第43話 白きシスターの導き、のち、浮気現場(修羅場)へ
【視点:ミュー】
「あ、あ、ありがとうございます! 助けていただいて……!」
私はガクガクと震える膝を押さえながら、シスターさんに深々と頭を下げた。
本当に怖かった。
あの脂ぎった手と、気持ち悪い思念……。
でも、このシスターが現れた瞬間、まるで悪い霧が晴れるみたいに空気が変わった。
白いウィンプルの下から覗く水色の瞳は、とっても穏やかで優しい。
「どういたしまして」
シスターはウィンプルの下で、聖母様みたいに優しく微笑んだ。
「困っている方を助けるのは、フォワードの教えに従う者の当然の務めですから」
その声はまるで聖歌のように響いて、私のささくれ立った心を撫でてくれるみたい。
すごい……なんだか、見ているだけで心が浄化されそう。
「ところで、あなたたち、どうしてこのような場所に? 何かお探し物でも?」
「あ、あの、人を探していて……知り合いがこのホテルの中にいるはずなんですけど、会員制とかで入れなくて」
私がモジモジしながら説明すると、シスターさんはふわりと微笑んだ。
「そうですか。それはお困りでしたね。……もしよろしければですが、私と少しお茶でもいかがですか?」
「えっ、お茶?」
「ええ。そこのラウンジで少し休憩なさるとよろしいでしょう。実を言うと、私も少し歩き疲れてしまいましてね」
シスターさんはそう言うと、ごく自然な仕草で私たちをホテルの中へと招き入れた。
さっきまで仁王立ちしていたコワモテのガードマンたちが、シスターさんの姿を見るなりサッと道を開ける。
まるで魔法にかかったみたい!
この人、一体何者なの!?
◇
通されたのは、窓から柔らかい陽射しが差し込む特等席。
フカフカのソファに座ると、すぐに銀色のトレイに乗ったハーブティーと、宝石みたいにキラキラしたお菓子が運ばれてきた。
「わぁ……綺麗……」
「さあ、召し上がれ」
温かいハーブティーの香りに包まれて、私の緊張の糸がプツンと切れた。
気がつくと、私はシスターさんに色んなことを話していた。
ベレットのこと、未来への不安、そして私の中にあるフォワードの力のこと。
「私、怖いんです。自分の中に眠るフォワードがいつか暴走するんじゃないかって……。それが怖くて……ベレットやみんなを傷つけちゃうんじゃないかって」
誰にも言えなかった不安。
でもシスターさんは一言も遮らず、私の言葉を全部受け止めてくれた。
その瞳に見つめられると、なんだか心の奥底まで見透かされているような。
でもとっても安心するような不思議な気持ちになる。
「貴女の感じる不安は、全て貴女が持つフォワードの大きさと、優しさの証です」
「優しさの、証……?」
シスターさんの言葉が、胸にじんわりと染み渡る。
「ええ。貴女には星々も祝福するような、特別なフォワードが宿っている。それはとても尊いもの。ですが、その力は使い方を誤れば愛する人をも傷つける諸刃の剣ともなり得るのです」
「……はい」
「どうか、フォワードを恐れるだけでなく受け入れ、そして正しいことのためにお使いなさい。貴女のかけがえのない仲間たち、そして……愛する人を守るために」
「愛する人を、守る……」
愛する人。
ベレットの顔が浮かぶ。
そうだ、私はベレットを守りたい。
守られるだけじゃなくて、隣に立って支えたい!
その言葉が、私の中でキラリと光った気がした。
「ありがとうございます、シスター! なんだか勇気が湧いてきました!」
「それはようございました」
シスターは満足げに頷くと、静かに席を立った。
「では、私はこれで。またいつか、どこかでお会いできることでしょう。星々の導き、フォワードが、再び私たちを巡り合わせてくれるはずですから」
神秘的な後ろ姿を見送りながら、私は小さく手を振った。
すごく勇気をもらえた気がする。
不思議な人。
懐かしいような、安心するような感じ。
それに、私の力のことも、まるで、全部知っているみたい。
もしかして?
ううん、そんなはず……、ないわよね。
「よし、ナビィ! ここで張り込みよ! ベレットたちが出てくるのを待つの!」
「了解しました。エネルギー補給も完了。戦闘準備よし。今度は遅れは取りません。汚物は殲滅します!」
「もう、大丈夫よ!?ありがたいけど!やりすぎないでね!潜入捜査なんだから!」
私たちはラウンジの片隅で、ベレットたちが出てくるのを待つことにした。
シスターのおかげで、さっきまでのイライラも少し収まった気がする。
きっとベレットにも事情があるのよ。
うん、きっとそう!
そう……よね……?
◇
シスターと別れた後、私とナビィはラウンジの片隅で張り込みを続けた。
心は少し落ち着いたけど、やっぱりベレットのことは心配だもん。
私たちはラウンジの片隅に陣取って、じっとエレベーターを見張った。
そして――。
チーン。
扉が開いて、二つの人影が出てきた。
ベレットと、ローズマリーだ。
楽しそうに笑い合って、ローズマリーがベレットの腕にべったりとくっついている。
二人の間には、昨日よりもずっと親密で、甘ったるい空気が流れていた。
しかも!
ローズマリーったら、ベレットの腕に自分の胸を押し付けるみたいにベッタリくっついてるじゃない!
ブチッ。
私の中で何かが切れた音がした。
シスターさんにもらった穏やかな心?
優しさの証?
そんなのどこかへ吹っ飛んじゃったわ!
「……! ベレット! ローズマリー!」
私はヒョウ柄マントを翻して、弾丸のように飛び出した。
「やっぱり! 二人でこんな高級なところで、いちゃいちゃベタベタしてたのね! 許さない! 絶対に許さないんだから! ベレットの浮気者ーーーっ! この泥棒猫も同罪よ!!」
ベレットの胸倉を掴んで揺さぶる。
涙がポロポロ溢れてくる。
「うおっ!? ミュー!? なんでお前がここに!? それにその格好はなんだ!?」
ベレットが目を白黒させている。
「あらあら、ミューったら」
ローズマリーが余裕たっぷりにクスクス笑う。
「わざわざ尾行なさっていたのですか? ご苦労なことですわね」
「なっ……!」
「でも残念でしたわね。ベレット様は、わたくしに夢中でしたから」
勝ち誇ったようなその笑顔に、私の怒りは頂点に達した。
「ベレット! 今日という今日は、絶対に許さないんだからぁぁぁっ!」
もう、ベレットなんて知らない!
バカ!!
大っ嫌い!!




