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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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3/3

おじさんとの出会い

デリを届けたテイは家に帰る。途中市場に寄ろうかと思ったが、家にはまだ食品が残っていたのを思いだした。

「そういえばデリが昨日大量のスープを作ってたっけ」

テイは帰り道でパン屋に寄りバケットを3本買った。

「一人だしこれだけあればしばらくは大丈夫だろう」

テイは独り言ちする。ふと行商に行く時以外で一人になるのが初めてだと気付いて、寂しさが顔を出した。

「オレはもう13だし、力も強い。これはきっと姉ちゃんが心配なだけだ」

テイは頷き、自分を納得させた。

町はずれまでくると靴屋の女性が出てきた。

「おや、お帰り。履き心地はどうだい?」

「すごく歩きやすいです」

「そりゃあよかった。またおいでよ」

「はい」

テイが返事をすると今度は服屋の女性が出てきた。

「一人ってことは、姉さんはうまくいったんだね」

「はい。あとオレの服までありがとうございました」

「ああ、うちの隣の床屋が弟で、兄ちゃんみたいに大きいから用意してあったんだ。もうちょっと大きくなって鬚が濃くなったら来てやってよ。鬚をあたるの上手いらしいから」

「はい、ありがとうございます」

テイは大人になっても仲良くやってる姉弟を知り嬉しくなった。

「オレと姉ちゃんも別々の仕事をするようになっても仲良くできたらいいな」


村へ入ると道の脇の木の下に男の人が座り込んでいた。年のころは父親の少し上くらいだろうか。黒い髪に所々白髪が混じっている。顔色は青白く目の下に隈が出来ていて、唇もカサカサでひび割れている。テイは声をかけた。

「おじさん。どうしたの?具合悪いの?」

虚ろな目をして男の人は顔を上げた。

「ここはどこだ?なんで俺はこんなとこにいるんだ?」

弱々しく話すと男の人は目を閉じ、もたれていた木からずり落ちた。

「おい!おじさん大丈夫か?おい!」

男の人は返事どころか身動きもしない。そんな状態の人を放っておけるようなテイじゃない。男の人を背負おうとしたが、なんせ相手の体に力が全く入っていない状態なのでずり落ちてくる。仕方なく荷物のように左肩に載せ、パンの入った袋はに咥えた。左手で腰のあたりを、右手で足を押さえテイは走った。

家に着くころには、力と体力に自信があるテイも息が上がっていた。男の人を父親が使っていたベッドに寝かせ、息をしているのを確認するとやっと一息ついた。

デリが毎日掃除をして綺麗にしてはいるが、かなり古い小屋のような小さな家。盗られるようなものはない。テイが草で稼いだ金貨は、テイのベッドの下の床下にしまってある。それを取り出すにはベッドをどかさないといけない。この村でそんなことが一人で出来るのはテイくらいだ。

テイは新品の服を脱ぎ、いつもの服に着替えた。スープを温め、パンを薄く切る。食卓に並べると男の人に声をかけた。

「おじさん。起きれる?」

男の人はゆっくりと目を開けた。

「何かいい匂いがする・・・」

「スープを温めたんだ。食べれそう?」

男の人が頷いたので、テイは手を貸して起き上がらせた。男の人の腕を肩に載せ、食卓まで連れて行く。よろよろと男の人が席に座ると、ゆっくりと両手の平を胸の前で合わせた。

「いただきます」

男の人は一口スープを飲み込むと、目を閉じて「美味いなぁ」と呟いた。

2口目からは勢いよく吸い込むように食べていく。

「おじさん。パンもあるから食べなよ」

「いいのかい?ありがとう」

男の人は嬉しそうにパンを食べる。スープのお替りをよそうとパンをスープに浸して口に運んだ。

男の人は落ち着いた様子になり、テイは安心した。

「オレはテイ。おじさん名前は?」

「俺は勇作。佐々木勇作っていうんだ。兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

「ふーん、変わった名前だね。どこから来たの?あんなとこで何してたの?」

男は沈んだ顔になり下を向いた。

「俺は畑を広げようとユンボで土を起こしてたんだ。なのに気が付けば知らない場所にいて、ユンボも無くてただ歩いていたらあの場所で力尽きたんだ」

「ユンボってなんだかわからないけど、おじさんの近くには特に何もなかったよ」

「そう、なのか・・・」

二人の間に沈黙が流れた。


食べ終わった食器をテイが片付け始める。

「ああ、気が付かなくてごめん」

勇作は立ち上がった。

「いいよ。少しゆっくりしてたらいいよ」

「兄ちゃんは優しいな」

「優しい兄ちゃんにつけ込むみたいで悪いんだけど、もしよかったら少しここに置いてもらえないだろうか。もちろん親御さんがダメだと言うならしかたないが」

勇作は申し訳なさそうに言った。

テイは少し考えた。初めて会った人をいきなり住まわせるのは大丈夫なんだろうか。見た感じ悪い人ではなさそうだし、困っているようだし。ただデリがいない家の中は少し寂しかったのもある。

「いいよ。ただうちの畑を手伝ってもらえるなら」

「えっいいのかい?自分で頼んどいてなんだけど、親御さんに話さなくてもいいのかい?」

「父さんも母さんもいない。姉ちゃんはいるけど、今日から住み込みで隣町で働きはじめたんだ」

「そりゃあ、兄ちゃん若いのに苦労してるんだなぁ」

勇作は涙ぐんでしまった。テイは何か話を切り替えようと勇作に聞いた。

「ねえ、おじさん。畑を広げるってさっき言ってたけどどうするの?ユンボって何?」

勇作は顔を上げると嬉しそうに話した。

「うちの畑の横に荒地があってな、それを畑にするんだ。うちのユンボはちっちゃいんだけど、椅子の前に、こう長い腕が付いてて座ったままその腕で土を掘れるんだ」

右手を伸ばして手首をまげて掘る動きをして見せた。

「へえ、すごいね。おじさん畑をしてたの?」

「ああ、娘がちっちゃい頃、家庭菜園で作った野菜を美味しいって食べてくれてさ、それから安全で美味しい野菜作りにはまっちゃって。若い頃は農家なんか嫌だって都会で働いてたけど、会社を辞めて実家に帰ってすっかり農家だ」

勇作が笑って話していたが、急に沈んだ顔になった。

「娘に食べさせたくて始めたけど、嫁と娘は形が悪いとか、虫が嫌だとか、臭いとか言って都会に戻っちゃったんだ」

「おじさんも大変だったんだね」

「でも、畑なら任せてくれ」

「頼もしいなぁ、実は父さんが死んでから野菜がなかなか育たないんだよ」

「そうなのか?」

「うん。父さんがやってたのを思い出して同じようにしてるつもりなんだけど」

「そうか、じゃあ畑を見てみるか」

すっかり元気になった勇作をテイは畑に案内した。


勇作は畑の中を歩いては時々土を取って手のひらの上に広げて見ていた。テイが作った小さな水路を見ては「ほう」とか「ふーん」とか言いながら見て回った。一通り見て勇作はテイに話し掛けた。

「兄ちゃん」

「テイでいいよ」

「んじゃあ、テイ。この畑はなんでこんなに虫がいないんだ?何かしてるのか?」

「虫除けにこの灰を畑に撒いてるんだ」

テイは畑の枯れ草や毒草を燃やした灰を見せた。

「どの辺に?」

「全部だよ」

「それでかぁ」

「あと、あの萎れた苗はなんだい?」

「ポメトだよ。上には実がなるし、根にも芋がつくんだ。父さんがあそこに植えてたからオレも植えたんだけど育たないんだ。あとあっちには豆、そっちには菜っ葉の種を植えた。でも芽が出ないんだ」

「それじゃ、肥料は何をやってるんだ?」

「肥料?肥料ってどういうもの?」

「その答えじゃやってないってことだな」

勇作は一人頷いた。

「あのなテイ。この畑には問題が3つある。だから育たないんだ」

テイは驚きのあまり声が出ない。

「先ず1つ目。ここの畑の土には栄養がない。特にあのポメトだっけ?上にも下にも実がなるならかなりの栄養が必要だ。まして父ちゃんが作ってたところに同じ物を植えたんじゃ連作障害が起きてもしかたない」

「栄養?連作障害?」

「テイだってメシを食うだろ?植物だって水だけじゃ足りないのさ。連作障害ってのは同じ作物を同じ場所で作ると出る。例えば誰かがメシを食ってほとんど残ってないところで、さあどうぞって言われても食うもんがないだろ」

「うん」

「それを予防するには植える前にたっぷり土に栄養をやらないといけないんだけど、肥料もやってないみたいだしな」

「それじゃ、育たないのはオレと土のせいじゃないか。オレ姉ちゃんに悪いこと言っちゃった」

「なんだ、何か言ったのか?」

「うん。姉ちゃんが世話をすると育たない。ブラックハンドだって」

「そりゃあ、可哀そうなこと言っちゃったな。今度美味い野菜を食わして謝ればいいさ」

すっかりしょげたテイに勇作は言う。

「しょげてる場合じゃないぞ。まだ2つあるからな」

テイが頷くと勇作が灰を指差して言った。

「2つ目はあの灰だ」

テイは驚いて灰を見た。

「あの灰は虫や動物避けになるし、野菜が虫や鳥に食われるのを防いでくれるんだよ」

「そうだな。実が付き始めてから畑に撒くのはいい。今この状態で撒いたら土の中にいる虫や微生物を殺してしまう」

「微生物?」

「ああ、目に見えないくらいちっちゃい虫で、土に栄養を与えてくれるんだ。だから撒くなら畑の周りにグルっと、こんな風に撒くんだ」

勇作はじゃがんで地面に四角を書き、それを囲むように一か所穴が開いた円を描いた。

「なんでここはくっつけないの?」

テイもしゃがんで円を見て聞いた。

「ここは出入口だ。虫が中から出てくときや外から入って来る場所がないといい虫が集まらないからな」

「ふーん」

「じゃあ3つ目いいか?」

「うん」

「3つ目は種の植え方だ」

「植え方?」

「平らなとこに種を植えてるだろ」

「うん」

「水路から水が入ってきって種を流しちまう。あの水路はいい考えだ。だから種が流されないように、土を盛って種を植えるんだ」

テイは勇作の言葉に驚くばかりだった。

「さて、何から始めるかな」

見つけた時と別人のように生き生きした勇作をみてテイは少し嬉しくなった。








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