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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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2/3

屋敷に行く

ダリは朝早く起き、井戸から水を汲んで体を拭く。洗濯済みの少ない衣服から選んだのは、テイがまだ成長する前の服。

「姉ちゃん、なんでそれなんだよ」

「これが一番こぎれいだったんだよ」

テイは毒草を売りそこそこ稼いでいたが、ほとんどを町での食品の購入に充てていた。半分は村で転売し残り半分は家に持ち帰ったが、テイもダリもよく食べる。畑の野菜がなかなか育たなくても二人はひもじい思いをすることがなかった。毎日腹いっぱい食事が出来ることに満足していたし、外に出かけるのはテイが行商に行くときくらいなので、二人とも衣服のことまで考えてはいなかった。

テイはため息をついた。

「まあ、いいや。行こう」


二人は出た。少し早足のテイにデリは着いて行くのがやっとだった。テイは元々口数が少ないが、家を出てから一言も発していない。

「テイ、怒ってるの?」

「怒ってないよ」

「じゃあなんでそんな早足なんだよ」

「ちょっと先に寄りたいところがあるんだよ」

テイがそう言うと付いていくしかない。デリも黙って歩く。やっとテイが立ち止まったところは村から隣町に入ってすぐの服屋の前。

「こんにちは。すみません」

テイが声をかけて店に入る。デリも後ろに付いて入る。「はーい」と店の奥からふっくらとした女性が出てきた。

「あら行商のお兄さんじゃない。商売なら裏口に回ってもらわないと。それに今は野菜は間に合ってるのよね」

「いや、今日はそうじゃなくて」

テイはダリの襟首を掴んで自分の前に出した。

「これ、うちの姉なんですけど、これから人に会うのに碌な服持ってなくて、なんとかしてもらえませんか」

子猫のように摘まみ出された少年のような少女。店主の女性はデリを見るとニヤリと笑った。

「そりゃ面白そうな仕事だね。よし、任せな。時間はあるのかい?」

「ダヒューズさんのお屋敷に、あと2時間ほどで行かなきゃいけないんです」

「うん、十分だ。ところで結構金額がかかるけど大丈夫かい?」

テイは金貨を5枚出した。

「これでお願いします」

女性はニッコリ笑い金貨を5枚受け取った。店の壁際の棚からシャツとズボンを取り、テイに渡した。そして店の奥の右側のカーテンを指差した。

「これはサービスだよ。アンタはあっちで着替えて待ってな」

「ほら、アンタはこっちだよ」

女性はダリの手を引き左側のカーテンの奥に連れていった。


1時間ほど待つとテイに声がかかった。カーテンを出ると紺色のワンピースを着たデリが立っていた。

「おお、姉ちゃん女の子みたいだ」

テイの正直な感想が口から出るとデリに頭を叩かれた。

「使い古しだけど、これも上げるからね」

女性が布で出来たバッグを出し、その中へ来ていた服、今着ているものと別の服、そして下着、靴下と詰めていく。

「あとこれはおつり」

テイに金貨を1枚渡した。

「急ぎだからあんまり上等なものはそろわなかったからね。それ持って2軒先の靴屋に寄りな。アタシの妹がやってるんだ。話は通してあるから」

「はい。いろいろありがとうございます」

ダリとテイは頭を下げた。

「いいさ、稼ぐようになったら注文で作っておくれよ」


言われた通り2軒先の靴屋に行くと服屋の店主を少し小柄にしたような女性が待っていた。ダリにはつま先が丸くかかとの低い黒い布で出来た靴。テイには茶色のガッチリとした靴を用意してくれていた。

どちらも足に吸い付くような履き心地だった。テイは服屋で言われた通り金貨を出した。

「ありがとうございます」

「いやいや、こちらこそありがとね。二人とも頑張って」

「はい」

「稼ぐようになったら注文で作っておくれよ」

服屋と同じことを言われ二人はクスリと笑った。

「姉ちゃん、急ごう。時間に遅れるわけにはいかないから」

「うん」

二人は早足で歩き出した。


町の中心部には教会と学校があり、その手前にテイが草を売っているダヒューズさんのお屋敷がある。二人はお屋敷の裏口に回ると、テイが勝手口から声をかけた。すると待ち構えていたかのように執事が現れた。

「こんにちわ」

「オヤ、約束の時間には少し早いようですが?」

「はい、旦那様をお待たせするわけにはいかないので早目に伺いました。旦那様のお時間が空くまで待たせていただけないでしょうか」

「よい心掛けですね。そちらはお話のあったお姉さんですか?」

「はい」

「初めまして。ダリと申します。よろしくお願いいたします」

いつものガザツな様子をすっかり隠したデリが頭を下げた。

執事はダリの姿を眺めると、小さく頷いた。

「申し訳ありませんが、ここで少し待ってもらえますか?旦那様を呼んで参りますので」

「「はい」」

二人は揃って笑顔で返事をした。


ほどなく執事は主人を連れて戻ってきた。

「旦那様。今日はお時間を作っていただきありがとうございます」

「いいんですよ。こちらも息子付きのメイドが急に辞めてしまって困っていたところなんです。テイ君のお姉さんなら是非にと思ってね」

「メイドですか?下働きではなく?」

ダリが思わず口を開くと執事が答えた。

「まずは下働きをしてもらって、その様子でメイドにするかを判断します」

ダリはそれを聞いてホッとした様子をした。主人と執事は落胆すると思っていたのに、逆に喜んでいるように見えて少し驚いた。

「メイドじゃなくていいんですか?」

執事がダリに問うとダリはニッコリ笑って答えた。

「家のことはほとんどしていたので自信はあるんですが、メイドというのをしたことがないので」


ダリはその日から住み込みで働くことになった。

メイドになればお屋敷の隅に小さな部屋がもらえるらしいが、下働きなので庭の隅の小さな小屋の一室をもらった。もとは庭師の休憩小屋だったが、今は年配の庭師が一人。しかも家からの通いなので小屋は物置となっていた。小屋には小さなキッチンも風呂もある。ダリ一人には十分すぎる設備と広さだ。まして学校は目と鼻の先。仕事の無い時は自由に通っていいと言われれば、ダリには楽園だ。

「じゃあ、姉ちゃん。頑張ってな。そろそろ行くわ。行商の時は必ず寄るから」

少し寂し気に言うテイ。

「なんだ、寂しいのか?姉ちゃんは大丈夫だよ!」

テイの背中を叩いてデリは笑った。

「寂しくなんかないから!姉ちゃんが何かやらかさないか心配なだけだから!」

テイは顔を赤くして言って去った。


「それでは屋敷の者に紹介しましょう。私の後を付いてきてください」

「はい」

「先ずは、この屋敷の執事をしておりますハリルです。わからないことがあったら私に相談してください」

執事が庭を歩きながら話す。

庭には見たこともない綺麗な花が咲いていた。その奥に畑のようなものが見える。

「ハリルさん、あの奥は畑ですか?」

「あれは薬草園です。旦那様のお仕事に使われる薬草を栽培しています。庭師以外は近付かないように言われていますので、旦那様に言われた時以外近付かないように」

ダリは少しガッカリした。畑仕事は嫌いではない。むしろ好きな方だ。ただ野菜達に好かれていないだけだと思う。

「屋敷の中への出入りは必ずここからです」

「はい」

最初に訪れた裏口から屋敷に入る。

先ずは厨房に行く。父親くらいの年齢の料理長とダリと料理長の中間くらいの年齢の料理人、そしてやけに威勢のいい女の人がいた。

「料理長のヨゼフと息子のハンス、ハンスの母親で厨房周りの下働きをしているハンナです」

「よろしくお願いします」

ダリはペコリと頭を下げた。厨房の中は忙しいらしくヨゼフが「おお」と返事をしただけで、他の二人はクルクルと厨房の中を駆け回っていた。

また歩き出してすぐに年配のメイドがツカツカと近寄ってきた。

「おお、ちょうどいいところへ」

「ちょうどいいって、私はハリルが呼んでいると聞いてきたのですが?」

「それは失礼。年を取ると最近のことはすぐ忘れてしますので」

「そんなに耄碌しているのならそろそろ引退を考えられてはいかがです」

「それもいいんですがね、なかなか後を任す者がいなくて出来ないんですよ」

執事とメイドは笑顔で会話をしているのに、二人の間には火花が見えるようだ。

「あの・・・」

ダリが声をかけると二人は修まった。

「メイド長に紹介しますね。今日から入ったダリです。下働きから始めますが、いずれはメイド長にお任せする予定です」

メイド長は顎に手を当てダリを頭からつま先まで眺めた。

「ダリです。よろしくお願いいたします」

「歳は?」

「15です」

「うん、よし、じゃあ行こうか」

「えっ」

メイド長はダリの腕を掴もうとしたとき、執事が間に入った。

「今日は紹介だけです。しばらく下働きをしてから、とご主人の命ですので」

執事は迫力のある笑顔で言うと、メイド長は手を引いた。

「わかりました。こちらも人手不足なので早目にお願いしますよ。ではこれで失礼します」

メイド長は素早くしかも優雅に去って行った。


屋敷内を案内され、途中他ののメイドに会ったので頭を下げた。

最後に案内されたのは主人の部屋。

執事がノックをすると中から先ほどのメイド長がドアを開けた。

「失礼します」

ダリは執事の後に付いて部屋に入った。

「よく来たね。話はテイ君から聞いているよ」

ニコニコと主人が迎えてくれた。先ほど会ったばかりだが、初見のような言葉だ。

主人の隣には気品が滲みでているような夫人といかにも腕白そうな男の子がいた。

「紹介しよう。私の妻と息子だ」

「奥様、坊ちゃま、ダリです。よろしくお願いいたします」

夫人と男の子はダリを一目見ただけで目を逸らした。

「ハリル。彼女はどんな様子だい?」

「まだ今日だけではなんとも」

「そうかい」

主人はダリに向かって聞いた。

「学校に行きたいと聞いたが本当かい?」

「はい」

主人は何故か嬉しそうに微笑むと執事に言った。

「朝から昼まで働いてもらって、昼から学校。夕方からまた仕事に入ってもらうようにしよう。ハリル手配を頼む」

「かしこまりました」

「ありがとうございます」

ダリは頭を下げた。

夫人は無表情で立っている。息子はなんだか面白くなさそうな顔をしていた。


その後ダリは執事と一緒に学校へ行った。学校では執事が手続きをしている間ダリは試験を受けた。

学校から帰ると執事はダリに言った。

「今日は自分の部屋の準備をしてください。夕食は夜8時に厨房まで来てください。仕事は明日朝7時に裏口に来てください」

「わかりました」

ダリは庭の隅の小屋に行った。物置となっていた場所なので掃除道具も揃っていた。ダリは部屋を掃除し、物置の整理もした。終わった頃には日も沈んで暗くなっていた。部屋には時計もあり7時になっていた。

「お腹も減るはずだ」

ダリはランプの明かりを点け小さな風呂に水を汲み湯を沸かした。湯が沸きあがった頃には夕食の時間。

ランプを持ち厨房に行くとハンナが一人分の食事を用意してくれていた。

「おや、時間に正確なんだね」

「ありがとうございます」

デリはパンとスープをほうばった。

「あんた、美味しそうに食べるね」

「美味しいです」

「そうだろ、うちの亭主の料理の腕はピカ一だからね」

ハンナは嬉しそうに家族の話をしているそばで、デリは食事をした。

「ご馳走様でした。とても美味しかったです!」

「明日も楽しみにしてな」

「はい」

デリは小屋に戻り久しぶりの風呂に入り、新しい生活にワクワクしながら眠った。














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