時系列①~マネージャー奮戦
俳優の告白から双子の弟さん探しが始まった。
忙しい日常のマネージャーは自分の休日を潰し弟さん探しである。
「人探しは簡単。大学がわかって年齢もわかっている。こんな幼稚園並みの人探しなんて」
たかをくぐったマネージャー。
意気揚々と卒業した大学医学部に電話で問い合わせてみる。
「はいっ学生課でございます。医学部はこちらでございます」
我が校の卒業生の問い合わせでございますか
「失礼ですが個人情報保護法はご存知でしょうか」
いかなる理由があろうとも個人を特定される情報は教えることはできません。
生憎でございます。
「そのお問い合わせですが。大学当局はお答えの義務がございません」
なんです?
個人情報保護法?
義務がない
あなたには教えてあげません!
知りたいでしょうが
教えたくはありません
「なんですと!大学自体は卒業生を教えてはくれないのか」
?
大学がなんたる言い草であろうか。マネージャーは憤慨である。
これが大学教授や社会的地位の高い者ならば
問い合わせにハキハキ教えるであろう。
「そこをなんとか。実は私はトレンディ俳優のマネージャーでございます」
テレビはご覧になりませんか?
声の調子から学生掛は30歳前後の女性ではないかと睨んだ。
「まあっ俳優さん!あのドラマの?」
本当ですか。トレンディドラマの主人公でございますか」
ヤダァ~
"私フアンなのヨォ~"
イヤ~ン
電話の向こうは声が弾んでいる。
シメタ!
先ほどの事務的対応は消え失せた。
俳優の名前で押せ
個人情報なんて
なんとかなるぜ
「トレンディ俳優のご兄弟のことなんですよ。実は双子さんなんです。弟さんなんですが医学部に在籍か卒業生かを知りたいんです」
電話口はざわざわとしている。
身近にいる女子事務員同士でワアワア~
弾む弾む!
さすが人気のトレンディなる男だった。
若い女の子に有無を言わさず人気。
売れっ子の俳優は効果覿面である。
「弟さんは医学部に在籍でしょうか」
事務員の弾む声
キャアキャアを耳にしてマネージャーは期待である。
その場で卒業生学籍簿をくくればわかることである。
"教えてくれるぞ"
えっ!
しばらく沈黙がある
ダメなものはダメでございます
「アノォ~個人情報保護法がございます」
ガック~ン
弾むような明るい声で更に明確に断られてしまった。
「トレンディさんによろしくお伝えください。職員一同応援しています」
誰が伝えるもんか!
マネージャーは人間不信に陥る一歩手前になった。
次の手を考える
マネージャーはパチンっと手を打つ!
「ご実家は内科医院だと言ったなっ。患者さんで直接行けばいいじゃあ内科」
マネージャーは自宅マンションに戻ると保険証を探した。
保険証に(株)プロダクションの名前が明記されていた。
都心にある個人経営の内科医院は私鉄沿線から徒歩数分の場所。
ショウシャな建物と手入れの行き届いた日本庭園は見事なもの。
江戸時代にはお城主治医という歴史が脈々と感じられてた。
「ひぇ~立派な医者だなあ。小石川療養所の"赤ひげ"とはこうした医者のことを言うんじゃあないか」
受付で保険証を出す際に背筋がゾクッとするのである。
「初診でございますね。いかがされましたか」
受付嬢は二十歳前後の若い娘さん。可愛い感じや顔の輪郭などから俳優と兄妹かと思われた。
「ええっ。芸能のマネージャーをしています。最近はストレスが溜まってしまいまして。気のせいか胃腸の調子が悪いのです」
ハイッわかりました。
問診票に病状を記入なさってください。
「診察の前に。こちらに検尿をお願いいたします」
紙コップを渡されトボトボと待ち合いにいく。
平日の昼間で患者さんは数人いた。お互いに近所の知り合いらしく気軽に談笑をしている。
「なあなあっ。あなたさんは知っていなさるかい。(医院の)お坊ちゃん大変だってなあ」
お坊ちゃん?
長く医院に通院する常連客(患者さん)であるようだ。
マネージャーは検尿コップをギュッと握りしめると噂話に耳をそばだてた。
「この医院のお坊ちゃんって」
"誰か"
俳優か?
医者の方か?
患者さん同士の話が弾む。
人の噂は誰にでも餌食となる。
「お坊ちゃん"たち"が小さい頃から知っている。だから儂はわかるんだよ」
老齢の患者さん
週刊誌をヒョイ
表紙を眺めた。
『トレンディ俳優のスキャンダル』
芸能週刊誌のそれはトップ記事にあった。
「このさっ。写真にあるお坊ちゃんってさ」
(俳優のお坊さんと)違うんだぜ
違うお坊ちゃん
マネージャーは身動きできない。
こりゃあ聞き逃せない
「双子(兄弟)は間違いないわけだ」
こちらの患者さん
幼い頃からの双子を知るとは貴重な存在だ。
「最初にあのワイドショーを見たら兄さんだと思ったよ」
あれだけの親不孝を兄さんはやっておいでだ。
「大先生のお祖父ちゃんや父親の院長先生にソッポだよ」
幸か不幸か
「テレビで俳優になってしまったが」
兄は俳優!
親不孝の極み!
よしよしトレンディ俳優のことに間違いないなっ
「そのさぁ~息子さんが俳優をやってることはこちらの大先生は知ってはいるんだろ」
ふたりは声を潜めた。
「おじいちゃん?院長の大先生だろ」
孫の俳優は知らないらしい。
テレビドラマは見ない年寄りである。
「孫も医者になって欲しいと大先生の思いなんだね」
それが見事に期待を裏切らた
家出してしまって長い
まだわだからまり
「かわいい孫の裏切りはショックだよ」
ヒソヒソ…ヒソヒソ
(話し声がさらに小さい)
…トレンディ…
俳優は…兄貴
ヒソヒソ
兄貴は
医学部
行けなくて…
マネージャーは全身を耳にするも噂話が聞き取れなくなる。
もう少し近くにいかなければ。
兄貴の話しはどうでもよい
肝心要は医院の双子兄弟の弟さん。
"医学部に行っているのだろうか"
ヒソヒソ話は兄がよく登場をしてしまう。
安泰に医院に生まれた息子さんである
どうして親の決めた医者への道と決別し
親子の縁を切ってしまったのか。
マネージャーとして話の筋道を繋ぎ合わせてみる。
「(祖父)大先生の期待って」
医者になる期待を裏切る?
「医学部受験を失敗か」
俳優の出身高校はとんでもない進学校である。
有名なだけでなく
欲を言わなければ
私大医学部進学なら楽勝ではないか。
ふたりの患者さんは仲良く芸能雑誌を眺めてヒソヒソ話を楽しむ。
「…(ヒソヒソ)…(コソコソ)…本当に?」
嘘だろぅ。
「ゴシップ写真は兄じゃあないのか」
よしっ!
直接聞いてやれっ
マネージャーは患者に向かう決心をする。
"失礼いたします"
立ち上がる。
患者らはなんだね?
見慣れぬ男に身構えた。
その前に受付から名前を呼ばれる。
「次の診察の方~」
タイミングよろしく診察の順番がやってきた。
アチャア~
「初診でございますな」
初診は院長がたいてい受け持っていた。
問診票を見ながらカルテに更々と書き込む。
「ほほっ~ぉ~芸能プロダクションにお勤めですか」
芸能界はまったくもって疎い。
興味も味気もない祖父である。
診察は始まる。
「体調が悪いです。時折ですが胃がチクチク痛むこともあります。市販の胃腸クスリは常備薬になってしまいました」
ストレスですね。
かなりの緊張感が胃や腸に皺寄せかな。
「芸能プロダクションですが。どんな職種ですか」
院長は優しく病状を聞き出していく。
なんとなく話しをしているだけで気分がよくなる。
「マネジメントです。所属するタレントさんのスケジュール管理が主な仕事になります」
おかげさまで食生活も勤務時間も不規則になってしまいました。
なるほどっ
「それは大変な仕事ですね。深夜まで働いて食事をして。うーん胃腸薬が必要ですね」
更々とカルテを作成していく大先生。
「わかりました。では触診をさせていただきます。シャツをあげてください」
聴診器を胸に背中に。
とんとん
とんとん
心音確認
「うん?」
大先生の顔がキリッとする。
傍らにいるナースに心電図と血液検査を依頼する。
「かつて不整脈は指摘されたことはありますか」
あちゃあ~
不摂生が仇になってしまったか。28歳のからだは成人病予備軍の可能性が発覚をしてしまった。
「血液検査は診察ベッドです。心電図は二番目です。待ち合いでお待ちくださいね」
大事になりそうである。
「健康診断は毎年受けていますか。会社は義務づけられてはいるのですけども」
大学を卒業してから病院に掛かったことはなかった。
しいて言えば虫歯治療ぐらいである。
「検査データから診ないとなんとも言えませんが」
不摂生の賜物はかなりのものがありそうだった。
「ハアッ~成人病ですか」
普段からトレンディ俳優とは一心同体として寝食をも共にするマネージャー。
食生活も同じでテレビ局の用意する弁当をガバッガバッ食べてガブガブ飲む。
リミットなしの暴飲暴食を朝だろが深夜であろうが繰り返している。
「まあっご心配でしょうけども。諸検査である程度(成人病の疑い)が発見されます」
大先生はカルテと分析データとにらめっこをしたい。
一通り言われ検査を受け待ち合いに座る。
「やれやれっ健康的なからだなのに。すっかり患者さんの気分になったぞ」
再び待ち合いにいけば噂好きの患者さんは入れ替わり立ち替わりいた。
話の中心には先ほどの老人である。
待ち合いに備え付けの週刊誌や雑誌を広げればトレンディ俳優の話。
「へぇ~知らなかったなあ」
この俳優さんは医院の息子さん?
「ハンサムだなあ」
ハンサムというが大先生と院長(父親)も若い頃にはかなりモテたらしい。
彫りの深いハンサムな顔は血筋であるようだ。
広げられた週刊誌はトレンディ俳優が掲載。
熱演をして好評なドラマシーンがクローズアップされていた。
長い患者さん暦を誇る老人。
医院の歴史を伝道師のごとく得意げに話すのである。
「ああっそうじゃよ。院長先生の息子さんだ」
さっきも言っただろっ。
「大先生や院長先生の跡継ぎとして期待されたがなっ。結果的には医学部はいけなくてな」
ほほっ医院の息子に生まれくせにダメじゃん
「医者を諦めて俳優さんなのかい。まるで舘ひろし見たいだな」
誰だい?
舘ひろし
老人ははてはてと知らないなあっと顔を回した。
「ほらっアクション俳優さっ。なんでも実家は医院らしいぜ」
芸能人の話だ!
マネージャーはなに食わぬ顔して老人たちの井戸端会議に加わる。
「舘ひろしさん知ってますよ」
実家は名古屋の内科医院の息子さん。
「聞けば先祖さんは徳川のお城主治医を務めていたそうですよ。ご本人は医者ではなく俳優さんです」
うん?
待ち合いの患者さんにジロリッと睨まれる。
「見慣れない患者さんだね」