表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/42

第4話 グラスの中の銀河、アヴァロンの魔女

※【視点:ルーナ・ルビントン】

惑星企業連合。



この銀河の経済を脈打たせる巨大な心臓であり、全てを飲み込む貪欲な捕食者。



「自由競争」という美名のもとに弱者を喰らい、裏で兵器をばら撒いて血の花を咲かせる、素敵な帝国。



秘密コスモコロニー『アヴァロン』。



その最上階にある特別展望室から見下ろす景色は、まさに神の視点だわ。



「フフフ……実に、愉快ね」



私の手の中にあるのは、最高級のヴィンテージワインが注がれたクリスタルグラス。



揺らめく深紅の液体は、まるで今しがた絞め殺したばかりの、新鮮な生命の血のよう。



グラスを傾け、その芳醇な香りと共に、微かな鉄錆(てつさび)のような匂いを鼻腔で楽しむ。



眼下に広がるのは、不健康な茜色に染まった星々の海。 工業コロニーから漏れ出す排熱の光が、まるで腐りかけた果実のように熟れて、宇宙(そら)を汚している。



ああ、汚らわしい。



けれど、愛おしい。



だって、この醜悪な輝きこそが、私の(てのひら)で踊る「銀河」そのものなのだから。



ガラスに映るのは、深紅のマーメイドドレスを纏った私――ルーナ・ルビントン。



プラチナブロンドの髪、サファイヤブルーの瞳。



惑星企業連合のCOO(最高執行責任者)にして、この腐った盤面を支配するプレイヤー。



「哀れな道化たち。コスモノイド解放戦線は理想に溺れ、コンドル王国軍は過去の栄光にすがる。アンドロメダ正教会に至っては、偽善の衣を纏った金の亡者……」



ワインの雫が残る唇を、舌先でそっとなぞる。



甘くて、残酷な味がした。



「すべて、この私が描いた脚本(シナリオ)通りに、盤上で踊ってくれているわ」



コンドル軍には偽情報を流し、疑心暗鬼を植え付ける。



反乱軍には武器を与え、無謀な勇気を焚きつける。



教会には『星の遺産』の甘い匂いを嗅がせ、欲に狂わせる。



すべては、計算され尽くした冷酷なる戯曲。



私の目的はただ一つ。



『星の遺産』の完全なる掌握。



そして、その力でこの腐敗した銀河を焼き尽くし、私が望む「清浄なる世界」を創り上げること。



そのためなら、何億の命が散ろうとも構わない。



だって、雑音(ノイズ)は消去されるべきでしょう?



その時、静寂を破るように控えめなシグナルが鳴った。



「ルーナ様」



空間に響くのは、氷のように感情のない声。



カミーラ。



私の忠実なる影であり、汚れ仕事を一手に引き受ける「ブラック・スター」の指揮官。



「どうしたの、カミーラ? まさか、私の完璧な計算に、狂いでも生じたのかしら?」



私は窓の外、星屑の海から視線を外さずに問いかける。



声に滲ませたのは、退屈を乱されたことへの微かな苛立ち。



「いえ。アルベルト王子より、定時連絡です。『星の遺産』を利用したクローン体への魂転送……その研究に、大きな進展があったとのことです」



カミーラの報告に、私の唇が自然と弧を描く。



満足だわ。



あの愚かな王子も、ようやく「使い捨ての駒」としての価値を示し始めたようね。



「そう。いよいよ、舞台の幕が上がるのね。あの哀れな王子も、ようやく道化としての役割を果たす時が来たというわけ」



グラスに残った最後の一滴を、味わうように飲み干す。



「カミーラ、アルベルト王子に伝えなさい。『実験の成功を、心から祈っている』と、優しくね。そして、反乱軍には予定通り、大規模な花火(陽動作戦)を打ち上げてもらいましょう」



「御意に。……しかし、ルーナ様。本当によろしいのですか?」



カミーラが無表情の中に、わずかな懸念の色を浮かべる。



「アルベルト王子の実験は、あまりにも禁忌に触れすぎています。万が一暴走すれば、銀河全体を巻き込む取り返しのつかない事態にも……」



「あら、心配ないわ。全ては想定の内(イン・ザ・ボックス)よ」



私はふわりと笑い、カミーラを見据えた。



「それに、たとえ暴走したとしても……それはそれで、また一興でしょう?」



「……え?」



「自らの欲望と狂気に飲み込まれ、破滅していく王子の姿。最高のエンターテイメントになると思わない? 壊れるなら、派手に壊れてくれた方が、観客も喜ぶわ」



他者の破滅すらも、私の美学を彩るスパイスに過ぎない。



私が欲しいのは、その先にある静寂だけ。



「行きなさい、カミーラ。計画(シナリオ)を進めるのよ」



「……はッ」



カミーラの気配が消える。



私は再び、眼下の星々へと視線を戻した。



燃えるような光に染まるコロニー群。



それは、これから銀河を覆うであろう戦火と、私の新しい時代の夜明けを予感させている。



誰にも止められない。



たとえ、その道が死体の山で舗装されていようとも。



私が、この手で終わらせてあげる。



「さあ、踊りなさい。私の愛しい、愚かな人形たち」



グラスの中の空虚な銀河に向かって、私は甘く囁いた。


お読みいただき、誠にありがとうございます。


もしよろしければ、下の「ブックマーク」や「評価」をいただけると、今後の執筆の大きな励みになります。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ