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第101話 鉄壁への挑戦、四つの流星、希望への突入

【視点:ローズマリー】

コンドル王立監獄コロニー。 星々の瞬きさえも、その絶対的な闇に吸い込まれてしまうかのような漆黒の宇宙(そら)に浮かぶ、巨大な鉄の(ひつぎ)


メインモニター越しに見るその表面は、無数の監視の(センサー)と、沈黙の砲塔にびっしりと覆われ、近づく者すべてを拒絶するような冷たく硬質な絶望を放っている。


設立以来、一度としてその鉄壁の守りが破られたことはない、銀河にその名を轟かせる難攻不落の絶望の迷宮。


冷たい仮面の下で、わたくしは奥歯を強く噛み締めた。


あの男の、乱暴で、不器用で、でも誰よりも温かい手が、冷たい鉄の鎖に繋がれている。


そう想像しただけで、胸の奥がギリギリと焼け焦げるように痛む。


今、その神さえも見捨てたかのような静寂を破り、一隻の不屈の魂を宿した古びた宇宙船――スターダスト・レクイエム号が、最終アプローチを迎えようとしていた。


そして、その母船から、猛禽(もうきん)のように鋭さを秘めた四つの光が、今まさに監獄へと飛び立とうとしていた。


目的は、ただ一つ。


この鉄の棺の奥深くに囚われた、わたくしたちの魂の錨。


かけがえのないキャプテン、ベレット・クレイを、この手で奪還するために!


「これより、オペレーション・プロメテウス。監獄コロニーへの突入作戦を、開始しますわ!」


深紅の、第二の皮膚のように身体に吸い付くパイロットスーツを身に纏い、わたくしは操縦桿を強く握りしめた。


「クリムゾン・ローゼス改、ローズマリー、出ますわ! さあ、始めましょう。絶望の淵に咲く、希望の円舞曲(ワルツ)を!」


真紅の翼がエアロックから、まるで夜空に咲く一輪の血塗られた薔薇のように、宇宙へと音もなく解き放たれる。


『スターゲイザー改、ミュー行きます! ベレット! 必ず、助けるから!』


続いて、ミューが駆る白銀の機体が、清らかな光を放ちながら発進する。


その内部には、以前とは比べ物にならない、黄金の魂の輝きを秘めて。


彼女の着ている、純白に金の刺繍が施された巫女服の戦闘服。


それは、わたくしが見立ててあげたもの。


動きやすく、フォワード能力を最大限に増幅させる機能を持たせつつ、殿方の目を惹く可憐なデザイン。


覚醒した巫女としての神聖なオーラが、最高に際立っていた。


ふふ、立派なレディになられましたこと。


『ヴァルキリー・ストライカー改、ユウキ・ニシボリ、発進するわ!』


ユウキさんの駆る、白銀に知性の青いラインが走る機体が、シャープな軌跡を描いて宇宙へと躍り出た。


いつもの白衣を脱ぎ、タイトで機能的なスーツに身を包んだ彼女。


眼鏡の奥の翠緑色の瞳には、天才技術者としての揺るぎない矜持と、そして……あの放っておけない男への、隠しきれない乙女の感情が揺らめいていた。


『全機発進を確認。ナビィ、これよりオペレーション・プロメテウス、フェーズ2へ移行。管制サポート、及び電子戦支援を開始します』


スターダスト・レクイエム号のブリッジ。


ナビィさんは、その琥珀色の瞳に全センサーを集中させ、戦場を見据えている。


彼女もまた、マスター救出というただ一つの目的のために、その超高度な演算能力の全てを解放しようとしていた。


「さあ、ミンクスさん」


わたくしは通信越しに、最後尾からやや不承不承といった様子でついてくる純白の機体へと、悪魔が囁くかのように呼びかけた。


「置いていきますわよ? それとも、その美しい純白の翼ごと、星屑にして差し上げましょうか? 例の『自爆スイッチ』、押して差し上げてもよろしくてよ?」


エンジェル・オブ・アンドロメダに仕掛けられたという自爆装置。 もちろん、わたくしの悪戯的なブラフですわ。


ですが、愛機をバラバラにされ、再組み立ての際に何を仕込まれたか分からない今のミンクスには、その真偽を確かめる術はありませんの。


『……っ! わ、分かっています!』


ミンクスは屈辱に震えながらも、反論してきた。


『あなたが、異常に速すぎるだけです! 本当に、野蛮な方ですね!』


彼女はエンジェル・オブ・アンドロメダのスラスターをさらに噴射させ、必死に三機の後を追ってくる。


四つの流星―― 紅蓮、白銀、白銀の青、そして純白。


それぞれが強い意志の光を放つ軌跡が、漆黒の宇宙というキャンバスに鮮やかに描かれていく。


巨大な鉄の棺、監獄コロニーの威容が目前に迫ります。 その、見る者を圧殺するような絶対的な存在感。


その瞬間。


『!警報! 多数の熱源反応、急速接近! 監獄コロニー所属、護衛艦隊です! 数、20隻以上! 全艦、戦闘態勢! レーザー、ミサイル、発射確認!!』


ナビィさんの緊迫した声が、全機に響き渡った。


闇の中から、まるで地獄の番犬のように、無数の鈍色に輝く牙――コンドル軍の艦艇が、その姿を現した。



「まあ、ようやくお出ましになられましたわね」


わたくしは仮面の下で、獰猛で優雅な笑みを浮かべた。


「ずいぶんと、手厚い『歓迎』ですこと。……ですが、わたくしの逢瀬の邪魔をする虫けらは、容赦なく焼き尽くさせていただきますわ」


わたくしは、冷静に指示を飛ばす。


「ここは手筈通りに参りますわよ! ミュー! あなたとスターゲイザー改は、わたくしたちがメインゲートをこじ開けた後、直ちに内部へ突入! あなたのフォワードでベレット様を特定し、わたくしたちを導きなさい!」 「わかったわ! 任せて!」


ミューは、力強く、明るい声で返事をしてくれた。


『ヴァルキリー改とクリムゾン・ローゼス改は、ミューの援護に回りますわ! 突入路を確保し、追ってくる鬱陶しい虫けらどもは、全て(ちり)にして差し上げましょう!』


『了解したわ! あたしのヴァルキリーの本当の力、見せてあげる!』


ユウキさんもまた、翠緑の瞳を輝かせ、鋭く応じる。


「そして、シスター・ミンクスさん」


声に、再び甘美な毒を含んだ、意地の悪い響きを込めた。


「あなたには、最も重要で、最も『聖なる』任務をお願いできるかしら? わたくしたちが愛しのキャプテンとの『感動の再会』を果たし、そして無事にこの地獄から脱出するまでの、大切な、大切な『退路確保』という名の、尊い聖務ですわ。……よろしくて?」


『……!? ちょ、ちょっと、待って!』


ミンクスは激しく抗議してきた。


『私一人に、あの厄介そうな艦隊全てを押し付けるおつもりですか!? いくらなんでも、無茶よ!』


「あらあら?」


わたくしは心底不思議そうな声色で、問い返した。


「聖女ナナリー様の親衛隊長。アンドロメダが誇る最強の聖騎士ともあろうお方が、この程度の艦隊を恐れるとでも? ……まあ、それとも、あなたの高尚な信仰心と、聖なるフォワードの御力とは、所詮その程度のものなのかしら?」


『……っ!! わ、分かりました!!』


ミンクスは半ば自棄(やけ)になりながらも、その水色の瞳には、聖騎士としての誇り高い炎を再び燃え上がらせて叫ぶ。


『やればいいのでしょう!? 見ていなさい! 信仰の力が、どれほどの奇跡を起こすものなのかを、その目に焼き付けさせてあげます!』


彼女は深く静かに息を吸い込み、祈りの言葉を紡ぐ。


『ああ、全能なるフォワードの御力よ! この迷える子羊に、邪悪を打ち砕く聖なる鉄槌(てっつい)を下す力を与えたまえ! ……そして、ベレット……! どうか、どうか、ご無事で……!』


あら……?


ミンクスはエンジェル・オブ・アンドロメダを、美しく悲壮な覚悟を秘めて反転させると、単騎で敵艦隊へと突撃していった。


「さて、聖女様の忠実なる騎士様も、覚悟を決められたようですし」


わたくしは、ミンクスの後ろ姿を一瞬だけ複雑な表情で見送った後、すぐいつもの余裕の笑みに戻った。


「わたくしたちも、参りましょうか。我らが愛しのキャプテンを、あの冷たく暗い、絶望の淵から救い出すために!」


『うん!』


『ええ!」』


『ナビィ、全力でサポートします!』


今、三つの翼が、鉄壁の監獄コロニーへとその巨体を突き進む。

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