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第29話 帰還の抱擁、そして自由の港(ポート・リバティ)へ』

時が止まったかのような、古代船の船長室。


その静寂を背に、俺とナビィは格納庫へと戻った。


戦闘服のポケットには、あの男と少女が描かれた古びた絵画。


それはただの紙切れのはずなのに、鉛の塊のような重みをもって俺の脇腹に収まっていた。


「さて、と」


俺は深く、重いため息をついた。


センチメンタルな気分はここまでだ。


俺は墓荒らしじゃないが、生きるためには死者の遺産も利用する。


それが宇宙海賊の(おれたち)流儀だ。


「物資回収の算段もついたことだし、そろそろお(いとま)するとすっか」


スターゲイザーのコクピットに滑り込み、通信回線を開く。


「こちら、スターゲイザー。スターダスト・レクイエム号、聞こえるか?」


『……! こちら、スターダスト・レクイエム。クリアに聞こえておりますわ、ベレット様。ご無事で?』


スピーカーから響くのは、隠しきれない安堵の色を滲ませたローズマリーの声。


あのふてぶてしい女帝にしては、随分としおらしいじゃねえか。


「ああ、問題ねえよ。物資回収の算段がついた。一度、そっちに戻る」


『承知いたしましたわ。ベレット様と、ナビィさんがご無事で、本当に何よりですわ。ラウンジで、温かいお茶でも用意してお待ちしております』


どこまでも優しく、温かい声。


俺は苦笑しながら操縦桿を引いた。


スターゲイザーが白銀の翼を広げ、漆黒の格納庫から星々の海へと力強く飛び出す。


永い眠りについていた聖域から、喧騒と欲にまみれた現実世界への帰還だ。


          ◇


スターダスト・レクイエム号のラウンジ。 ドアがプシューと音を立てて開く。


戦闘服を脱ぎ、いつもの革ジャンスタイルに戻った俺と、背後に控えるナビィ。


そこには、ローズマリーと彼女の後ろに隠れるようにして、もじもじしているミューが待っていた。


「ベレット様! おかえりなさいませ!」


ローズマリーが駆け寄ってくる。


「お疲れ様でした。本当に、ご無事で何よりですわ」


心からの安堵と、主の帰還を喜ぶ忠実な騎士のような響き。


だが、俺の視線はその背後……顔を赤らめて俯く銀髪の少女に吸い寄せられていた。


「ああ、ただいま」


短く応じる。


ミューの恰好は……なんだ、ありゃ?


深紅のシルクのキャミソール。


明らかにサイズが合っていない。


ぶかぶかの生地が、彼女の華奢で白い肩を無防備に晒している。


まるで、大人の服を着せられた迷子の子猫だ。


「少し休憩してから、すぐにあの船の回収作業に入る。手伝ってくれるか?」


「ええ、もちろんですわ。その時のために、わたくし、この腕をうずうずさせながらお待ちしておりましたもの」


ローズマリーは俺の意図を察したのか、悪戯っぽい笑みを残してナビィと共にブリッジへ向かった。


ラウンジに残されたのは、俺と、どうしていいか分からずに固まっているミューだけ。


俺は無言で近づいた。


からかうつもりもなかった。


ただ、さっきのプラントでの彼女の悲鳴が、耳に残っていたからだ。


そっと、ためらうことなく、その小さな身体を腕の中へと引き寄せた。


「……! ……べ、ベレット!?」


ミューが息を呑む気配。


華奢な身体が、小刻みに震えている。


俺の腕の中にすっぽりと収まってしまうほどの小ささ。


石鹸の香りと、彼女自身の甘い匂い。


怖がらせちまったな……。


言葉にはしなかった。


ただ、俺の鼓動と体温で、彼女の震えを止めたかった。


数秒か、あるいは数分か。


ミューの身体から力が抜け、俺に体重を預けてきたのを確認してから、俺はゆっくりと腕を解いた。


「……ッ」


ミューが名残惜しそうに、潤んだ瞳で俺を見上げる。


俺は何も言わず、逃げるように背を向けた。


「回収作業に行ってくる」


ぶっきらぼうに言い捨て、ブリッジへと足早に向かう。


背中が熱い。


まだ腕に残る温かい感触と、自分の情けないほど早くなった鼓動をごまかすように、俺は歩調を速めた。


          ◇


その後、俺たちは古代船から数々の貴重な物資を回収した。


機能停止したアンドロイドが眠る、数基のコールドスリープ・カプセル。


高純度エネルギー反応を示す、金属インゴット。


そして、誰にも見せずに隠した、あの一枚の絵画と航海日誌のチップ。


時を超えた邂逅(かいこう)は、終わりを告げた。


スターダスト・レクイエム号は静かに離脱し、沈黙の棺は再び深淵の闇へと還っていく。


これまでの戦いで得た資金。


そして、この予期せぬトレジャーハントで手に入れた「遺産」。


ようやく、俺たちはスタートラインに立った。


船の完全修復、補給、そしてミューの「指輪」を探すための、確かな足掛かり。


俺はブリッジのキャプテンシートに座り、大きく伸びをした。


視線の先には、どこまでも広がる星の海。


そして、騒がしいクルーたち。


「よし、野郎ども……いや、お嬢様方! 進路は決まった!」


俺はニヤリと笑い、高らかに宣言した。


「俺たちの次なる目的地は、この銀河で最も自由で、最も危険、そして最も多くの情報と金が眠る場所! 自由貿易コロニー、『ポート・リバティ』だ!」

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