第10話 硝子越しの箱庭 ルーナ・ルビントン
※【視点:ルーナ・ルビントン】
眼下に広がるのは、宝石箱をひっくり返したようなコスモコロニー群。
星々の海に浮かぶ人工の光は、確かに美しいわ。
けれど、私の心には何の波紋も起こさない。
所詮は、私の掌にある箱庭。
そこにあるのは感動ではなく、ただ静かで深い「虚無」だけ。
私は手にしたグラスをゆっくりと揺らす。
血のように深紅のヴィンテージワインが、クリスタルの壁に妖しく爪痕を残す。
ホログラムモニターに映るのは、コンドル宙域での死闘。
「フフフ……。なかなか、楽しませてくれるじゃない、ベレット・クレイ」
唇から、熱を帯びた吐息が漏れた。
「あのクラウス相手に、あれほど粘るとはね。でも、まだ青いわ。青すぎて……指先でプチリと潰してしまいたくなるほどに」
その呟きに滲むのは、侮蔑と、そして歪んだ愛憎。
未熟な果実ほど、握りつぶした時の感触は甘美でしょう?
「ミュー・アシュトン。アシュトン家の哀れな人形。未完の『星詠の巫女』。アルベルトの計画には、もはや不要な廃棄駒だったけれど……」
ワインを一口含み、舌の上で転がす。
鉄錆のような、残酷な味がした。
「ベレットという異物と接触したことで、あの娘の眠れる力がどう覚醒するか。興味深いわね」
私の計算式に、予期せぬ変数が混ざり込む。
普通なら排除するノイズだけれど、今の私にはそれすらも心地よい刺激だわ。
「これもまた、私の計画の新たな旋律として、奏でさせてもらいましょう。不協和音も、指揮者次第で美しい悲鳴に変わるのだから」
私の頭脳は、常に銀河の混沌から最適な解を導き出す。
すべては、私が理想とする「清浄なる世界」を創造するために。
さあ、踊りなさい。
私の愛しい、愚かな人形たち。




