誓い
あの日夢を見てから、何度目の秋が訪れたのだろう。
「あんた、また今日もここで剣の練習してたの?」
そんなセリフにも、もう慣れっこになってしまった。
「修練よ、ジョゼット。もう明後日だからね」
「よくやるわ。たまには、私みたいに織物の一つでもすればいいのに」
私やジョゼットぐらいの歳になると、女は普通そういう特技を1つや2つは身に着けるものだ。
「私にはこれしかないから」
しかし、姉さんの背中を目にしてからというもの、私はそういったことに興味が持てなかった。
「カーリアさん、素敵だものね。女である私でも惚れ惚れするぐらい綺麗だし」
「私の盾は姉さんにはまだ遠く及ばないけど、今の剣を皆に見てもらいたいんだ。」
決して姉さんや騎士団の騎士ように盾が上手いわけではない。
身体が大きいわけでもない。
「ねぇ、どうしてだっけ?あんたが騎士様を目指すようになった理由」
「忘れたわ。いつか思い出したら、そのときね」
そんな嘘を話して、今日も陽は過ぎてゆく。
想いとは裏腹に、時は止まらず流れていた。
ジョゼットと別れてから程なくして、私は街へと続く坂道へ歩を進めた。
今日でこの丘に来るのも終わりにしよう。
そんな想いを胸に秘め、彼女はポケットのペンダントに手を添えた。
風が通りの木々凪ぐ音。
目を閉じ、耳を澄ませば、心和む世界が広がっていた。
夕焼けの空に手をかざせば、今度こそ願いは届く気がした。
やがて彼女は、ゆっくりそれまでの歩みを踏みしめるように家路についた。
「いよいよ明日だよ、母さん。私が夢見た日」
誰もいない坂道で、彼女は空を向いてそう呟いた。
「もう一度だけ見てて。私、頑張るから」