第71.5話 仮面の下の決意と紅蓮の棘
【視点:ローズマリー】
作戦の次段階の説明を聞きながら、わたくしは仮面の下で、眼前のシスター――ミンクスへの疑念を、より深く、暗く募らせていた。
……やはり、ただのシスターではありませんでしたわね。
予測はしていた。
フフフ、まさか彼女が来るとは…。
歩く際の足の運び、重心の置き方、周囲を警戒する視線の動かし方。
その立ち居振る舞いは、フォワードに祈りを捧げるだけのただ聖職者のものではない。
高度な戦闘訓練を受け、幾度も死線を潜り抜けてきた者の気配。
アンドロメダ正教会の力を体現する『聖騎士』。
わたくしの肌が、同業者を見る時のような微かな粟立ちを感じる。
それにしても、解せませんわね……。
わたくしの思考は、彼女個人の戦闘能力から、背後にある巨大な組織の思惑へとシフトする。
聖女ナナリー様が、本当にこのような大胆で危険な作戦を指示なさったというのでしょうか?
長年、この血生臭い銀河において「中立」という聖なる衣を守り抜いてきたアンドロメダ正教会。
それが、一国の最高機密である『星の遺産』を強奪するなど、あからさまな敵対行為であり、宣戦布告に等しい愚行。
リスクが大きすぎますわ。
この任務、聖女様のご意思という『光のヴェール』の裏で、何か別の影が蠢いていますわね。
表向きは「銀河の破滅を救うため」。
ええ、素晴らしい大義名分ですわ。
わたくしは、裏社会の泥水の中で鍛え上げられた、自身の鋭敏な直感を信じることにした。
ベレット様は強くてお優しいですが、謀略という毒にはいささか無防備すぎます。
これは……『保険』が必要ですわね。
全てを正教会の掌の上で踊らされるわけにはいかない。
わたくしは静かに息を吐き、誰にも悟られぬよう、自身の情報端末の奥深くに眠る、暗号回線のキーを記憶の底から引きずり出した。
もしもの時は、わたくしが『薔薇の棘』をもって、ベレット様とこの船をお守りいたしますわ。
◇
全ての補給と調整を終えたスターダスト・レクイエム号は、ドッキングベイでシスター・ミンクスに厳かに別れを告げた。
分厚いコロニーのエアロックのハッチが、重々しい金属音と共に閉じられる。
船は再び、無限に広がる深淵の宇宙へと、力強く発進した。
一行が目指すのは、コスモノイド解放戦線の秘密基地『スペクトラム』。
新たな協力者……いえ、新たな「騙し合いの相手」との出会いが待っている。
銀河の命運と、それぞれの思惑を乗せた新たな航海が、今、始まりまった。




