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第58話 重なる鼓動、溶け合う魂。

「……! ベレット! ダメ! 数が多すぎる! 全方位から来る! 避けられない!」


ミューの悲鳴が、絶望に満ちた叫びへと変わる。


彼女のフォワードをもってしても、すべての死線を読み切ることは不可能だった。


視界が無数の「死」で埋め尽くされ、ノイズが走る。


「クソッ!」


俺は操縦桿を引き絞るが、機体の反応が追いつかねえ。


ミューの警告も、情報過多で意味をなさなくなっている。


ガン! ガン! ガキン!


不可視のハンマーで殴られたように、機体が悲鳴を上げる。


装甲が弾け飛び、警告灯が狂ったように明滅する。


『マスター! シールドジェネレーター、オーバーヒート寸前! 右脚部大破! エネルギーコアへの負荷が限界を超えます!』


ナビィの緊迫した声が、通信機から飛び込んでくる。


「くっ!」


奥歯が砕けそうなほど噛み締める。


その時。


ドガアァァァン!!


スターゲイザーの左翼が、大口径プラズマ弾の直撃を受け、轟音と共に、機体が激しく吹き飛ばされる。


世界が回転する。


制御不能なスピン。


意識が飛びそうになるのを、気力だけで繋ぎ止める。


「クソッタレェェェェェ!!」


『グハハハハハ! 白銀の流星も、所詮はただの鉄クズよ!』


ロデオの嘲笑が鼓膜を打つ。


「クソが……」


奥歯をギリリと強く噛み締めた。


視界は、電磁ノイズとプラズマ閃光の嵐に塗りつぶされ、艦影はおろか、周囲の状況すらまともに捉えられない。


「このままじゃ、ジリ貧だ…」


数百発の不可視の光線が、落下する俺たち目掛けて収束していくのが「肌」で分かった。


死ぬ。


今度こそ、本当に。


絶体絶命。


俺は隣で意識を失いかけているミューの顔を見た。


頬を伝う一筋の冷たい涙。


俺は……!


また、何も守れねえのか……!?


かつてリリーナを失った時の、あの冷たい絶望感が心臓を鷲掴みにする。


自分の無力さが、大切なものを壊していく感覚。


あの時と同じだ。


俺は何も学んじゃいなかったのか?


また繰り返すのか?


「……ふざけんな」


俺はギリリと歯軋りした。


口の中に血の味が広がる。


冗談じゃねえ。


二度とごめんだ。


俺一人がくたばるのは勝手だが、


コイツだけは――!


コイツの未来だけは、俺が守るって決めたんだよ!


時間がない。


一秒一秒が死へのカウントダウン。


俺の脳裏に、一つの狂気じみた打開策が浮かんだ。


リスクなんて考えている暇はねえ。


理屈もクソもあるか。


俺たちの魂を混ぜ合わせ、限界を超えるしかねえ。


「――やるしか、ねえ」


心臓が早鐘を打つ。


俺は震えるミューの手を強く握りしめた。


「すまねえ、ミュー」


魂を削るような、祈りにも似た声が出た。


「お前の(フォワード)、俺に貸してくれ!」


「……! うん! 分かったわ! ベレット!」


ミューは一瞬の迷いもなく頷いた。


その瞳に恐怖はない。


あるのは、俺への絶対的な信頼と、愛だけ。


馬鹿野郎……。


そんな目で見られたら、もう後には引けねえだろうが!


「もっと! もっと、私の魂の炎、フォワードの全てを、あなたに捧げる!」


ミューは、「星影の涙」のペンダントを、胸元でぎゅっと握りしめた。


瞬間。


堰を切ったように、ミューから金色の奔流が溢れ出した。


それは俺の身体を突き抜け、骨の髄まで浸透し、スターゲイザーのコアへと流れ込む。


熱い。


焼けるように熱い。


だが、不思議と心地いい。


俺の荒々しく泥臭い闘争心と、ミューの清らかで真っ直ぐな祈りが混じり合う。


≪ベレット……! 感じる! あなたが私の中に、深く入ってくる……!≫


ああ、聞こえるぜ、ミュー。


お前の鼓動が、俺の心臓と重なってやがる。


お前の痛みが、俺の痛みだ


二つの魂が完全に一つに溶け合った瞬間。


俺の中で何かが「覚醒」した。


スターゲイザーから、黄金色の眩いオーラが噴出する。


物理法則を超越したエネルギー。


フォワードのエネルギーが、傷ついた機体を優しく、力強く包み込む。


『な、何だ!? あの光は!? 機体のエネルギー反応が、計測不能!? バ、バカな!?』


ロデオの狼狽した声が遠くに聞こえる。


俺とミューの声が重なり合い、神託のようにコクピットに響いた。


「「ロデオ! テメエの下劣な遊びはもう、終わりだ!」」


思考と同時に機体が動く。


いや、機体が俺たちの身体そのものになった感覚だ。


指先の一つ一つまで神経が通っている。


「ミュー! 行くぞ!」


「うん! いいよ! ベレット!」


黄金の流星が駆ける。 質量を持った光速の槍と化し、ウルフパック艦隊の只中へ突撃する。


敵の放つ不可視の牙など、黄金のオーラの前では陽炎のように霧散した。


恐れるものは何もない。


俺たちは今、無敵だ。


右腕のライフルが神の怒りを吐き出し、左腕のサーベルが装甲をバターのように溶断する。


回避運動など不要。


圧倒的な暴力で蹂躙するのみ。


ドォン!


ドォン!


ドォォォン!


美しい破壊の交響曲(シンフォニー)


閃光と爆炎が深淵を照らす。 俺の瞳に映るのは、敵の動きではない。


ミューが視る、コンマ数秒先の「観測した未来」。


そこにあるのは「勝利」への道筋だけだ。


「「そこだ!」」


俺の意志とミューの感性が描く、完璧な軌道。


ロデオの放った数百発の飽和攻撃を、極太の黄金プラズマが消し飛ばし、そのまま巡洋艦を貫いた。


グゥワァァァァァァァァムッ!!


巡洋艦は、プラズマの熱に焼かれて連鎖的な爆発を起こした。


≪次は左!3隻が、旗艦を守ろうと集結してくる!今、一瞬だけ、シールドに歪みが生じたわ!≫


ブォン!


黄金色の光の刃が、宇宙空間に、弧を描く。


俺は、加速と同時にエネルギーサーベルを振り抜いた。


一瞬の閃光と二つの轟音。


3隻の護衛艦を両断した。


ドォン!ドォン!ドォォォン!


爆発の光が、ロデオの醜悪な旗艦の輪郭を、一瞬だけ、鮮明に浮かび上がらせた。


「ロデオ!テメエの悪行三昧も、今日で終わりだ!」


俺の怒りと、ミューの純粋な決意が、フォワードの奔流を、さらに増幅させた。


『ば、馬鹿な!?俺様の、ウルフパックの艦隊が、やられるだとォ!?グ、グハハハッ!見事だ!見事だぞ、ベレット・クレイ!』


ロデオは敗北を悟り、歪んだ歓喜に打ち震えた。


『さすがは、我が終生の好敵手(ライバル)よォ!』


狂った犬め。


負け惜しみも一流だな。


『今日のところは、このくらいで勘弁してやる!だが、覚えておけ!この借りは、必ず、貴様の命で返してもらうぞォ!全艦、撤退!ワープだァ!』


「逃がすかよ!ロデオ!」


『まあ待て、ベレットよ!』


ロデオの声が、耳障りな電子音のように、嘲るように響く。


『この宇宙(うみ)は広い。必ずや、また相見える時が来るだろう!その時こそ、貴様の、その忌々しい黄金の輝きごと、この俺様が、喰らい尽くしてやるわァ!さらばだァ!アディオス!』


ロデオは捨て台詞を残し、旗艦ごと姿を消した。


「ちっ…!あの、クソ犬め!逃げ足だけは、一流だぜ!」


俺は悪態をつきながらも、大きく息を吐いた。


黄金のオーラが、ゆっくりと収束していく。


嵐のような戦いが終わった。


身体中の力が抜けていく。


心地よい疲労感。


「ミュー、大丈夫か?」


隣でぐったりとしているミューに声をかける。


その顔色は蒼白だが、ラピスラズリの瞳だけは満ち足りている。


「うん……」


彼女は力なく、しかし世界で一番幸せそうな表情で微笑んだ。


「なんだか……すごく疲れちゃったけど。でもね、ベレット……」


彼女が俺の手をそっと握り返す。


その手は熱く、震えていた。


その温もりが、俺が生きている証だった。


「あなたと、心が、魂がひとつになったみたいで、すごく……すごく、嬉しかったの……」


「……そうか」


俺は彼女の頭を、不器用な手つきで撫でた。


守るつもりが、また助けられちまったな。


だが、悪くねえ気分だ。


コイツとなら、どんな地獄でも生き抜いていける。


そんな気がした。


「さあ、帰るぞ。みんなが待ってる」


俺は傷ついたスターゲイザーを、ゆっくりと母艦へと向けた。


その背中は、行く時よりも少しだけ、温かく感じられた。

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