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17 マルセルとルッツの企み

「……大丈夫かな? バレたら僕たち処罰されないかな」


 〝灯〟の廊下を足早に歩くマルセルの後を追いかけ、ルッツは気弱な声を上げた。


「バレやしないさ。あいつが自分で喋らないかぎりな。だから、おまえも絶対このことは誰にも言うなよ」


「僕は誰にも喋ったりしないけど、でも、もしあの子が喋ったら?」


「その時は、僕たちは知りません、何のことですか? ってしらをきり通せばいいんだよ。それに、あいつは口が裂けても喋ったりしないさ。何でも自分の胸に抱え込んでしまう性格だからな。絶対、僕たちがやったとは言わないさ」


「でも、あいつがかかわってきたらどうする?」


 ルッツの言うあいつはイェンのことだ。


「無能なあいつに何もできやしないよ。無能だからな」


「ねえ、マルセル。そもそも、何でマルセルはあの子を目の敵にするの? 別にあの子悪い子じゃないし、むしろいい子だし、いつもにこにこ笑ってるし、頑張り屋さんだし。ここではみんなあの子のこと嫌ってるけど、学校では下級生の面倒をよく見たり、遊んであげたりして好かれてるよ。それに、学校の花壇の水やりとか、うさぎ小屋の掃除とか自分からすすんでやってるんだって、それから学級委員も。みんな嫌がってやりたがらないのに。それどころか〝灯〟のあれこれだって大変なのにさ。それに……」


 マルセルは立ち止まり、振り返ってルッツを睨みつける。


「おまえ、どうしてあいつの学校生活のことまで知ってんだよ。それも、そんなに詳しく」


「それは……」


 と、マルセルから視線を外したルッツは顔を赤くして口ごもる。

 マルセルは不機嫌そうに顔をゆがめた。


「おまえ、あいつのことが好きなのか?」


「そうじゃないよ! あの子まだ子どもじゃないか! でも、何て言うか……よくわからないけど、可愛いかなとは思う……」


「じゃあ! 何で僕の企みに荷担したんだよ」


「でも僕はマルセルのことも大好きで。だって、味方だし。あ、好きっていってもマルセルのことは友達としてだからね。友達として。変な意味はないから誤解しないでよ」


「わかってるよ!」


 言い捨てマルセルは再び歩き出す。


「とにかく、僕はあいつが大嫌いなんだ。ちょっと前まで薄汚い服着て、髪ぼさぼさにして恨めしそうにこっち側を見ていたのに、今じゃ〝灯〟の魔道士だ。それもあっという間に力をつけていって、僕たちと同じ階級だ。何がいつもにこにこ笑ってるだ。ここにいる奴のほとんどが、自分の将来をかけて魔術の技を磨くことに必死なのに、あいつはいつもへらへら笑って……」


「そういう、無能魔道士の双子の弟だって、いつもへらへら笑っているよ。でも、僕たちより階級は上だけど」


「知るか! あいつらのあの笑いは腹に一物ありそうで薄気味悪いんだよ」


「そうかな」


「とにかく、僕はあいつが気にくわないんだ!」


「でも……いくらなんでも」


 やっぱり、あの子かわいそうだよ……と、ルッツは口の中でもごもごと言う。


「おい」


 そこへ、いきなり声をかけられ、二人は振り返りぎょっとする。

 すぐ後ろにイェンが目を細め険しい顔で立っていたからだ。

 二人の顔にはいつの間に後ろに?

 もしかして今の会話を聞かれた?

 聞かれていたとしたら、どのあたりから?

 という動揺と不安が色濃く浮かんでいた。

 それどころか、ついさっきマルセルがルッツを振り返った時には誰の姿もなかった……はず。


「あいつをどうしたって?」


 問いかけるイェンにマルセルはさあね、と戯けた仕草で肩をすくめる。

 憎たらしい態度だ。


「は! あいつって誰だよ。どうしたって何がだよ」


「そ、そうそう……」


 その横でルッツが引きつった顔でうなずいている。

 イェンはにっと笑ってマルセルの肩に手をかけ、指に力を込める。


「い、痛いじゃないか……手を離せ! おまえの無能が移るだろ……っ!」


 肩にかかった手を振り払おうとするマルセルを、力づくで近くの壁に押しつけ、もう片方の手を壁につき相手の逃げ道をふさぐ。


「あいつはどこにいる」


「知らないね」


「言え」


「知らないって言ってんじゃないか! 無能のくせにしつこいぞ!」


「言わねえと、とてつもない屈辱を味わうことになるが、いいのか?」


「な、何だよ! 屈辱って僕を殴る気か? やってみろよ。そんなことをしたら即刻処罰だ」


 処罰? それが何だと言わんばかりに、イェンは口の端をゆがめて笑う。マルセルも負けじと上目遣いで長身のイェンを見上げた。


「ふん! それに、あいつの居場所を知ったところで、どのみちもう試験には間に合わないさ。見てみろ」


 声をうわずらせながらも、マルセルは勝ち誇ったように窓の外に見える時計台を示す。 時計の針が間もなく十一時を告げようとしていた。

 理由もなく試験を放棄した場合、厳重な処罰をくだされる。場合によっては当分試験を受けることができなくなってしまうことも。

 ツェツイがマルセルたちに嫌がらせを受けたとは、自分では決して言わないだろう。


 あいつはそういうやつだからな。


「そうか。どうしても喋らないつもりだな」


「だから、知らないって言ってんじゃないか!」


「だったら、こっちも手段は選ばねえぞ」


「何だよ! 無能のくせに偉そ……う、に……っ」


 イェンの手がマルセルの眼前に伸ばされる。

 マルセルは、喉の奥で声にならない悲鳴を上げた。

 口の端を吊り上げ、マルセルのひたいにイェンは手を押しつける。


「西塔、最上階。一番奥の部屋、だな」


「ど……」


 イェンの言葉に、マルセルはどうしてわかったんだよ? と、大きく目を見開いた。

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