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第51話 緊急依頼、報酬は1億クレジット!ルビントン家の令嬢を救え!

スターダスト・レクイエム号のブリッジ。


リバティ・ランドの喧騒の中で繰り広げられた、ミューとの「デート」という名の家族サービスを終え、俺はやっと「キャプテン」の顔に戻っていた。


ミューの機嫌は、ようやく元に戻り、スターダスト・レクイエム号の艦内には、穏やかな空気が流れていた。


俺はキャプテンシートに深く身を沈め、ホログラムディスプレイに映る銀河図を睨みつけていた。


視線は星々を射抜きながら、脳内では別の計算が高速で回っている。


……足りねえ。


船の修理は、ローズマリーが出してきた出所不明の「(クレジット)」と、ナビィたちの献身的な作業でなんとか形になった。


瀕死だったエンジン音も、今は力強い鼓動を刻んでいる。


だが、問題は山積みだ。


増えた所帯(クルー)


ローズマリーがいる手前、生活レベルを下げるわけにもいかねえし、ミューにひもじい思いもさせたくねえ。


そして何より、俺の脳裏に常にこびりつく、負債総額5億クレジットという絶望的な数字。


燃料タンクの目盛りを見るたびに、胃がキリキリと痛む。


コンドル情勢は混沌とし、ガルムからの連絡は途絶えたまま。


ミューの「星詠の指輪」の手がかりは、虚空に落とした砂粒のように見つからない。


八方塞がりってやつだ。


「さて、どうするかな」


俺は深く、重いため息をついた。


マグカップの冷めたコーヒーを煽る。


泥水のような苦さが、今の俺の気分には丁度いい。


「もう少し、活動資金を稼がねえとな。船の完全修理も、スターゲイザーの強化も、まだまだ先の話だ」


独り言のように呟くが、その声には焦りが滲んでいた。


金がなきゃ、自由も、守りたいものも守れねえ。


それがこの冷たい銀河の鉄則だ。


綺麗事だけで腹は膨れねえ。


「でも、ベレット。あんまり、危険な仕事はしないでほしいの」


隣のシートから、ミューが潤んだラピスラズリの瞳で見上げてくる。


不安げに胸元のペンダントを弄る仕草。


チリン、と小さな金属音が静寂に響く。


……そんな目で見んなよ。


お前を安心させるために、俺は危険な橋を渡らなきゃならねえんだ。


「分かってるって」


俺は視線を逸らし、ぶっきらぼうに答えた。


優しく言い含めるのは苦手だ。


行動で示すしかねえ。


「ナビィ、何か手頃で割のいい仕事は入ってねえか? できれば即金で、高額なやつだ。まあ、ちっとは安全なやつ、な」


「マスター、現在ポート・リバティで公開されている依頼情報を検索します」


ナビィが静かに頷き、コンソールを操作する。


琥珀色の瞳がデータの海を高速でスキャンしていく。


「条件に合致する依頼を抽出。……一件、該当を確認しました。緊急性が高く、かつ高額報酬が見込める依頼です」


ナビィの声色が僅かに変わった。 ディスプレイに、警告色で点滅する依頼情報が表示される。


「ほう? どんな依頼だ?」


俺は思わず身を乗り出した。


金の匂い。


俺の腐った性根が、獲物を見つけた猛禽のように反応する。


「依頼主:惑星企業連合 ルビントン家。依頼内容:小惑星帯『アステリア・リーフ』にて消息を絶った、令嬢ララティーナ・ルビントンの捜索および救助。成功報酬:1億クレジット。発見・救助を確認次第、即時支払われます」


「ルビントン家?」


その名を聞いた瞬間。


俺の背筋に冷たいものが走ると同時に――。


それまで優雅に紅茶を飲んでいたローズマリーの身体が、ピクリと震えた。


カチャン。


カップがソーサーにぶつかる音。


「ローズマリー?」


俺は訝しげに彼女を見つめた。


仮面の下の表情が、激しく揺らいでいるのが見て取れる。


「い、いえ。何でもありませんわ、ベレット様」


彼女は咄嗟に仮面の位置を直し、震える指先を隠すように膝の上で組んだ。


「ただ、ルビントン家は……わたくしが以前お仕えしていた家ですので。お嬢様のお名前を聞いて、少し驚いただけですわ」


声が上ずっている。


「あの、ララティーナ様が、消息を……? そんな」


仮面の下から漏れる、か細い呟き。


演技じゃねえ。


本気で心配してやがる。


血の気が引いたような声だ。


ミューもまた、何かを感じ取ったようにローズマリーを見つめている。


……匂うな。


危険な匂いが、プンプンしやがる。


1億クレジット。


破格の報酬。


喉から手が出るほど欲しい金が、目の前で光を放っている。


頼主は、あの惑星企業連合の幹部一族。


そして、ローズマリーのこの反応。


俺の勘が囁いている。


これは、甘い香りで獲物を誘う毒の花だと。


下手をすれば、企業連合の闇に足を踏み入れることになる。


だが、この金はデカい。


それに……。


俺はティーカップを両手で持ったまま微動だにしないローズマリーの横顔を、チラリと盗み見た。


コイツは何かを知っている。


この依頼を受ければ、惑星企業連合の尻尾を、少しは掴めるかもしれねえな


危険(リスク)報酬(リターン)


天秤にかけるまでもない。


「よし、ナビィ」


俺は決断を下した。腹は決まった。


「すぐにルビントン家に連絡を取ってくれ。依頼を受けるとな」


「マスター、よろしいのですか? この依頼には、複数の危険因子(リスクファクター)が予測されますが」


「ああ、構わねえ」


俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 久しぶりに血が滾る。


「金のためだ。それに……」


ちらりとミューの顔を見る。


不安そうな顔を、笑顔に変えてやるための方便が必要だ。


「困ってる奴を見捨てるのは、寝覚めが悪いからな」


「ベレット!」


ミューがパァっと顔を輝かせた。


……まあ、こういう建前も必要だろ。


実際は欲と計算まみれだがな。


「承知いたしました、マスター。ルビントン家代表者とコンタクトを開始。正式に依頼を受諾します。目標宙域、アステリア・リーフへ航路設定。出港手続き後、直ちにワープシークエンスの計算を開始します」


ナビィが迅速に動く。


コンソールから、機関始動シークエンスの電子音が静かに流れ始める。


「ローズマリー」


俺は仮面の淑女に声をかけた。


「お前も準備しろ。ルビントン家のことは、この中でお前が一番知ってるんだからよ」


「は、はい! ベレット様!」


ローズマリーは力強く頷いた。


その声には、いつもの余裕とは違う、切迫した色が混じっていた。


スターダスト・レクイエム号が、重い音を立ててドッキングベイを離れる。


巨大な船体が、ポート・リバティの光を反射しながら、コロニーのエアロックへと滑り出す。


目指すはアステリア・リーフ。


無数の岩塊が漂う、危険な小惑星帯。


そこで待つのは1億の金か、遭難した令嬢か。


それとも――俺たちを飲み込む、巨大な罠か。


いずれにせよ、サイは投げられたってわけだ。

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