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第17話 ラスト・ダンスは終わらない

【視点:ミュー・アシュトン】


スターダスト・レクイエム号のブリッジ。


ミューは全身の血が逆流するような激痛に耐えていた。


「いや……! ベレットが……! ダメ……! やめて……!」


ラピスラズリの瞳が絶望に染まる。


フォワードが捉える未来は、スターゲイザーの無残な爆散。


あまりにも強烈なビジョンに、精神が引き裂かれそうになる。


「ベレットを……、傷つけさせない……!」


彼女の魂の奥底に眠っていた、純粋で強大な力の源流。


それが初めて、明確な意志によって解き放たれた。


少女の身体から、白銀の光となって溢れ出すフォワードエネルギー。


≪今度こそ……! あなたを、守る……!≫


ミューの声は、もはや苦痛の悲鳴ではない。


宇宙の深淵から響く、星々の法則そのものを司る絶対的な祈り。


彼女の瞳は一点の曇りもなく、ローズマリーの機体の最も脆弱な一点を見据えていた。


勝利に酔いしれた一瞬。制御がわずかに緩む、コンマ数秒先の『可能性の未来』。


脳裏に描き出される、美しくも無慈悲なフィニッシュムーブの軌跡。


そして、それを阻止するたった一つの、絶望的なカウンターの軌道。


≪ベレット! 今よ! 右腕の出力がコンマ0.5秒遅れる! そこを突いて、一気に懐へ!≫


ミューの声は、宇宙の摂理となってベレットに語りかけた。


          ◇


【視点:ベレット・クレイ】


「……フッ! おもしれえ! やってやる!」


俺の剃刀色の瞳に、驚愕と絶対的な信頼の光が宿る。


「ナビィ! 全エネルギーを機動に回せ!」


『了解いたしました! 機体出力120%に一時固定! 推進器制御に強制同期!』


スターゲイザーから青白いプラズマが激しく噴き出す。 満身創痍の機体は悲鳴を上げながらも、俺の決意に応えて限界を超えた加速を見せた。


ドォォォン!!


白銀の機体が火の玉となり、四本の紅蓮の刃の交錯点――ミューが示した『未来の隙間』へと飛び込む。 その瞬間、ローズマリーの猛烈な斬撃が、俺がいた空間を切り裂いた。


『な……!?』


ローズマリーの驚愕。 そして、ミューの予測通り、クリムゾン・ローゼスの右腕に一瞬の遅延が生じる。


「大人しくしやがれ! じゃじゃ馬!」


俺はその一瞬を見逃さなかった。


機体を捻りながら、右腕のレーザーサーベルを、心臓を狙うかのように敵の胸部コアへと突き立てる。


ローズマリーは、避けられなかった。


『くっ……! 素敵な攻撃ですこと……!!』


彼女は苦悶の声を上げ、間一髪で機体をスライドさせた。


致命的な直撃は避けたが、代償は大きい。


ガリリリリッ!!!


レーザーサーベルが右胸部の装甲を深く抉り、メイン伝達ラインと増幅ユニットを焼き切った。


紅蓮のエネルギーが霧散していく。


力なく漂い始める紅蓮の機体。


「……へっ! 悪いな! テメエとのダンスはここまでだ!」


俺は機体を急反転させ、追撃に移ろうとした。


だが。


『フフフ……。お上手ですわね、白銀の流星様』


ローズの声は、通信越しになお艶やかで冷酷だった。


『ですが、わたくしとの『ダンス』は、まだ終わっておりませんわよ?』


彼女はダメージを受けた機体を無理やり動かし、左手のビームピストルを向けた。


再び放たれる紅蓮の奔流。 熱と圧力が装甲を焼き尽くす。


「……! まだ、やる気か!?」


俺は舌打ちした。


3億の賞金首は伊達じゃない。 クリムゾン・ローゼスは致命傷を負いながらも、その獰猛さに陰りが見えない。


シュン、シュン、シュン!


ガキンッ!


レーザーサーベルが装甲を溶かし、駆動系に負荷をかける。 ベキベキッ! 内部フレームが軋む音が響く。


機体の挙動が鈍る。


俺の反射神経に機体が追いつかない。


全身を襲うG。


焼き切れそうな意識。


「まだだ! 動け! スターゲイザー!」


俺は鋼鉄の意志で機体を制御しようとする。


だが、その一瞬の隙をローズマリーは見逃さなかった。


完璧な勝利を確信したかのように、メインスラスターを全開にする。


エネルギーが噴出し、空間を歪ませる。 紅蓮の機体は血の閃光のように駆け抜け、刃を振り下ろそうとしていた。


『さあ、最後まで楽しみましょう! 白銀の流星様! わたくしとの『ダンス』を!』


甘く、非情な声。


二つの機体が廃墟の闇で激突した。


圧倒的な火力が俺を襲う。


装甲の焦げ跡。


抉られた傷。


ショートする回路。


≪ダメ……! このままじゃ、ベレットが……!≫


再び、ミューの切実な祈りが届く。


≪ベレット……! 私のフォワードを……、すべて受け取って……!≫


桁外れの情報量とエネルギーが流れ込んでくる。


俺の脳裏に、ローズマリーの攻撃パターンと、その致命的な隙が立体映像のように映し出された。


可能性の未来観測。


時空の狭間を覗き見る、禁断の能力。


俺は、その予言的なフォワードと、自身の魂に全てを賭けた。


「悪いな! ブラッディ・ローズ! テメエの首、俺たちがもらい受ける!」


ミューが示した未来に合わせ、限界を超えた神速で急加速。


機体の悲鳴も警告音も無視した超機動。


紅蓮のオーラを紙一重で掻い潜る。


目指すは、懐。


レーザーの射線が交錯し、逆に死角となるゼロ距離。


死と接吻するような狂気の賭け。


俺は、ミューが示した通りに、レーザーライフルを剥き出しのメインエンジン・コアへねじ込んだ。


――ゼロ距離射撃。


『くっ……!? そん……な!?』


ローズマリーの信じられないという声。


『ぁあああああああっ!!』


絶望的な悲鳴と共に、クリムゾン・ローゼスが内部から閃光を放ち、大爆発を起こした。


紅蓮の装甲が砕け散り、コントロールを失った機体は、翼をもがれた鳥のように無様に回転し、大地へ叩きつけられた。


ドォォォォン!!


遅れて響く轟音。


後に残されたのは、破壊された紅蓮の残骸と、微かな薔薇の残り香。


そして、勝利したはずの白銀の流星の、重い沈黙だけだった。

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