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美味しい野菜が食べたいです  作者: 熊沢五月


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1/3

畑を枯らす姉

勇者も冒険者も聖女も出てこない異世界ものです。

「美味い!」


小さな食卓に似付かわしくない大きな声が響く。声の主はダリ。栗色の短い髪、清潔感はあるが着古したシャツとズボン。男性にしては細身で身長は低め。手掴みで野菜をかじる姿はワイルドだが一応女性だ。

テーブルの向かいには女性的な顔をしているのに天井に頭が着きそうな大男。ダリが野菜にかぶりつく姿を、柔らかい笑顔で見ている。名前はテイ。ダリの弟だ。


「姉ちゃん、美味いのはわかったからもうちょっとどうにかしてくれよ。なんかおっさんみたいだよ」

「まあいいじゃないか。二人きりの姉弟で、弟は仕事でなかなか家にいないし、女一人はなかなか物騒だしさ。しょーがない、しょーがない」

「それにしてもすごい食べっぷりだなぁ。・・・ん、もしかして、姉ちゃんまた畑枯らしたのか!」


ダリの動きが止まる。

その態度にテイは立ち上がりツカツカと裏口に向かうと勢いよく戸を開けた。そこには畑だったらしい光景があった。茶色く萎れた苗、苗、苗。帰ってきた頃には発芽しているだろうと期待して種を植えた一角も土のまま。テイは言葉も表情も失った。


「アタシは何もしてない!テイに言われた通り朝と夕方ちゃんと水をやった!」

ダリは必死に訴える。

テイは畑の土を見た。適度に湿り気を帯びているし踏み荒らされているわけでもない。テイはため息をついた。ダリは弟のため息を見て、何を言われるのか緊張が走る。


「姉ちゃん。オレが悪かった」

まさかの謝罪の言葉にダリは驚く。

「姉ちゃんに水やりを頼んだのが原因だ。ブラックハンドなんて実在するとは思ってなかったけど、まさかこんな近くにいるとは・・・」

「えっ、何それ、私のこと?」

「そうだよ。よくよく考えればわかることだったのに。姉ちゃんの手にかかればどんな丈夫な植物だって枯れる」

「そんなことない!ほらあそこに何本かすくすく育ってる!」

ダリは畑を指差した。

「あれはきっと毒草だよ」

テイは畑に進みダリの指差した草を抜いて持ってきた。そのうちの1枚の葉をダリに渡し、自分も1枚口に入れる。

ダリとテイはもごもごと租借する。

「ほら、匂いもなければ味もしない。いつものやつだ」

テイが言うとダリは悔しそうに毒草を飲み込んだ。

この家の畑にはときおり毒草が生える。その毒草は味も無ければ匂いもしない。両親がいた頃からそうだった。両親は毒草が生えると抜いて、たき火の中に放り込んで燃やしていた。小さい頃からそのたき火で、川で獲った魚や畑の芋を焼いて食べていたせいか二人には耐性がある。燃やした灰をパンくずと混ぜて屋根裏や納屋に撒くとネズミはいなくなった。


「じゃあ、姉ちゃんオレ洗ってくるからいつものように干しといて」

「わかった」

テイは井戸の水を汲み毒草の土を落とす。軽く振って水けを落とすとダリに渡す。ダリは家の奥から網で囲まれた籠を持ってきていた。その中に毒草を吊るし、籠ごと家の裏の軒下に引っ掛ける。


◇◇◇


弟のテイは行商をしている。昔は両親が作った野菜を母が行商をして売っていた。テイはそれによくついて歩いていたので、母が亡くなった後同じように行商を始めた。けれど父が亡くなり姉と二人になると家には売りに出るほどの野菜が獲れなくなった。その代わり数年に一度くらいしか生えなかった毒草が度々生えるようになった。今その厄介物だった毒草が二人の家計を支えている。


父が亡くなってすぐ、テイは畑の野菜を背負い隣の町まで行った。ある屋敷の裏口で野菜を見せているとたまたまその家の主人が現れた。主人は薄汚い格好の子供が野菜を売りに来ているので、施しに少し高く買ってやろうと思っていた。

「坊や、その籠の中身を全てもらおうか」

主人が言うとその家の下働きが止めた。そしてテイも首を振った。

「うちの野菜はお父ちゃんが丹精こめて作った最後の野菜だ。出来を見てからにしてください」

「この小僧、旦那様になんて言い草だ!」

「いいんだ。そうかじゃあ見せてもらおうか」

主人が笑顔を見せるとテイは野菜を籠から出して並べ始めた。

「どれも隣村から持ってきたとは思えないほど新鮮で艶のあるいい野菜じゃないか」

主人がそう言うとテイは嬉しそうにしていたが、籠の底を見て顔色を変えた。主人はそれを見逃さなかった。

「どうしたんだい?」

「なんでもないです。売り物じゃないのが混じってて・・・」

「私は籠の中身を全て買うと言った。だから見せてくれないか」

テイは恐る恐る主人に見せた。

「これは!」

主人はテイの野菜を全て奥に持って行くように下働きに指示を出した。二人になると主人は小声でテイに話し掛けた。

「この草はどうしたんだい?」

「これは、時々うちの畑に生えるんです。匂いも味も無くてとても売れるものじゃないです」

テイがそう言うと主人は懐から財布を出し、大銅貨を5枚と白金貨を1枚手に握らせた。

「この草が生えることは誰にも言ってはいけないよ」

「こんなにもらえないです」

「この白金貨はあの草の値段だ。そしてまた生えることがあったら私のところに持ってきてほしい。そして他の誰にも売らないでくれないか」

テイは白金貨と大銅貨を握りしめ頷いた。

「旦那様。お願いがあります」

「なんだ。言ってごらん」

「あの、白金貨はオレのような貧乏人には使えません。だから銀貨かせめて金貨にしてもらえないでしょうか」

主人は戻ってきた下働きに執事を呼びに行かせた。そして執事が来ると何か耳打ちをした。執事は奥に行くとすぐに戻り主人に小袋を渡した。

「これが白金貨の代わりだ」

そういってテイに小袋を差し出す。テイは白金貨を主人に返し、小袋を受け取った。

「すみません。失礼します」

テイは小袋の中身を出し数え始めた。主人は薄汚い姿の子供が受け取った金を数え始めることに興味を持った。小袋の中身は主人が執事に指示をしていた。数え終わったテイは主人に言う。

「旦那様。金貨5枚。銀貨が51枚ありました。銀貨が1枚多いです。なのでこちらはお返しします」

銀貨を1枚差し出したテイに、主人と執事は関心した。

「ありがとうございました」

頭を下げ去っていくテイを見て主人は執事と下働きに言った。

「またあの子供がきたら必ず私を呼んでくれ。もし私が手を離せないような時は待たせておくように」


子供二人しばらく暮らすには十分過ぎる金額だった。

父が亡くなり畑の野菜は年々少なくなっていった。ただごく稀にしか生えなかった草が月に1度は見つかるようになった。テイはその度草を隣町の屋敷に持って行った。代金を受け取り、銀貨分を町の市場で肉や野菜を買い村に戻る。仕入れた野菜の半分を村で1割増しで売った。残りの半分は姉と二人の食料になる。

1年ほどそうやって暮らしてきたが、テイが畑の世話を頑張っても父のように質のよい野菜が出来なかった。


◇◇◇


テイはデリに言った。

「姉ちゃん。働きに行かないか?」

「は?何言ってんの。アタシが働きに行ったら掃除や洗濯、ご飯の支度はどうすんの」

「オレ一人分ならなんとかなるし、姉ちゃんだって母さんが死んで、学校も辞めて家のことばかりじゃないか。姉ちゃん勉強好きだったろ」

ダリは勉強が好きだった。世の中には自分の知らないことが沢山ある。少しずつでもそれが知れることが嬉しかった。

「オレは母さんと一緒に行商してたから、読み書きも計算も出来る。だから学校は必要ないと思ってる。でも姉ちゃんはもっと勉強して、何か違うことが出来ると思うんだ」

「テイの言いたいことはわかった。でもアタシが勉強することと働きに行くことは別じゃない?」

「実は隣町のお得意さんが女の下働きを探してたんだ。使用人が何人もいるお屋敷で、旦那様が学校にも通わせてくれるそうなんだ」


実はテイが草を売っている屋敷の主人にダリを売り込んでいた。屋敷の主人は正直で頭の回転が速いテイを気に入っていた。ある時家で働かないかと持ち掛けられた時、テイは父親の残した畑を続けたいと辞退した。その代わり姉のデリなら自分よりも賢くて働き者だから、と伝えていた。畑の草を乾燥させれば日持ちがすると考えついたのも姉だと。主人はテイが気に入っていたが、その姉にも興味を持った。なので姉が家で働く気になったら連れてくるように言っていた。


ダリは弟にだけ稼がせることに引け目を感じていた。ただ母が亡くなった後、家のことをするのが自分しかいなかった。父が亡くなり二人になってテイと二人で畑と家事をしていた。テイは害獣避けの罠を作ったり、近くの小川から水を引き込む小さな水路を作ったりしていたがダリはテイの手伝いと家事ばかりだったので、自分も稼ぐことをしたいと思っていた。ただ母が家事と畑をしていたので外で働くということを知らなかった。まして勉強までさせてくれるとは、テイの提案はダリには天からの祝福のように感じた。


「行く!行くよ。いつ行けばいい?」

目を輝かせて即答する姉を見てテイはホッとした。ダリは勉強好きだったが、家の経済的な事情で毎日は通えなかった。そして学校に行ける日を楽しみにしていたし、帰ってきたときは嬉しそうに父や母に話していた。それに屋敷の主人に売り込んだ手前、ダリが嫌がったらどうしようかとも思っていた。


「じゃあ、今日干した草が乾いたら持ってくから一緒に行こう」

「おう、そうしよう!」

「その前に、姉ちゃん、その言葉遣いちゃんとしてくれよ」

「うっ」

「あと、オレがいない間は体洗ってないだろ」

「いやぁ、そんなことは・・・。一人じゃいいかなって。まだ水も冷たいし、湯を沸かすのも面倒だしさぁ」


ダリは弟のテイに説教をされながらも、働きに出ることが嬉しくて顔がにやけるのを必死で堪えていた。















お読みいただきありがとうございます。更新も不定期ですが、のんびりお付き合いくださると嬉しいです。

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