自称私の親友と私の婚約者がくっついたらしい、わーい!
なんでもあり。
「私、エミリという親友に出会えて本当によかったわ!」
それが『自称私の親友』だという、グラリッサの口癖だった。
グラリッサが私に付き纏う…、えっと、行動を共にしてくるようになったのは、学園に入ってすぐだった。
同じクラスということは近い身分ということで、私たちのクラスは下から数えたほうが早い貴族の集まりだったが、だからこそ打ち解けるのも早かったと思う。
私だって、他のクラスメイトとはすぐに仲良くなった。
それなのに、グラリッサはその中でも浮いている存在だった。
「私、高位貴族の男性に見初められるために学園に来たの!」と嬉々として発言してしまう女…、ゴホン、ご令嬢がいるとは思わないじゃない?
いくら下から数えた方が早いからって、他の同級生も私も常識とマナーくらいは身についていた。
そんな中で幼稚…、未熟…、頭が弱い…、う〜〜〜ん、あっ夢見がち?な発言がぶっ放されるとは誰も思わないではないか。
しかも、そのためにこれまで婚約者は作らずにきたとくる。
そんなの絵本の中でだって、読んだことがない。
成り上がっているように見えたヒロインだって、実は亡命した敵国のお姫様でしたとか、元から身分のある人なのだし、私は幼少期だって王子様が迎えに来てくれるなど夢見たりはしなかったと記憶しているが。
最初から、下位貴族には下位貴族の決まった道のりというものがあるのだ。
そこから「私、逸脱します!」宣言で、誰が仲良くしたいと思うか。
リスクしかなくてお近づきになりたくない、同じクラスなのも隠したいくらいなものだというのに、どういうわけかグラリッサは私に懐いた。
クラスメイトがなんて返すか頭を悩ませている中、私が「その考えは改めた方がいいと思うわ」と言ってしまったからだった。
それに対してグラリッサは「私、はっきり言ってくれる人、大好きなの!エミリ、私のことを思ってくれてありがとう!」といきなり名前で呼んできたし、芝居がかった言い方にも胡散臭さを感じたし、酔いに酔いまくっているところには嫌悪感しか抱かなかったのだが、どうやら言っていたことは本当だったらしく、それ以来私の腕に抱きついてきては行動を共にしてこられた。
それだって、行儀が悪いというか、巻き込まないでほしかったが、一緒にいるからこそ私の婚約者とも対面するようになったのは、功を奏したと言ってもいい。
私は、婚約者であるジョーニーのことを好ましく思っていなかった。
下っ端貴族とはいえ、貴族は貴族だ。
そこに生まれたからといって地位が保持できるわけではないことを、ジョーニーはわかろうとも努力しようともしなかった。
お金は領民が生んでくれると思っているし自分はそれを使えばいいと、心のどこかで思っている言動も不愉快だった。
将来、この人と結婚しても私が苦労するのが目に見えている。
それでも、貴族令嬢が結婚しないなんてことは許されにくい。
父は相手がいるだけマシだと言って諦めていたし、母は「気苦労が絶えないだろうから、学園くらいは最後に楽しんでおいで…」と憐んでいたくらいだった。
まあ、実際は楽しむどころか迷惑しか被っていなかったんだが…。
前に何かの本で読んだのだが、人は何度もその人と会っていると好意や親しみを持つようになるらしい。
それは、グラリッサとジョーニーには効果覿面だったようだ。
私とジョーニーが学園内で会うたびに、そこにはグラリッサがいる。
頭はお花畑だが見た目もお花畑のように可愛らしく胸の大きいグラリッサは、ジョーニーの好みだった。
何よりそんなお花畑2人が揃ったら、隠れて燃える恋愛などのめり込むに決まっているではないか。
これはチャンスかもしれないと私はすぐに切り替えて、他の同級生に同情される道を歩み、グラリッサに絡まれたらすぐに隣のクラスのジョーニーに顔を見せに行った。
とにかく学園では3人でいる時間を増やして、一緒にお昼を食べたり、放課後も3人で出かけたりした。
グラリッサと2人でいる時には、ジョーニーにも素敵なところがあるとプレゼンまがいのことをして、ジョーニーと学園以外で会う時には、グラリッサって可愛いわよねと、とにかく2人に刷り込ませていった。
ただ一つ懸念していたことは、私の婚約者であるジョーニーがグラリッサの夢見る高位貴族ではないことだったが、恋に落ちてしまえばそれも気にならなかったらしく、杞憂だった。
本当にグラリッサが頭が悪くて助か……、情緖溢れていていいわよね、うん。
そうやってせっせと2人を会わせて半年が経った頃、ジョーニーが休日に会うのを渋り出し、あんなに付き纏っていたグラリッサが時々私のそばからいなくなるようになった。
これはついに来たかもしれない…!とあんなに心踊ったのは、生まれてはじめてだった。
ニヤつきたい気持ちを一生懸命抑えて、私は徹底して変わらず過ごしていた。
「私、エミリという親友に出会えて本当によかったわ」
ある日、いつものようにそう言い出したグラリッサだったけれど、いつもと違ってやや哀愁漂っていたので、またおかしなことを始めたわ…と気づいた。
「どうしたの、何かあった?」
「ううん、ただ心からそう思っているの。ありがとう、エミリ」
なぜか涙ぐんでそう言われたから、何かあったのかなと期待した。
それからしばらくして、グラリッサの妊娠が発覚した。
もちろん、相手はジョーニーだ。
だって学園内で、グラリッサがそう叫んだんだもの。
「ジョーニー!私、あなたの子どもを妊娠したの!こんなに嬉しいことはないわっ!」
高位貴族の方も利用する学園内カフェで、グラリッサはそう高らかに宣言していた。
また主役気取りなことで、と内心思ったことは許してほしい。
あたりはざわざわしていたし、クラスメイトはすぐに私に駆け寄ってそばにいようとしてくれた。
良識のあるクラスメイトたちは私に寄り添ってくれて、グラリッサがいてあんまり一緒にいる時間は少なかったけど、このクラスでよかったなと思った。
「私、あなたに愛されて幸せよ!私と家族になりましょう!」と売れない役者のように言ってのけたから、グラリッサって本当にすごいんだわ…と、そこではじめて拍手しそうになった。
ジョーニーはヒクヒクと顔を引き攣らせて何も言えずに突っ立っていたところを見るに、グラリッサと違ってやらかしたことだけは自覚していたようだった。
それからというものの、我が家とグラリッサの家とジョーニーの家で揉めに揉めて…。
なぜか三家族で話し合いの場を設けることになったのだが、私の両親は「娘は被害者であり、そちらの有責で婚約破棄一択だ。そちらの間女のことは好きにしてくれ」と主張し続けた結果、私は無事に婚約破棄が決まった。
あとはそちらで話し合っていただいて…、と私たち親子が離席しようした時、グラリッサが笑顔で私を引き留めた。
「エミリ、私言いたいことがあるの」
そう言って、スポットライトでも当たっているかのように、大袈裟に両手を組んだ。
「エミリは、ずっと私を思ってくれていたのよね?」
「え?」
「だって、私にジョーニーが素敵だと教えてくれたのはあなただし、ジョーニーを出会わせてくれたのもあなただわ」
この時点でも私以外誰も止めなかったのだから、グラリッサという狂気にみんながもう疲れていたのかもしれない。
「あの日、私に言ってくれた『考えは改めた方がいい』っていうのだって、そう。あれは高位貴族ではなくて、身分の合う同じくらいの貴族にしなさいってことだったんでしょう? だから、私、彼に出会えたの…!本当にありがとう、エミリ!大好き!」
「…………そうきたか」とここで言わなかったのは、未来永劫ファインプレーだったと語り継ぎたいレベルだった。
だから私は貴族令嬢らしく作り笑いを浮かべて、にこやかに言ってあげた。
彼女が望んでいるものを差し出せば、それで満足してくれるということは、これまでずっと一緒にいたのだからわかっていた。
それでようやく私には付き纏うこともないだろう、とも。
だから、心にもないことを、そっと優しく呟いた。
「グラリッサ、幸せにね」
感極まったグラリッサは、花のように笑って頷いたのだった。
「私、エミリという親友に出会えて本当によかったわ!」
主役女優には主役だと勘違いしてもらったままに、私は上がりたくもなかった舞台からようやく降りられた。
そうして、私は『自称私の親友』といらない婚約者をいっぺんに片付けたことにより、「仕方ないで諦めると碌なことになりませんので、マシな婚約者を見つけてくれない限り結婚しませんので。よろしくお願いしますね、お父様?」と、ちゃっかり希望を叶えることになるのだった。
はーっ、万々歳ね。疲れた〜!
了
お読みくださりありがとうございました!!
277日目。




