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第84話 死の回廊の激突!漆黒のレーザーアックスと白銀の流星

コンドル王立研究所の冷たく巨大な地下通路は、今や二つの鋼鉄の魂が奏でる、破壊の交響曲の舞台と化していた。


白銀と漆黒。


光と影。


俺の駆るスターゲイザーと、クラウスの操るブラックナイト・カスタムが激しく火花を散らす。


これは、単なるスペースロボットの戦闘じゃねえ。


かつての友情がドス黒い憎悪の炎で焼き尽くされ、裏切りと忠誠、それぞれの譲れぬ信念が魂を削り合うような、泥臭い死闘だ。


「相変わらず、蛇みてえに陰湿な戦い方だぜ、クラウス!」


俺は、スターゲイザーの高出力レーザーサーベルで、ブラックナイト・カスタムの巨大なレーザーアックスの重い一撃を受け止めながら、奥歯を噛み砕く勢いで叫んだ。


ガキンッ!!


鼓膜を(つんざ)くような激しい金属音と共に、両者のエネルギー兵器が臨界寸前の光を放つ。


内臓を揺さぶる衝撃が、俺の全身をビリビリと駆け巡った。


薄暗い通路に、高熱のプラズマ火花が赤い涙のように飛び散る。


オイルと、焼けた高密度セラミック装甲のむせ返るような匂いが、コクピットにまで死の香りとなって漂ってくるようだ。


『フン、貴様こそな、ベレット。汚れたドブネズミのような野生の勘と、悪運の強さだけは健在のようだな』


クラウスの声は、どこまでも冷たく、無機質だった。


だが、俺にはわかる。


その奥には、歪んだ執着と、この死闘を心のどこかで愉しむかのような狂気の響きがある。


『だが、その程度の過去の遺物のような力で……アルベルト王子殿下の輝かしい未来を切り開く、この漆黒の(つるぎ)たる私を倒せるとでも思うか!』


クラウスは、薬物によって強制的に増幅されたフォワード能力を解放した。


ブラックナイト・カスタムの周囲に、禍々しい闇色のオーラが、まるで地獄の陽炎のようにゆらりと揺らめく。


薬に縋った紛い物の力……!


そこまでして、テメエは何を証明したいんだ!


直後、ヤツの動きが常人にはもはや予測不能な、人外のそれへと変貌した。


「はっ……!?」


瞬間移動に近いほどの超高速機動。


重力を完全に無視したトリッキーな軌道で通路の壁面や天井を蹴り、無数の残像を残して跳躍する。


レーザーアックスが、意思を持った死神の鎌のように、垂直、水平、斜めと、あらゆる死角から無慈悲に襲いかかってきた。


ドゴォォン!


かわし切れない。


通路の壁面に激突したレーザーアックスの強烈な衝撃波だけで、スターゲイザーの機体が激しく揺さぶられる。


「クソッ! この通路じゃ、狭すぎて捌ききれねえ!」


冷や汗を流しながら、視界の端で天井を蹴る漆黒の悪夢を追った。


逆さまになってレーザーアックスを振り下ろす、その一瞬の隙を捉えようと、集中力を極限まで高める。


コクピットの後部座席。


ミューは、瞑想するかのように固く閉じていた。


彼女のフォワードが、超高速で未来の可能性を詠み、俺に最適な回避経路を提示しようと必死に祈り続けてくれている。


≪……見える……! クラウスの次の動き! 右の壁を蹴って、その後、天井を滑り、左へのフェイント……!≫


ミューの頭の中に展開された未来のタペストリーが、俺の脳裏に直接、純粋な意志の奔流となって流れ込んでくる。


≪ベレット! 右! 壁を這うように垂直上昇! その後、左スラスターを最大限に吹かせて! 残像を残して回避!≫


「チッ! 無茶言うな! この通路でそんな変態機動は……!」


反射的に躊躇したが、ミューの言葉を信じ、スターゲイザーを通路の右壁へと文字通り垂直に「走らせた」。


直後、スラスターを全開にして空間を蹴る。


シュゴォォォォンッ!


間一髪。


漆黒のレーザーアックスが、先ほど俺がいた空間を、凄まじい轟音と閃光を伴って真っ二つに切り裂いていった。


「ナイスだ、ミュー! 助かった!」


≪まだよ! 彼はこの回避を読んでる! 直後に……! 注意……し……て……!≫


「……ミュー?」


ミューの警告が、不自然に途切れた。


次の瞬間、俺の脳内が、まるで砂嵐のような、冷たく淀んだノイズに飲み込まれた。


「……!? ミュー!? 今のは!?」


俺は思わず叫んだ。


ミューからの情報伝達が、突如として断ち切られたのだ。


振り返ると、ミューは苦痛に顔を歪ませ、両手で頭を抱え込んでいた。


「……ちがう……! 私の、観測した未来が……! ノイズで、汚染されている……!? どこから、こんな、強い……黒い……」


彼女のラピスラズリの瞳が、恐怖と混乱で大きく見開かれる。


クラウス……!


アイツのフォワードが……まるで汚染された沼みてえになってやがる!


クラウスが薬物でドーピングした禍々しい闇色のフォワードが、ミューの純粋な未来観測の光の糸を容赦なく執拗に絡め取り、引き裂こうとしていた。


未来のタペストリーは、今や真っ黒なインクで無残に塗り潰され、意味をなさないただのノイズと化していた。


……ミューのフォワードに、汚しやがって……!


許さねえぞクラウス!


だが、この極限の戦闘において、その「怒りによる一瞬の思考の停止」は、即ち死を意味する。


『無駄だ、ベレット』


クラウスの冷たく無機質な声が、通信機から直接俺の鼓膜を打った。


『反逆者は、この神聖なる力の前にただひれ伏し、消滅するがいい!』


クラウスはフォワードを漆黒の巨大な斧へと集中させ、大上段から振りかざした。


ドゴォォォォォォン!!


凄まじい衝撃波が通路全体を襲う。


壁面が砕け、金属片が弾丸のように飛び散る。


スターゲイザーは姿勢制御を失い、激しく通路の左壁へと叩きつけられた。


「ぐっ……!」


俺は身体を激しく打ち付け、呻き声を上げる。


コンソールのダメージ表示が、真っ赤な危険レベルへと跳ね上がった。


システムから、まるで悲鳴を上げているかのようなけたたましいアラートが鳴り響く。


その隙を見逃すクラウスではない。


漆黒の悪夢は通路の天井を蹴って急接近し、レーザーアックスをスターゲイザーの頭部へと無慈悲に振り下ろした。


「チクショウがぁぁっ!!」


俺は直感だけを頼りに、力を振り絞って操縦桿を激しく切り返す。


スターゲイザーはわずか数十センチの差で、アックスの直撃を免れた。


だが、レーザーアックスが壁に激突した際に生じた、膨大な熱とプラズマの奔流が白銀の機体を容赦なく襲う。


バシュウウウウウウウウッ!!


高密度プラズマの白い閃光が、通路を真昼のように照らし出す。


攻撃の衝撃でスターゲイザーは激しく体勢を崩した。


機体の外装が悲鳴を上げて軋み、内部のケーブルが断線する焦げた匂いがコクピットを満たす。


真っ赤な警告ランプが、俺の顔を狂ったように照らし出していた。


「ベレット! ごめんなさい! 私の力が、もっと……もっとあれば……!」


コクピットの中、ミューは俺の苦闘を、同じ痛みとして感じ取っていた。


フォワードで一体化しているがゆえの、避けられぬ同調痛。


ラピスラズリの瞳には大粒の涙がとめどなく浮かび、極度の精神的・肉体的負荷により、彼女の小さな鼻腔からは鮮血がツーツーと流れ出し、ヘルメット内を汚し始めていた。


「無理するな、ミュー! お前のせいじゃねえ! 俺がヘタクソなだけだ!」


激しい衝撃と警報音に満ちたコクピットの中で、俺は己の不甲斐なさに血の涙を流すような思いで、絞り出すような大声で彼女を励ました。


……クソッ、クソッ、クソッ!


俺が、コイツを守るって誓ったんじゃねえか!


俺一人なら、こんな場所で野垂れ死のうがどうってことはない。


金にまみれた賞金稼ぎの末路としちゃ、上等な方だ。


だが、コイツを道連れにするのだけは絶対に嫌だ。


ミューの血を見るくらいなら、俺の腕の一本や二本、安いもんだ。


だが、俺の脳裏には凍てつくような死の警鐘が轟き渡っている。


眼前のクラウスの圧倒的なフォワード。


スターゲイザーの応答性の限界。


そして何よりも……俺が守ると誓ったはずのミューに、この過酷な戦いと苦痛を強いているという耐えがたい自責の念。


それが焦燥という名の猛毒となり、俺の冷静な判断力を確実に蝕んでいく。


レーザーアックスの一撃をまともに受ければ、ジェネレーターに直撃し、俺たちは一瞬で宇宙の塵になる。


俺はもはや、防御と回避の行動だけで手一杯だった。


白銀と漆黒。


光と影。


戦況は、絶望的なまでに傾きつつあった。

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