は規制が厳しい。リズムゲームでは、更にチート排除に拍車がかかっている】
【逆に、FPSやTPS系はザルな事もあるだろう。しかし――アーケードリバースは別だが】
【チートの持ち込みが容易と言う事は、チートプレイもバレなきゃ問題ないという訳ではない】
【結局は、地獄耳ではないが――手を出せば、スポーツのドーピングと同じような扱いになる】
【チートを1回使えば、ARゲームからは長期間干されると言う事か】
橿原はつぶやきサイトのタイムラインを見るが、特に興味があるような話題ではないので、すぐに別のサイトを開いた。そのサイトでは――あるプレイヤーの動画が話題になっていたのである。
「このプレイヤーは、もしかして――?」
プレイしていたゲームはアーケードリバースではなく、ARFPSだった。しかも、その射撃精度は正確であり――百発百中に近いかもしれない。これだったら、人力チートと言われてもおかしくはないだろう。
その人物はプラチナカラーのARアーマーを装着しており――残念ながら素顔は確認出来ない。しかし、ARメットの形状に特徴があり、橿原は何処かで見覚えがあるような引っかかりを覚えていた。
「まさか――ガングートか?」
そうは思っても口にしないような名前――。彼女の正体はガングートだったのである。そうでなければ、このタイミングでアーケードリバース以外の動画が話題になるはずもない。つまり、そう言う事だった。




