僕と彼女とほにゃららら
大学生の二人、皆藤涼花と中川優太は付き合い始めて、もうすぐ半年。
真面目で誠実、裏表がなくおっちょこちょいな彼、ゆう君と次のデートの約束をした日は生憎の大雨だった。
『この日は出掛けられないから無しにしよっか』と優太からメッセージがくる。
だから涼花は『ゆう君が良いならゆう君の家でも良いよ』とメッセージを返した。
そして今日、初めて彼の部屋でデートをする。
「お邪魔しまーす」
女の子を初めて部屋に入れるのであろう、優太は緊張した面持ちで待っている。
「結構きれいにしてるじゃん」
「頑張って掃除したからね」
未だに緊張した様子の彼を見ていて、涼花はイジメたくなり「どこに何を隠したのかなぁ」と無造作にクローゼットを開けてみる。
「いやいや、本当にそこは汚ないから」と制する彼に遠慮せず、その戸を開けた。
すると彼の言葉どおり、そこはもはや物置き、あらゆる物を詰め込まれ、外見だけは綺麗に見せているのが汲み取れる。
「今度から掃除しに来てあげよっか?」
涼花は笑顔で話しかける。
「今度来る時にはもう少し綺麗にしておきます」
「よろしい」
そんなやり取りで緊張をほぐしながら二人で食事をしながらゲームで遊ぶ。
優太がトイレに立った時、ふとある物が涼花の目に止まった。
それは長い髪、最近髪を切った涼花にはありえない長さの髪だ。
「じゃあ、続きやろうか」
呑気に戻ってきた彼に涼花は髪を見せ「これ、なに?」とだけ伝えた。
「えっ? なにそれ? すずちゃんの髪?」
彼のとぼけた顔に改めて怒りの表情で言う。
「私の髪こんな長くないから! 誰の髪よ!」
彼女の真剣さが伝わった優太は真顔で答える。
「本当に知らない、すずちゃんが髪切る前の髪が付いてたんじゃないの?」
その真剣な表情と言われた事が理に適っていた為、鬼のような表情を戻し「疑ってごめん」と涼花は上目遣いで可愛く謝る。
「いいよ、気にしてないから」
そんな彼女を愛しく思い、優太は優しく微笑み許した。
そんな小さな喧嘩の反動か二人のイチャイチャは激しさを増し、雰囲気が良くなっていく。
その雰囲気のまま優太は意を決して接近したが「ダメ、お風呂入ってからね」と諭される。
すると彼は脱兎の如くお風呂へ向かい、水浴びでもするかのような速度でシャワーを済ませようとしていたが、その間に事件は起こった。
(あっ、ゆう君のケータイ鳴ってる)
お風呂に入った瞬間、優太のケータイ画面に非通知の文字が浮かぶ。
ただそれだけの事であったが、そこに彼氏のケータイがあると知るには充分であった。
いけないと分かっていながら手が伸びる。
ケータイを立ち上げると暗証番号入力画面になり、涼花は少し考えを巡らした。
(暗証番号って…それほど見られたくない物があるのかしら)
涼花はちょっとした好奇心で彼の誕生日を入れてみるが弾かれる。
もしやと思い自分の誕生日を入れてみたがそれも弾かれた。
(これはもう見るなって事ね)
そう思いケータイを元の場所に戻そうとした時、その画面越しに髪の長い女の姿が見えた。
涼花は驚き直ぐ様振り向いたがそこに女など存在しない。
(なに今の…)
手にした彼のケータイを強く握り、改めて覗き込む。
すると…そこには…。
自分を襲おうと女が両手を前に突きだし走ってきていたのだ。
「きゃあ!!」
思わず彼のケータイを投げ捨て声を上げる。
「どうしたの!?」
数分でお風呂を済ませてきた優太が下着姿のまま、半分濡れている状態で出てきた。
「い、いまそこに女の人が…」
涼花の言葉より優太は床に落ちている物に目がいった。
「ケータイ見たの?」
「えっ?」
床には放り投げられた彼のケータイが転がっている。
「いや、これは電話があって…」
「ふーん」
優太は自分のケータイを拾い上げて涼花に見せた。
「着信なんて一件もきてないけど?」
そこには何も無い。
先程の非通知の着信など存在しなかったのだ。
「私、帰る」
怖くなった涼花は荷物を手に取った。
「帰るって…ちょっと…」と止める優太を振り払い、足早に部屋を出ていったのだ。
~~翌日~~
ちゃんと話をしようと今度は涼花の部屋へ優太を招待した。
招待したと簡単に言ったが涼花は実家暮らし、実家に呼ばれた経験など無い優太が緊張で震えていたのは言うまでも無い。
「えっ? ここなの?」
着いた彼女の実家を見て優太は唖然とした。
そこは寺、涼花は寺の子であったのだ。
出迎えてくれたのは彼女の祖父、皆藤良蔵である。
「君が優太くんか、わしは涼花の祖父で良蔵と申します」
「初めまして! すずちゃ…、涼花さんとお付き合いさせてもらってる中川優太と申します! よろしくお願いします!」
優太は体を固くしながら頭を下げてお辞儀をする。
「では早速だが、お堂の方に来てくれるかな?」
(お堂?)
優太は不思議に思ったが良蔵と涼花に連れられてお堂へと向かう。
そこで初めて昨日の詳細を優太は聞かされた。
「そんな事があったんだ…」
優太は彼女に向き直って「ごめん、怖い思いさせて」と謝り。
「いいよ、あとはおじいちゃんが何とかしてくれるから」
二人は二人の世界に入っていきそうであったが「ごほん」という良蔵の咳払いで現実に戻された。
「では始めようか」
その言葉と共に二人は姿勢を正し、良蔵のお経を聞いた。
お経が終われば、優太は茶の間に案内されお茶を一服もらう。
その時に見てしまった仏壇にある彼女の両親の写真、その事は胸に秘め涼花と二人で寺を出た。
駅までという彼女に優太は一緒にいたいと伝えたが「私、家の事しないといけないから」ときっぱり断られた。
その彼女の言葉にまだ優太は触れる事が出来ず「そうなんだ」と静かに応える。
優太と別れて家に戻ってきた涼花は髪を縛り手際よく家事をこなす。
するとお風呂の掃除をしている時、排水口に黒い塊が詰まっているのを発見する。
「なにこれ…」
その髪は彼の部屋で床に落ちていたのと同じ、明らかに私のではない長い髪である。
それを見つけたと同時に電気が消えお風呂の折れ戸が閉まった。
「あぁ、あ゛あ゛」
暗闇から聞こえる女性の低い声。
【ドン! ドン!】
涼花は戸を開けようとするが開かない。
「なんで? なんで開かないの!?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
【ドンドンドンドン】
浴槽から女がゆっくりと這って出てくる。
【ドンドンドンドン】
「助けて!! おじいちゃん!!」
孫の叫び声に良蔵は急いで駆けつけた。
「大丈夫か!」
お風呂の隅で丸くなり怯えている涼花に寄り添い、強く言葉を告げる。
「わしが何とかしてやるからな」
良蔵はこの事態を重く受け止め、すぐ優太の部屋まで連れていくように指示を出した。
彼の部屋に着いたのは二十一時、もう皆帰宅しゆっくりするような時間である。
二人の突然の訪問に優太は自分の部屋であるにもかかわらず正座をしていた。
「あの女の霊は優太くん、君に付いておる。だからこそ涼花を攻撃して遠ざけようとしておるのじゃ」
「それは私はどうすれば…」
「簡単な話じゃ、涼花をどれだけ想っているかここで叫んで霊との関係を絶つのじゃ」
予想外の提案に二人はきょとんと顔を見合わせる。
お祓いといえばお経やお札の祓うイメージがあったからだ。
「おじいちゃん、本当にそんな事で祓えるの?」
優太が言いづらい事を涼花は聞いてくれる。
「あぁ、祓える。おじいちゃんに任せなさい」
涼花と簡単な会話を済ませた良蔵は「さて」と優太に向き直った。
「優太くん、涼花に愛を叫びなさい」
優太は場を設けて改めて愛を伝えるのさえ恥ずかしいのに、それを彼女の祖父の前でやらなくてはならず、ましてやこんな遅い時間に叫ばなくてはいけないのだ。
「涼花、愛してる!」
優太は彼女に向き合い伝える。
「声が小さい!!」
良蔵は近所迷惑など考えずに大声を出す。
優太もそれに負けじと声を張った。
「涼花! 愛してる!」
「もっと大声で!!」
「涼花!! 愛してる!!」
「どのくらい愛してるんじゃ!!」
優太は身体いっぱい張り裂けんばかり両手を伸ばし愛を表現する。
「これくらい好きです!!」
「好きぃ~? 馬鹿者!! 愛してると叫ばんか!!」
「これくらい愛してます!!」
「もっと大きな声で!!」
「涼花!!! 愛してる!!!」
優太はご近所中に響き渡る程の大声で愛を表現した。
「よし、これだけ想いを伝えればもう出てこんじゃろ、また女の霊が出てくるような事があれば今日と同じように孫への愛を叫びなさい。そうすれば彼女は立ち去るからな」
もう優太の顔は真っ赤に染まり良蔵の言った事など耳に入っていない。
ふと見れば涼花も顔を真っ赤にしていた。
その後、心霊現象はピタリと止み二人は仲良く交際を続けるのであった。
あの霊の正体、それは優太を異常な程に愛する故、出てきた涼花の生き霊である事は良蔵しか知らない。
(了)




