スキャンダル①~俺は知らない
リーンリーン
学園附属病院の医務事務室に一本の電話が入る。
早出の女子事務員が応対をする。
"電話の主は強行な男だった"
名を言わず
強い口調!
匿名のまま威圧的
「院長先生に繋いで欲しい。俺が誰なのか?知らなくて結構だ」
どのような用件にせよわけのわからない電話は繋げない。
ましてや最高権威の院長など。
「話したいのは発売された雑誌だ。あの写真は附属病院なんだろ」
雑誌?
吹き抜けのロビー写真は附属病院の特徴
「キサマの病院までぐるになりやがって」
"ゴシップ写真"
附属病院も協力し三流雑誌に売り込んだのだろう。
「不貞っ野郎だぜっ。オマエの病院ってのはヤブ医者のくせに!」
女子事務員は恐怖心を持ちおろおろするばかりである。
それが附属病院への最初であった。
お昼のワイドショーには芸能ニュース放映を見てゴシップ絡みの苦情電話が立て続けにかかってくる。
"テレビ画面に附属病院の写真とテロップで名前が報じられた"
「ヒェ~電話に出るだけで1日が終わってしまいます」
電話に出れば怒鳴り込みだった。
「一体なんの騒ぎ?病院でなにが起こったというのですか」
テレビ局は院長にインタビューをしたいと申し出があった。
院長先生に取り次ぐなんて
スキャンダルに巻き込まれますわ
「困ったことでございますね。ウチの附属病院がことの始まりになっているわけですか」
その院長室である。
数人の男が集まり騒ぎの収まりを協議していた。
学園本部の理事やら教頭やら。
生徒や職員の不祥事にやきもきをした経験者であった。
「まあっ院長先生はお医者さまでございます。医学のことなら専門でございますがマスコミ対策となりますと」
ワイドショーで附属病院が密会の場所と流されてからは院長は一躍トキの人となってしまう。
病院はゴシップと関係がない
だが世間はそうは見ない。
テレビのおかげで有名となってしまった病院を助け学園はマスコミ対策をしなければならない。
「学園もちょくちょくでございますが」
生徒の不祥事はございます。
「そのたびにマスコミに学校の中に土足で入られていては堪ったものではございません」
対策として顧問弁護士を楯に防御策をしっかり講じていた。
院長は国立大医学教授を春に定年退職し学園に天下りしたばかり。
学者としての人生を歩む。
医学も学園も
その附属病院経営も学者として興味がなければ面白くもない。
「まったく困ったものですよ」
今テレビを見たら附属病院の写真と院長の私の名前まで出ている。
「非常に不愉快なことでございますね」
天下国家の国立大医学部教授として高い社会的地位を築き上げた自負。
天下り先を決めたいとインターネットで検索したらたまたまヒットしたのが学園附属病院。
給料と通勤時間を見て学園に決めた程度であった。
元医学部教授として立腹である。
わけのわからぬ私立校のお飾りの院長となって顔に泥を塗られた。
「私は思うんですがね」
あの芸能リポーターはなんとかならないか。
「私が院長だから病院で芸能人密会がうまくいくっと説明しています」
テレビに映し出された映像。
生中継の画像には芸能リポーターが得意げになって附属病院の前に立っている。
「皆さんご存知のあの正統派のトレンディ俳優。こちらの学園さんが経営母体となる医学部附属病院で密会を重ねていたわけでございます」
トレンディ俳優とシンデレラ姫の密会は手が込んでおります。
「我々マスコミ芸能リポーターの目を盗んで若いタレントさんと夜な夜な密会を楽しんでおりました」
トレンディ俳優のスキャンダルは手口が巧妙である。
当代1番の人気者が"俎上の鯉"である。
「(トレンディ俳優は)不特定多数の女性を附属病院に呼んでいたのです」
本命の女学院シンデレラ姫との密会を誤魔化す手段でした。
ベテランの芸能リポーターは得意げな口調ですらすらと喋り続ける。
テレビ画面にずらりっと女優やタレントの顔写真が並ぶ。
ワイドショーの特番にトレンディ俳優が現れお茶の間に届けられてしまう。
俳優の名前が出ると視聴率は一気に跳ねあがった。
「トレンディ俳優はここ最近はドラマに映画にと忙しくなっておりました。がそれは事実ではございません」
芸能リポーターは個人的な憶測だけで得意中の得意"デマ"な話を作り出す。
"捏造"をふんだんに混ぜる。
お茶の間に
とことん愉快で
ゲスな茶番劇を
好きなように流していく。
「俳優はこちらの病院に忍び込みました」
その様はトレンディドラマよろしくでございます。
「附属病院の青年医師の格好してお医者さまなりすましでございます」
附属病院はトレンディ俳優の"知り合い院長"がいました(デマ)。
院長先生の伝で"国立大医学部の医師"になれてしまった(デマ)。
「芸能リポーターの長年の勘でございますねオホホ」
このトレンディ俳優のしでかした仕業はかなりの視聴率を稼ぐ。
へぇ~
トレンディ俳優の密会は念入りなものだ。
病院トリックを聞いたお茶の間。
常にワイドショーを見て視聴率はピョンピョン跳ねた。
「以上密会現場からでございます。芸能リポーターの"女神"が渾身の力でトレンディ俳優の素顔を報告いたしました」
ワイドショーのエンディングに『次は清純派シンデレラ姫の素顔を暴く』のテロップがでかでかと流されていた。
「おっ~おい!でたらめにも程がある」
テレビ局の楽屋でマネージャーと憤りを見せていた。
「なんだ今のワイドショーは!」
ふたり揃って芸能トピックに噴飯ものである。
「なんだって!あの芸能リポーターのオバチャンは正気なのか」
出鱈目を並べ立てて
捏造も
偽造も
根も葉もない
芸能リポーターの妄想を延々と真面目な顔でやられては堪ったものではない。
「ダクションの顧問弁護士の電話番号を知ってるか」
このワイドショーから捏造されたゴシップが独り歩きだ。
「俺は人気のトレンディドラマの主役だぞ。苦労をして主役の座を得たというのに」
ダーティなイメージをテレビ雑誌マスコミに垂れ流されては!
早いところマスコミ防御の対策を講じておきたい。
悪事千里を走る。
デマである愉快な芸能情報はいつまでも走る。
その芽を徹底的に摘まなくてはいけない。
憤懣やるせない!
「マネージャーよ」
あの写真にある輩
医者の格好した男はなに?
「俺に瓜二つの男だ。見るからに"なりすましでございます"の野郎は誰なんだ。写真だけのアイコラなのか」
マネージャーも同じことを考えていたのである。
「ええっ偽物のことですが。その真犯人なんですが」
俳優の"物真似芸人"と言えば
マネージャーの心あたりを調べてはいた。
「物真似番組からブレイクしたお笑い芸人は三人います」
三人とも直接私から聞いてやりました。
「三人は三人ともゴシップ医者の件は知らないと言います」
お笑いからはお見舞いを言われる。
「とんだトラブルに遭遇されて。俳優さんもお気の毒さまです」
この程度のゴシップで元祖たるトレンディ俳優の人気が低下などしたら
「我々"お笑い"は飯の食い上げでございます」
何とぞなおいっそうの活躍を願います。
「あの三人のお笑い芸人は俺に似ているかい?どいつもこいつも背が低いぜ」
俳優養成所あたりから背丈も顔もそっくりな俳優卵を探したか。
「まあっ言ってはなんだがなっ。俺によく似た男なんて世の中にゴマンとあるんじゃあないか」
まったく似てなくとも部分的なケースもある。
カメラのアングルを考えたら横顔が似るとかもある。「というと…。そっくり芸人はまだまだ出てきそうですね」
「まあなっ。俺なんかはどこにでも転がった顔だぜ」
売れっ子の俳優が月並みな顔であるとは考えにくいが。
「その証拠がある。第一にだ…月並みの証拠だぞ」
俺は双子なんだ
二卵性双生児という奴さ。
生まれ時から似た奴がそこにいたわけだ。
「うん?弟?」
まさかっ
トレンディ俳優は椅子から転げるかのように
ゴシップ写真を食い入るように見た。
「……」
マネージャーは首を傾げてしまう。