スキャンダル②~悪い噂と真実
双子?
ふたごって…
「双子の兄弟?」
ハァ~
なんのことだろ
いきなり双子と言われても
「俺は二卵性の双生児がいる」
聞かれたマネージャーは鳩が豆鉄砲を喰らった顔をするしかない。
「顔つきが似た男っ?双子?そりゃあ双子というケースがあれば姿や形ぐらい似ているでしょう」
怪訝な顔つき
狐に憑かれた
「本当は双子だ?」
いきなり言われても
「ゴシップは双子のシワザですか。悪い冗談はやめましょう」
マネージャー業について数年の男。
このプロダクションに就職して年数は浅いは浅いが
マネージメント担当のタレントが双子は初耳。
おろか兄弟がいるとプロダクションから何一つ聞かされてはいなかった。
「あっいやっ。すまないな」
ダクションに家族を隠すつもりはなかったんだ。
「まあっ俺も事情があって学校を辞めこの世界に来たからなっ」
隠すことが出来ればなんでも隠しておきたいプライバシー。
「マネージャーさんよ。済まないがこれが俺の双子の弟の名前だ。医学部に入ったことは知ってる」
うすうすながら
医者の息子はマネージャーもプロダクションも知っていた。
「年齢から。ストレートに卒業したら立派な医者になっているはずだ」
紙切れの端にスラスラとメモを落とす。
「えっ!あの最難関大学の医学部ですか」
滑り止めの私大卒のマネージャー
大学名を見ただけでびっくりである。
なんと優秀な!
しかも
医学部
「調べてくれないか」
スキャンダルの学園は詳しく知らない。
「だが附属病院となると弟は医者としている可能性がある」
勤務医なら内科だ。
マネージャーは紙切れを大切にポケットにしまいこんだ。
「調べてみます。幸いにもそちらの学園には知り合いの息子さんが"事務員"で働いています」
トレンディ俳優にしては忌まわしきゴシップ週刊誌。
爽やかで清潔性のある俳優が売りである。
世間に女性スキャンダルが出回ってから数週間後のこと。ゴシップの波紋は収まらずだった。
テレビ雑誌に芸能ニュースとして大きく扱われていた。
1を聞いて5を語り。
5を聞いて10を悪い噂で広がる。
芸能界にいる限りゴシップに悩まされは宿命であった。
ゴシップの犠牲者はなにも売れっ子だけの話しではなかった。
「え~えっ嘘おぉ~!私イヤだぁ」
せっかくシンデレラ姫になったのよ
「数千の中からオーディションをパスして芸能人になれるチャンスなんだもの」
女学院の教頭にテレビ局より一本の電話がかかってしまう。
「そうですかっ。オーディションはご破算というわけでございますね。ハイッ結構でございます。当人には女学院の方から伝えておきます。わざわざありがとうございます」
"被害者の"女子高生は涙がこぼれ落ちてしまう。
数千から選ばれたシンデレラ姫グランプリ
最初からなかったことにして欲しい。
「トレンディ俳優とのゴシップ。いかんともしがたい汚点である」
主催者のテレビ局は淡々と取り消しの知らせである。
「社運を賭けたドラマ制作なんです。グランプリ優勝の女子高生は清純のままでいたかった」
現代のシンデレラ姫になるお手伝いを局はしたかった。
「スキャンダルは止めるべきだったんですがね。お茶の間でもヒロインになってもらいたかったんです」
番組編成会議は制作担当ディレクターから問題ありと言われる。
局の取締役会は連日ゴシップでワイドショーにまみれた女子高生など
早く切りたい
ヒロインに相応しくない。
年寄りの集まった理事総勢。
簡単に罷免を突きつけたのである。
テレビ局からの電話は続ける。
「そこで提案なんです」
女学院の教頭先生の方から"ご辞退"があったとさせていただけませんか
あくまでも局は被害者
女子高生の側に非があると主張したいのである。
「わかりました。さようなことでございます」
教頭から直々(じきじき)にシンデレラ姫グランプリ辞退を聞かされた女子高生である。
「嫌っです!」
辞退なんか
「私はしません!大人は身勝手です」
天国への階段から急転直下で奈落の底に叩きつけられる。
シンデレラの彼女としてまったく納得がいかないのである。
「教頭先生っひどい。だって私は何も悪いことをしていないんだもん」
ゴシップが世間にばらまかれ女学院の日常は急変する。
まずクラスの女の子に白い眼でじろじろ見られる。
女学院の中までマスコミがドタドタ押し込んでくる。
教頭から通学を禁止され自宅待機を強いられている。
マスコミは自宅の玄関に姿を表すこともあり一歩も外に出られない。
「やだなあっ。マスコミには息が詰まってしまいそう」
災難はまだまだあった。
自宅は"安住の地"ではなくなってしまう。
母親は味方?
新たな火種?
「私は知らなかった」
(離婚した)あの男にノコノコと逢っていたの
母親にねちねちやられてしまう。
「そうよっ脚本家として威張っているのが父親よ」
娘の前で父親の話はしたことはない。
どこで嗅ぎ付けたのだろうか。
「私は父親に会うなっと言いはしません」
あなたは実の娘です
血筋は争えないのであろうか。テレビにちょくちょく出ていた父親にいずれは気がつくのである。
「お母さんに黙っていたのはいけないなあ。こそこそふたりだけで会うことがいけないの」
売れない時代の脚本家を支えた自負は脆くも崩れてしまう。
「年頃のあなただから。父親が必要なのかしら」
母ひとり子ひとり
父親の顔を知らず育てられた娘は黙ってしまった。
自宅待機を強いる女学院は連日大変な騒ぎである。
ワイドショーでトレンディ俳優を賑やかせている昨今。
スキャンダルの相手として女学院も好き勝手にテレビに登場してしまう。
テレビ各局から若手の芸能リポーターが入れ替わり校門に立つ。
女子高生は芸能人と違い素人。背後に喧しいプロダクションがついていない気軽さがあった。
リポーターたちは通学する女子高生を見つけ片っ端からマイクを向けた。
「シンデレラ姫さんはどんなお嬢様でございますか」
女学院当局は生徒に箝口令を強いる。
マスコミに関わらないように。
だが効果はあまりなかった。
テレビカメラが回り出しマイクが目の前にある。現代っ子は喋らないことが苦痛である。
シンデレラ姫さんは同じクラスだよ
あの子ってテニス部だった。白いスコートが似合う女の子。
白い妖精ってわけね?
それは言い過ぎだわ
街でちょくちょく男子校にナンパされるよ
かわいい女の子。
男出入りの激しい女の子。
彼氏っ?
特定の?
親しいボーイフレンドはいたわ
女学院のクラスメイトは大半がボーイフレンドいるもん
女学院の女子高生にもなって
彼氏がいない方がおかしいわ
女学院は男の子に人気だもの
芸能リポーターは期せずして予備知識が増えてしまう。
そんな女学院の通用門にターゲット本人が通過すれば
マスコミの格好の餌食。
教頭は怒りである。
テレビのワイドショーを見たら女学院がでっかく映し出されている。
「校門にテレビカメラを据付けているんですか。あんなところで。警察を呼びたくなりますね。生徒をつかまえられては迷惑です」
教頭からの苦情を聞きつけ屈強な体育教師がパラパラと数人が出ていく。
勇ましき体育教師。
お揃いの体育ジャージに身を包み筋力を見せる。
見るからに体力勝負!
ジャージ姿を見たマスコミ各社はしめしめと手を打つ!
来たね
来たねっ
したり顔である。
待ってましたとばかり
マスコミ各社は体育教師のポケットにグイッと押し込んでやる。
うん?
"商品券"
"ビール券"
ポケットからチラチラ金券が覗くのである。
それでおしまいである
やいのやいのと強硬にホザく体力勝負の"体育教師"などマスコミの人間は見たことがない。
学校側のありがちなささやかな苦情など簡単に対応がなされてしまう。
教頭の腹は芳しくはない。
マスコミはいずこにも顔を突っ込み出してくる。
女学院そのもの痛くないハラを探られてしまう。
学校経営に関する不正経理の発覚。
学校債の脱税たる寄付金集め
そこまでは踏み込んではこないではあろうが。
学校の経営や生徒風紀の責任者たる教頭は考えてしまう。
「まったくマスコミという人種は」
ふだんにテレビは眺めて新聞はニュースを読む世界。
我が身に振りかかるマスコミなど想像すらできなかったのだ。
「女子高生は母子家庭だ。学校としても私も離婚された父親などマスコミに聞かれたくはない」
直接に雑誌記者からプライバシーの問い合わせを受けている。
女学院はマスコミに軽く見られたものである。
「プライバシーは守ってやらなくては」
教頭は女学院を守ってやりたいと強い意志を持つ。
ところが…
校門に陣取るマスコミ
勇敢であり
無礼だった。
「シンデレラ姫って母子家庭になっているんだろ」
女学院の生徒に聞いて確認してしまう。
「娘の父親はどうしたんだ?生きているのか。生きていたならばだなっ。おい区役所で住基ネットで確かめろ。面白い拾い物があるかもしれない」
芸能リポーターの長年の勘というやつである。
脚本家の名前はいとも簡単に浮上してしまう。
「ほほぉ~あいつの娘になるのか」
苗字が違っている
傍からはわからないはずだ
売れっ子の著述作家よりも女癖と扱いの悪いことでマスコミに有名な脚本家のこと。
その実の娘
数千人のオーディションから彗星のごとく現れた女子高生。
今はゴシップ記事に名前が現れ清純派のレッテルを剥がされたシンデレラ姫っ。
「アハハッ親御さんが親御さんなら娘も娘ときたもんだ」
血は争えないもんだ
一般庶民には到底考えられぬ世界ではないか。
気の向くまま本能の赴くままの習性を露呈した。
ゴシップやスキャンダルが大好物マスコミ
さも喜びそうな貴重な父娘である。
「さあって。ワイドショーは新たなるスキャンダルを見つけたなあ」
芸能リポーターは嬉しそうに笑った。