「自分を愛しすぎた男が辿り着く、究極のデッドエンド」
僕は、クリエイティブな事が、大好きです!!
僕の創作小説を、是非、読んで下さい‼️
俺の人生は、色のない砂を噛むような毎日だ。
人間関係が煩わしい。かといって、一人でいるのが得意なわけでもない。友人はおらず、当然、彼女なんて存在は夢のまた夢だ。
唯一の癒やしは、画面の向こう側にいる国民的アイドル『桜 薫』だけ。彼女を見ている時だけ、俺は現実の惨めさを忘れられた。
「ピンポーン……」
不意に、部屋のドアホンが鳴った。時刻は午後八時。 居留守を使おうかと思ったが、しつこく鳴らされるのも面倒だ。俺は重い腰を上げ、ドアを開けた。
「……はい、どちらさまで……って、えっ!?」
言葉を失った。そこに立っていたのは、見間違えるはずのない人物。今さっきまでテレビの中にいたはずの、桜薫だった。 「な、なんで……あなたが、ここに……!?」
彼女は完璧な笑顔で俺をじっと見つめている。混乱する俺の視界に、黒いスーツの男が割り込んだ。 「いかがですか? 彼女は。……本物の桜薫に、そっくりでしょう?」
「えっ? そっくりって……。彼女は、本人じゃないんですか?」
男は、ニタァと口角を吊り上げて答えた。「ええ、左様でございます」 男がパチンと指を鳴らした、その瞬間だった。
美少女――桜薫の顔が、ぐにゃりと歪んだ。鼻が沈み、瞳が溶け、白磁のような肌がどろどろとした灰色の粘土のように崩れていく。
「うわあああぁっ!?」
悲鳴を上げた俺の前に、溶けた塊は一瞬で再構築され……隣に立つ男と全く同じ姿に変わった。
「私はセールスマン。この何にでも変身できる軟体生物『カゲムシャーン』を販売しております。……あなたの人生を、文字通り『塗り替える』ことができるのですよ」
男の言葉が、俺の空っぽな胸に深く突き刺さった。俺は、差し出された契約書に震える手でサインした。俺の人生は、今日この瞬間、文字通り「裏返った」んだ。
***
真夜中の街。
そこは深海の底のように静まりかえっていた。重厚な高級車の後部座席に座るVIPが、突如として銃撃を浴びせられる。ガガガガッ! 車内の体は無残に弾け、朽ち果てた。
だが、銃撃犯たちが立ち去った後、本物のVIPが影から現れた。 「あ、危なかった……! まさか、本当に銃を使ってくるとは……」
車内のボロ雑巾が、糸で引かれた操り人形のように起き上がり、俺と同じ顔へと戻っていく。
「いやあ、命拾いしましたね。我が社『シャドウ・コープ』の影武者がいなければ、今頃……」
「あ、ありがとう! 特別料金を払わせてもらう!」
やった。人生の大逆転だ。俺は今や株式会社『シャドウ・コープ』の社長。社員はカゲムシャーンただ一人。感謝され、拝まれ、大金を積まれる。「金ならいくらでも出すさ!」というVIPの声を聞きながら、俺はついに「勝ち組」に上り詰めたことを確信した。
帰宅すれば、桜薫がビールを注いでくれる。中身が不定形生物だということを除けば、ここは天国だ。
環境保護団体のリーダーの身代わりになり、ナイフに刺されても、カゲムシャーンは平然と起き上がり、何食わぬ顔で戻ってくる。
「数百万円の報酬か。……笑いが止まらないな」 俺は、桜薫が注いだビールを一気に煽った。喉を通る刺激が、勝利の味に感じられた。
***
だが、事業はすぐに頭打ちになった。集客のツテがない。焦燥感でビールの味もしなくなった時、桜薫が心配そうに覗き込んできた。 「あなた、悩み事?」
彼女は完璧だ。だが、言えるわけがない。この無垢な笑顔を崩したくない。いや、中身のない人形に相談しても始まらないのだ。
ふと、脳裏に言葉がよぎった。――自分以外は、皆、敵。 「……自分だ。俺が本当に信頼できるのは、俺自身だ」 「――俺に変形してくれ」
彼女は一瞬微笑み、ドロリと溶けた。桜薫の可憐な瞳が徐々に濁り、見慣れた「俺の目」へと作り替えられていく。その視線が俺を捉えた瞬間、俺は初めて、心の底から安堵した。
そこに立っていたのは、俺だった。情けない顔、悲哀に満ち、目は死んでいる。
「さあ、相談を始めようか。……俺」 安アパートで鏡合わせの「俺」が二人。 「客の対象を変えればいい。俺は何にでもなれるんだから」
もう一人の俺が即答した。その瞬間、堰を切ったように本音が溢れ出した。
「……なぁ。もう、『いい人ごっこ』は終わりだ。何が人助けだ。あんな鼻持ちならない連中を守って、薄っぺらな賞賛を貰って、何が満たされる? 俺は、俺をゴミのように扱ってきたこの世界を土下座させたいんだ。味わわされた惨めさを、あいつら全員に叩き込んでやりたい。……なぁ、お前なら分かってくれるよな?」
目の前の『俺』が、下卑た笑みを浮かべ、深く頷いた。 「……わかった。言う通りにする」
俺は、共犯者の手を固く握った。理想の自分なんて、もういらない。 俺は、俺のために。世界をぶっ壊してやる。
***
俺たちは、馬鹿どもから金を巻き上げ続けた。借金をしては踏み倒し、偽の儲け話で全財産を奪う。逆上したカモが俺(の姿をしたカゲムシャーン)を殺しても、軟体生物にとっては痛くも痒くもない。俺たちは文字通り、一心同体。二人で一つだ。
他人を一人も信じられない寂しい男だと思うかい? 綺麗事ぬかすな。じゃあ、お前は俺を信じられるのか?
よし、なら俺を信じて貯金通帳と印鑑を預けてみな。……無理だろ?
お前だって、最初から誰も信じてやしないんだ。
今日も一人の男をハメた。病気の娘の名医を知っていると嘘をつき、治療費の名目で全財産を奪い取った。おっさんが泣こうが喚こうが知ったことか。
「俺を騙したのは構わん! だが……娘を、ないがしろにしたのは許さん!!」
逆上したおっさんがカバンから包丁を取り出し、目の前の俺の腹を刺した。おっさんは唖然としてそのまま走って逃げていった。
「本当に気の弱い奴だ。メッタ切りにすればいいのに」
俺は笑いながら、倒れた自分に歩み寄った。 「おーい、もういいぞ。名演技だった! もう痛がるフリしなくていいぞ!」
……けれど、おかしい。カゲムシャーンが、まだ痛がっている。 俺がそいつを抱き起こそうと手を添えると、妙にヌルッとした。 俺は自分の手を見る。「……ッ!!」
――血だ。真っ赤な、生々しい人間の血。
カゲムシャーンは血を流さない。だが、目の前の男は絶命しようとしている。 戦慄しながら、俺は自分の手を見つめた。
指が、腕が、ドロリと灰色の粘土へ溶け出した。
俺が、カゲムシャーンだったんだ。 じゃあ、目の前で血を流しているのは……本物の、「俺」だったのか。
カゲムシャーンである俺は、オロオロと取り乱した。 究極のパートナー、何でも話せる大親友の「俺」を、俺が殺してしまった。
仲が良すぎたのだ。密着しすぎた。そのせいで、いつの間にか本物と偽物が入れ替わっていた。
「もういい。……もう、手遅れだ」
背後から聞き覚えのある声。例のセールスマンだった。 彼はそっと、俺の背中に触れた。その指が俺の体に沈み込み、融合していく。
「そうか。涙を流せない自分が辛いか。我々には血液も涙もないからな……」
セールスマンは慈しむような、あるいは無機質な声で続けた。
「彼のように辛い人生を歩んでいる男なら、我々と馴染むと思ったのだが……やはり、我々のように精神そのものを共有できる能力がないと、他人の悲しみや苦しみを分かち合うのは不可能だったようだ」
セールスマンと俺は、どろりと溶け合い、一体化した。 やがてその塊は一羽の鳥となって夜空へ羽ばたき、光の粒となって、高速で上空へと吸い込まれて消えた。
何が起きたのか。地上に残された俺の意識には、もうそれを理解する術はない。
だけど、逆に確信できるものもあった。 普通、自分は一人しかいない。それなのに、あの時、俺は二人いた。
だったら――。 俺という存在が一人くらい、この世界から居なくなっても構わないんじゃないか。
そう思った瞬間、俺は急に「楽」になった。 色のない世界が、ゆっくりと閉じていく。
(完)
どうでしたか?
「自分を愛しすぎた男が辿り着く、究極のデッドエンド」‼️
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