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第40話 ターゲットを追跡せよ!恋する乙女の潜入捜査

【視点:ミュー】

「……むぅぅぅぅぅぅ~~~~~っ!!!」


スターダスト・レクイエム号のラウンジ。


冷たい窓ガラスに額を押し付けながら、私はその光景を睨みつけていた。


窓の外、ドッキングベイの桟橋を、二つの影が歩いていく。


見間違えるはずがない。


私の大好きなベレットと……あの、いけ好かない仮面女、ローズマリー!


「なによアレ! なんで腕組んでるのよ! 距離が近すぎるじゃない!」


二人は仲睦まじく、ハイヤービークルへと乗り込んでいく。


まるで本物の恋人同士みたいに。


ベレットったら、私の前ではあんな顔しないくせに、あの仮面女のエスコートなんてしちゃって!


ガラスに映る私の顔は、悔しさと怒りで般若みたいに歪んでいた。


許せない。


絶対に許せない!


私は子供扱いしておきながら、あんなおばさんと二人きりでデートだなんて!


ベレットはなんて言ってた?


『ナビィを手伝っていい子にしてたら、好きなことを聞いてやる』?


まだ、好きなことを聞いてもらってない!


あれは、私を船に縛り付けておくための口実だったのね!


「ベレットのばか! 浮気者! 甲斐性なしっ!」


私の中の乙女心が、警報を鳴らしている。


このままじゃ、ベレットがあの仮面女に騙されて、骨の髄までしゃぶり尽くされちゃう!


それに……二人きりで、あんな大人の雰囲気の街へ消えていくなんて……。


も、もしかして……ちゅーとか、しちゃうつもり!?


想像しただけで、頭から湯気が出そう。


ダメ!


絶対にダメ!


ベレットの唇は、私が……じゃなくて!


ぎゅっ、と拳を握りしめる。


爪が食い込んで痛いけど、胸の奥のチクチクする痛みの方がもっと辛い。


ベレットが私以外の女の人と笑い合っているのを想像するだけで、胸が苦しくて、爆発しそうになる。


私だって、ベレットの役に立ちたいのに。


私だって、ベレットの隣を歩きたいのに。


悔しい。


悔しい、悔しい、悔しい!


「……決めた」


私はバッと顔を上げ、踵を返した。


ドタドタと足音を立ててブリッジへと走った。


こうなったら、実力行使よ!


          ◇


「ナビィ! 緊急事態発生よ!」


私はブリッジに駆け込むなり、コンソールに向かっていたナビィの背中に抱きついた。


「ミューさん? いかがなさいましたか。船内モニターに異常は検知されていませんが」


ナビィはいつもの冷静な声で振り返る。


その琥珀色の瞳は、どんな時でも揺らぐことがない。


でも、今の私にはその冷静さがちょっとだけもどかしい。


「船の異常じゃないわ! ベレットの異常よ! あの仮面女と二人で街に行っちゃったの! これはもう、レッドアラートよ!」


「マスターの外出でしたら把握しています。ローズマリーさんへの返礼としての席を設けると……」


「それがデートってことじゃない! もう、ナビィは呑気なんだから!」


私はナビィの手を強引に引っぱって、立ち上がらせた。


「私たちも行くわよ! ベレットを尾行するの!」


「尾行……ですか。ですがミューさん、それは推奨できません」


ナビィが困ったように眉をひそめる。


「マスターのプライベートな領域への過度な干渉は、信頼関係を損なう可能性があります。それに、マスターはミューさんに留守番を……」


「いいから行くのっ!」


私はナビィの言葉を遮って、彼女の手をガシッと掴んだ。


「これは干渉じゃなくて、護衛よ! あの仮面女、絶対何か企んでるわ。甘い言葉でベレットを騙して、あわよくば既成事実を作っちゃおうとか考えてるに決まってるわ!」


「……既成事実、ですか。その確率は不明ですが、マスターの安全確保は私の最優先事項です」


「でしょ!? 私が見張ってなきゃダメなの! それに……」


私は少しだけ声を落として、もじもじと言い訳を付け足した。


「……二人がどんな会話をしてるのか、き、気になるし……」


「会話の内容はともかく、ローズマリーさんがもたらす情報は、今後の我々にとって重要事項です」


「でしょ!? だから、私たちが影から見守ってあげなきゃいけないの! これは『オペレーション・ベレット守り隊』よ!」


私が強引に理屈をつけると、ナビィは「やれやれ」といった風に小さく首を振った。


でも、その瞳の奥には「仕方ありませんね」という優しい色が宿っているのを、私は知っている。


「分かりました。ミューさんの安全確保も私の最優先事項ですから。同行します」


「やった! さすがナビィ! 大好き!」


          ◇


作戦決行となれば、まずは形から入らなくちゃ。


素顔のままじゃすぐにバレちゃう。


変装が必要だわ。


私はブリッジの隅にある、ベレットの私物ロッカーを漁り始めた。


中から出てきたのは、ホコリっぽいコートや、いつ洗ったか分からないシャツばかり。


うぅ、ベレットの匂いがする……。


ちょっとドキドキするけど、今はそれどころじゃないわ。


「これだわ!」


私が引っ張り出したのは、何故かロッカーの奥に突っ込まれていた、趣味の悪いヒョウ柄の布きれ。


たぶん、昔ベレットが使ってたシートカバーか何かだ。


これをマントみたいに羽織れば、きっとワイルドで危険な女に見えるはず!


さらに、ベレットの私物である、顔の半分以上が隠れるドデカいサングラス。


これをかければ、私の表情は読み取れない。


クールなスパイの出来上がりよ!


「仕上げは……これね!」


ツバの広いテンガロンハット。


これを深くかぶれば、銀色の髪も隠せるし、ハードボイルドな雰囲気が出るわよね!


「どう? ナビィ! これで完璧よね!?」


私は豹柄マントを翻し、サングラスをずり上げながらポーズを決めた。


鏡を見る時間はないけれど、きっとギャラクシームービーに出てくる女スパイみたいになってるはず!


私は鏡の前でポーズを決めてみた。


大きなサングラスがずり落ちてきて、視界が半分くらい茶色いけど、きっとクールなはず。


「……ミューさん。客観的評価を申し上げますと、非常に……目立ちます」


「えっ、そう? 完璧な擬態だと思ったのに」


「ですが、街の雑踏に紛れるという意味では、その『奇抜さ』が逆にカモフラージュになる可能性も否定できません」


ナビィなりの精一杯のフォローね。


そして、ナビィ自身の変装はというと――。


「外部装甲データ、書き換え。市街地潜入モードへ移行」


ピピピ、という電子音と共に、ナビィの姿が揺らぐ。


いつもの黒いメイド服が光の粒子となって分解され、次の瞬間には、スタイリッシュなジャケットとパンツスタイルに変わっていた。


髪型も少しショートカット風にアレンジされていて、まるで美少年のようだ。


「うわぁ……! ナビィ、かっこいい! ずるい!」


「あくまでホログラムによる擬態ですが。これで周囲への警戒レベルを下げられます」


「むぅ……まあいいわ! 私のこの『ワイルド・スタイル』だって負けてないんだから!」


私はテンガロンハットをぎゅっと押し込んだ。


心臓がトクトクと高鳴る。


これはただの嫉妬じゃない。


愛するベレットを守るための、聖なる戦いなのよ!


「行くわよ、ナビィ! 作戦名は『ベレット奪還・ラブ・チェイス』よ!」


「……了解いたしました。ミューさん、転ばないように気をつけてくださいね」


私たちはハッチを飛び出した。


ポート・リバティの熱気と喧騒が、私を迎える。


待っててね、ベレット。


あの仮面女にあなたが食べられちゃう前に、このミュー様が助け出してあげるんだから!


私の乙女心と、ちょっとの好奇心を燃やして、いざ、ポート・リバティへ!

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