泥の子供と女王様
冬の童話祭2017のための童話です。
季節を変えるのは誰なのか。
それは、小さく純粋な心を持った子供たち。
冬が未だに終わらず、春が来ません。
季節は廻らず、食べ物も底をつきそうです。
さあ大変。さあ大変。
我こそは、我こそは、と何人もの人や動物たちが冬の女王様がいる塔へと向かいます。しかし、皆、寒くて痛い、吹きすさぶ吹雪により、塔へと辿り着く者は誰一人としていませんでした。
大地が自分の上で生きる生き物たちを心配しました。そこで、大地は泥で自分の子供たちを生み出し、冬の女王様の元へと向かわせました。子供たちは、母なる大地の気持ちを痛いほどわかっています。冬の女王様はいったいどうしたのでしょう。このままでは大変なことになります。
ああ大変。ああ大変。
泥の子供たちは雪の下と、母なる大地との間を通って、冬の女王様の元へ辿り着きました。そして、塔の下で冬の女王様に向かって呼びかけます。
「冬の女王様、冬の女王様。どうして塔から出てこられないのですか?」
子供たちの声に冬の女王様は驚きました。この塔では、秋と春の女王以外の声を聞いたことがなかったからです。恐る恐る塔の扉を少し開けて外を見ました。扉の前には、泥でできた子供たちが立っていました。
「まぁ、お前たちは?」
「僕たちは大地の子、泥の子供です」
「お母様が冬の女王様が塔から出てこられないのを心配していました」
「このままでは食べるものがなくなって、皆が飢えてしまいます」
口々に、真っ直ぐに冬の女王様に言います。女王様は悲しそうな顔をしました。
「どうしたの?」
「具合でも悪いのですか?」
子供たちの温かい言葉に冬の女王様はとうとう泣き出してしまいました。そして、説明してくれました。
「私は春の女王と喧嘩をしてしまったのです。その時にひどいことを言ってしまいました。だから、春の女王はここに来ないのです。きっとまだ私のことを怒っているのだわ。彼女がここに来なければ、私はここから出られないのです」
冬の女王様はまた泣きます。泥の子供たちは冬の女王様を慰めます。
どうやら、冬の女王様と春の女王様を仲直りさせないと季節は廻らないようです。泥の子供たちはさっそく春の女王様の所へ向かいました。
さあ行こう。さあ行こう。
「春の女王様、春の女王様。ちょっとお話し聞かせてください」
泥の子供たちは春の女王様のいる部屋の前で春の女王様を呼びました。春の女王様は泥の子供たちを快く部屋へ通してくれました。
「先程、冬の女王様の所へ行きました。女王様は泣いておられました」
「喧嘩をしてしまったから、春の女王様にひどいことを言ってしまったから、塔から出られないと泣いてました。いったい何があったのですか?」
春の女王様は悲しそうな顔をします。
「秋の女王がまだ塔にいたとき、彼女が風邪を引いたのです。冬の女王は看病に行きたいと塔へ行こうとしたのです。しかし、塔には一人の女王しか住んではならないという決まりがあります。塔に女王が二人も入ったことはありません。何が起こるかわからないからです。決まりを守らなければと、私は彼女に言いました。それで言い合いになってしまったのです」
これで原因がわかりました。
「冬の女王は、本当は心の優しい子です。私も言い過ぎました。あの子は今もその事を思い出して泣いているのですね」
泥の子供たちは頷きます。
「女王様、冬の女王様に会いに行きましょうよ。冬の女王様はきっと春の女王様に会いたいはずだから」
「そうだ、それがいい」
「会いに行って、二人で仲直りしましょう。いつまでもすれ違ったままはよくないです」
「仲直りしないと。だって女王様たちは姉妹なのだから。仲直りしないと悲しいです」
泥の子供たちの言葉は温かいものでした。花が咲いて見えます。春の草花たちの楽しげな風景が重なります。
「そうだ、夏の女王様と秋の女王様も一緒に行きましょう!」
「お母様は言っていました。人は一人だと寂しいから人といるんだって。冬の女王様は寂しいはずだから」
泥の子供たちの言葉を聞いて、春の女王様は微笑みます。
「そうですね」
春の女王様は勇気を出して、泥の子供たちと、夏と秋の女王様と一緒に冬の女王様に会いに行きます。吹雪にも負けない温かい心を持って。
今、行くよ。今、行くよ。
「冬の女王様、冬の女王様。どうかお外に出てきてください」
「お客さんを連れてきましたよ」
冬の女王様は扉を少し開けて顔を出します。
「お客様?」
「冬姫、私です。春です」
「春姉様。夏姉様に秋姉様も」
冬の女王様は春の女王様の姿を見るとびっくりして扉を閉めようとしました。
「冬の女王様待って!春の女王様はね、言いたいことがあって来たの」
泥の子供が扉にすがり、止めます。冬の女王様の手が止まります。そして、春の女王様が冬の女王様の前に立ちました。
「あなたはいつも冷たくて何を考えているかわからなかった。けれど、本当は心の温かい優しい子だと知っています。あのときはごめんなさい。この姉と、仲直りして、そしてまた、前のように仲良くしてくれますか」
花弁の涙が吹雪に舞い散って風に消えていきます。
「私も、決まりを守ろうとせず、秋姉様の看病に行こうと。春姉様は悪くないのに、ひどいことを言ってしまった。私の方こそごめんなさい」
吹雪が止みました。青空を覆っていたどんよりした灰色の分厚い雲が切れていきます。春の女王様と冬の女王様が手を取り合います。冬が終わり、春が来たのです。
泥の子供たちは跳び跳ねて喜びました。
「春だ、春だ!」
「仲直り、仲直り!」
「うれしい、うれしい!」
暖かな気持ちが世界に広がっていきます。それを喜ぶように春の色がついていきます。
ああ、春が来た。春が来た。
暖かい、春が来た。
冬から春に季節が廻りました。あのお触れの褒美のため、泥の子供たちは王様に会うことになりました。泥の子供たちはおめかしをしています。
春の女王様から美しい花の髪飾りを、夏の女王様から爽やかな緑の服を、秋の女王様から赤や黄色の暖かそうな靴下を、冬の女王様から雪と氷でできた白く輝く靴を貰って。
「お前たちのお陰で冬が終わり春が来た。さあ褒美を与えよう。なにがいい?」
威厳のある声で王様は問います。
「王様、私たちは人になりたいです」
「ほう、人になりたいと。一体どうして」
意外な答えに王様は驚きます。
「僕たちが人なら、もし女王様の誰かが病気になったとき看病ができます。一人で暮らす女王様が寂しく思うこともないはずです」
「女王様たちは姉妹なのだから、誰かがそばにいないと寂しいんです。人は一人だと寂しいから、だから一緒にいたいんです」
泥の子供は言います。
「それにね、私はお母様である大地に季節のお洋服を着せてあげたいのです」
「春は花と新芽の柔らかいお洋服を。夏は濃い緑のドレスを着てもらって、虫たちや雨による音楽会を開くんです。秋は赤や黄色の軽やかな色鮮やかな温かい服を着て、一緒に実りの秋を祝います。冬は陽の光を浴びて白銀にきらきら輝く雪のドレスを着て、雪だるまや雪うさぎなんかを作って遊んで、お腹がすいたら一緒に温かいお鍋を食べるの。もちろん女王様たちも一緒に。きっとそんな世界は楽しいわ」
「私たちを生んでくれたのは母なる大地であるお母様だから。私達だけでなくお母様にも何かお返ししたいのです」
「女王様たちもお母様もきっと喜ぶね」
泥の子供たちはキャッキャッと笑います。純粋な子供、そのものです。
そんな彼らの、かわいらしい笑顔の泥の子供たちを見て、王様は優しい気持ちになりました。王様は魔法使いに頼んで泥の子供たちを人間にしてあげました。
その後、人間になった泥の子供たちは、今は季節の女王様が住む塔で一緒に暮らしています。季節の女王様の所には、いつも笑顔が溢れています。誰も寂しいことはありません。心がいつもあたたかいからです。
読了、ありがとうございました。