序章〜世界の狭間〜
「………誰、か」
何もない。あるのは唯々暗闇ばかり。そんな世界。いや、「世界」ではなく、その狭間。
そこに棄てられた少女は、今日も一人、世界のバランスをはかり続けていた。
世界から外れた空間。ここには、全ての世界共有の理など通用しない。
「………お願いよ…」
死ぬことは世界から外された時より無縁になった。増してや、空腹や眠気、痛みすらも存在しないのだ。
しかし、少女は祈る。誰にも届かぬ、悲痛な声で、唯々祈る。
少女に足りないもの。少女を満たさないもの。少女を苦しめるもの、それは────
「さみしい、の…」
それは────孤独。
同時刻、全ての世界に謎の魔物が出現した。
それは今迄、世界にはなかった種の魔物。
魔術詠唱を使いこなし、人を呪いにかけて壊す。そんな魔物。
それを見た、1人の白髪の青年は、静かに笑う。
「そろそろ替え時かな、あの生贄も。………今回のやつは、本当に使えなかったな。次はもっと骨のある奴を探さないと…」
そっと、近くの銀食器、ナイフを持ち上げると、卓上の地図のようなものの「ナイトメア」と書かれた歪な形をしたところを勢いよく貫く。
「………使えない、クズが。」
紅い眼が、怒りを秘めたように険しくなった。
「世界に利益をもたらさないものは、即刻消し去ってしまわないとな。」
戦争が、始まる。
その予兆。
人間と、魔族と、世界の理。
三つの異なるモノたちの、全面的なぶつかり合いが、世界を壊す。
これは、そんな物語。
「俺は、必ずサシャを救うから、待ってて。世界を壊してでも、お前を救うから…!!」
少年は、一本の紅い刀を携え、世界の壁へと挑む。
これは、そんな、物語………