第8話 吼えろスターゲイザー!地獄の包囲網を突破せよ
格納庫の中央。
白銀のスターゲイザーが、禍々しいほどの熱量を放ちながら起動シークエンスを開始していた。
機体を取り巻く整備アームが次々と退避していく。
俺は体を翻し、慣れた動作でコクピットに飛び乗った。
コクピットを満たすのは、赤く点滅する警告灯。
エネルギーコアへの負荷、武装残量、そして絶望的な戦況。
その光が、俺の顔を禍々しく照らし出す。
外部スピーカーからは、軋む母船の断末魔と敵のレーザー砲が切り裂く轟音。
不協和音が鼓膜を叩く。
「ナビィ! スターゲイザー、発艦準備! ミューを頼んだぞ! 何があっても、絶対に守り抜け!」
『了解いたしました。ミューさんの安全確保を最優先とします。……しかし、マスター。重ねて警告します。多勢に無勢です。どうか、ご無理だけは……』
ナビィの声には、ロジックを超えた深い憂慮が滲んでいた。
俺の相棒。
いつだって、俺の無茶に付き合ってくれる、最高の共犯者。
「ああ、分かってる! だがな、ナビィ!」
俺は操縦桿を軋ませるほど強く握りしめた。
怒りが、血液となって全身を巡る。
「ここでやられるほど、俺の首は安くはねえ!」
咆哮は、周囲の騒音すら打ち消すほどの激しさで木霊した。
応えるように、重厚な起動音が響く。
メインモニターに走る、緑のライン。
システム・オールグリーン。
「行くぞ!」
白銀の機体はエアロックへと飛び込む。
巨大なハッチが開いた瞬間、そこに広がっていたのは地獄だった。
無数の敵機が放つレーザー光。
星々のように瞬き、殺到する死の雨。
「――出力最大だ!」
主推進器と姿勢制御バーニアが、白銀の奔流を噴き上げた。
強烈なGが身体をシートに押し付ける。 轟音と共に、一筋の流星が漆黒の宇宙へと解き放たれた。
機体の翼は、地獄の業火めいた白銀の炎を纏い、激しく揺らめく。
それは、俺の魂の燃焼そのものだった。
◇
宇宙は、死と破壊の色に染まっていた。
視界を埋め尽くす黒鉄の質量。
コンドル王国軍の一個艦隊が、絶対的な絶望感を振りまいている。
無数の砲門が一斉に閃光を放つ。
収束された光の矢が、嵐となって殺到する。
「なめるなァッ!」
俺は機体をロールさせ、予測不能な機動で紙一重に回避する。
光の矢が後方の虚空を切り裂き、爆散した。
「行くぞ、スターゲイザー! 見せてやる、宇宙海賊の意地と、俺たちの魂の輝きをな!」
警告音が最高潮に達し、Gセンサーが限界を振り切る。
俺は怒りにも似た情熱を込めて叫んだ。
高出力レーザーライフルが火を噴く。
蒼い閃光は真空の闇を焼き、敵戦闘機の一群を正確に捉えた。
一瞬の後、次々と爆散する敵機。
金属片と火花の散弾が虚空に消える。
だが、息つく暇はない。
今度は敵艦隊からの三重飽和攻撃。
プラズマ、実体弾、ミサイル。
白銀の機体を紙一重で掠め、装甲を焼き焦がす。
コクピットの慣性制御システムが悲鳴を上げている。 負荷は限界を超えていた。
『右舷よりプラズマ砲、連射! マスター、回避不能領域です!』
「回避不能だと? ふざけんな! ナビィ、俺に不可能の文字はねえ!」
俺は怒号と共にスロットルを押し込んだ。 全身のバーニアを狂ったように噴射させ、宇宙空間を駆ける。
それは計算された戦術ではない。
生存本能が編み出す、狂気の舞踏だ。
熱警報がコクピットを満たす。
焦げた特殊合金の匂いが鼻腔を刺す。
クソッ! まるで地獄の業火だぜ!
『左舷、巡洋艦3隻、一斉射撃! 予測着弾時間、5.2秒!』
「ちくしょう! キリがねえぜ!」
強烈なGに血反吐を吐きそうになりながら、敵の急所を捉えた。
「ナビィ! エネルギーコア直結! レーザーライフル、最大出力だ!」
『危険域を遥かに超えます! 機体損傷覚悟で実行します! 発射まで、3.5秒!』
俺は、引き金を引いた。
ドバァァンッ!!
レーザーライフルが、極限まで圧縮された光の塊を吐き出す。
空間を歪ませながら、敵巡洋艦の分厚い装甲をバターのように貫通した。
一隻、また一隻。
心臓部を貫かれた巡洋艦群は、轟音と共に火の玉と化した。
『巡洋艦、3隻撃沈! 敵艦隊、一時的に戦線崩壊! マスター、反撃のチャンスです!』
「ああ、分かってるぜ! 次のおかわりを、たんまり食わせてやる!」
俺は獰猛な笑みを浮かべ、敵の中央へ突っ込んだ。
群がる戦闘機など、もはや相手ではない。
「さあ、ショータイムだぜえ!」
背部から長大なレーザーサーベルを展開。
星の光を集めたかのような、絶対的な光の剣。
白銀の機体はスラスター全開で敵編隊へ突入する。
一閃。
ザシュッ!
超高周波の音が空間を切り裂き、戦闘機は装甲ごと両断される。
白銀の光は爆炎の中を涼しい顔で駆け抜け、優雅に、悪魔的に、死をばら撒く。
俺の魂の渇望が、スターゲイザーを通して宇宙を燃やしていた。
『マスター! 敵旗艦、最後の防御シールドを展開!』
「フン! これで、終いだあ!」
俺はレーザーサーベルを、敵旗艦の艦橋目掛けて渾身の力で振るった。
白銀の流星はシールドを貫通し、艦橋を根元から切り裂く。
巨大な旗艦が轟音と共に沈黙した。
しかし。
戦場は、俺が想定していた以上に冷酷だった。
『マスター! 警戒レベル、レッド! 敵艦隊、増援を確認! 後方よりさらに3個艦隊が本宙域に突入! 数は当初の5倍以上です!』
ナビィの声に、濃い焦りの色が滲む。
心臓を鷲掴みにするような冷たい現実。
眼前の漆黒を埋め尽くす、圧倒的な艦影。
戦艦の主砲が、巨大な眼のように不気味に光っている。
『スターゲイザー、エネルギー残量35%! シールドジェネレーター、オーバーヒート寸前! 左腕部、大破! エネルギーコアへの負荷が限界を超えます!』
「まだだ!」
俺は喉の奥で獣のように唸った。
操縦桿を握る手が汗で滑る。
≪ベレット……!≫
少女の悲鳴に近い声が、脳裏を打った。
ミュー……。
こんな薄汚れちまった俺を信じる、ただ一人の少女。
「まだ、終わっちゃいねえんだよ!」
俺は魂を鼓舞し、再びレーザーサーベルを構える。
満身創痍の白銀の機体。
装甲は焼け焦げ、火花が散り、もはや傷ついた流星の残骸だ。
それでも、俺は再び死の舞踏へと身を投じた。
四方八方から放たれる光の奔流が、俺を確実に追い詰めていく。
逃げ場はない。
「クソッたれがあ!」
俺の魂の叫びは、広大な宇宙の静寂の中で、虚しく響き渡るだけだった。
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