表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

其の二の二

床が抜けんばかりの足音と振動を察知したケイスは、反射的に身を屈めた。頭上を掠める烈風音と砕け散る石壁が耳をつんざく。彼は手のひらに魔球を形成し、魔力を増幅させ空中へ放った。稲妻が迸り、激しい閃光と爆音が木霊した。低く苦しげな咆哮と地響きが後に続いた。


「バカ野郎っ、やるならやるって言えよ!」

怒鳴ったホセと、ビエントは何ともない様子だったが、彼の動作に気付かず、光と音をもろに浴びたアルディラは仰向けに倒れて伸びていた。


ケイスは前方へ魔力を込めた左フックを繰り出す。

確かな弾力と手応えがある。

しかし致命傷ではない。はずがなかった。

サスカッチは冬の雪山でも涼しい顔で過ごすタフな成獣だ。

体長は少なく見積もったところでケイスの倍以上はある。

人間の頭を揺らすのとは訳が違うのだ。


ホセは塔に入ったときと同様、素手で壁に穴を開けた。そこへエル・ビエントが手を伸ばし、外の吹雪を内部へ引き込んだ。白い龍となった雪の群れが見えない雪男に衝突し舞った。白煙から獅子に似た顔の、白い毛並みの雪男が顔を出した。ブフゥと鼻息を噴き出し、毛を逆立たせて狩りの開始を宣言した。


ケイスとホセが雷と、溶けた石を浴びせるが雪男はそれらを容易に避ける。ビエントの操る風と妖精も振り払われ、彼は未だ呑気に気絶している少年のもとへ走った。


「お前の出番じゃっちゅうとるのに、この(わっぱ)は」

頬をぺちぺち叩かれ、意識を取り戻したアルディラだったが、

顔を手で覆って半べそ気味に言った。

「眼が。何も、見えない……」

「そんなの少しの間だけだ。獣術師であるお前の出番じゃろうが、ホレ」

ビエントは起こしたアルディラの背中に寄り添うと彼の手に杖を握らせた。


「いいか、ありったけを放て」

「うん……」

杖を握る手を支えて、暴れる雪男へと狙いを定めさせる。

「やれっ」

杖の先端から光の玉が、翠色の尾を引いて飛び出した。

雪男の頭部へ直進したそれは、わずかに逸れて横を素通りした。

やはり避けられた……かのように思えた。

ケイスは外れた玉を掌で掴み、背中越しに雪男の死角から射出、

玉は顔の中央に直撃し、同時に砕けて緑の粉塵を拡散させた。

雪男は意図せずそれを吸い込んでしまい、

フゴフゴと鼻を鳴らして咳とクシャミをいっぺんに出した。


獰猛な熊でさえ一瞬で眠らせる『冬睡(ウィンター・ミュート)』をもってして、一旦は膝をついた雪男だったが、それでも眠気に反抗しようとしてか、滅多矢鱈に拳を振り出しては壁を破壊していく。


益々手の付けられなくなった獣を見兼ねてアルディラが口笛を吹いた。すると羽音とともに塔が揺れ、無数に穴が空いて脆くなった壁を透明の物体が飛び込んできた。雪男は突然の轟音に固まった。


不視鳥は鋭い(くちばし)で雪男を(つつ)き倒すと、不可視の爪を肉厚の肩に食い込ませ塔の外へと引きずり出してしまった。何が起こったか分からないホセなどは、その光景が、真っ赤になった雪男が突然フワリと宙へ舞い上がったかと思うと、喚き散らしながら外へすっ飛んでいったようにしか見えない。


「ふぅ、ヤバかった……」

「アルディラ、助かったよ」

「次から『閃光放電(ストリーマ)』の場合は合図でも決めておこう、ケイス……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ