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第98話 生まれ変わった三機の発進と純白の使者へのご挨拶

【視点:ミュー】


スターダスト・レクイエム号は、深淵の闇を切り裂く一条の光のように、漆黒の星の海を静かに、けれど力強く航行していた。


目指す先は、私たちのキャプテンが一人で囚われているコンドルの『監獄コロニー』。


古びた船体の奥深くにある巨大な格納庫には、再生と強化を施されたばかりの三機の鋼鉄の翼たちが、熱い鼓動を秘めて出撃の時を待っていた。


空気中には、ツンとするオイルと金属の無機質な匂いが漂っている。


いつもなら機械臭いって思っちゃう匂いだけど、今は違う。


ベレットの、あの大きくて少し荒れた、オイルまみれの手のひらの匂いとお揃いだから。


……ベレット。


もうちょっとだけ、待っててね。


今、私があなたを迎えに行くから。


格納庫には、私たちの期待と不安、そして「絶対に彼を助け出す」という燃えるような決意が渦を巻く、独特の熱気が満ちていた。


今は、いざという時のための試験飛行と最終調整を兼ねて、機体たちは起動シークエンスに入っている。


エネルギーコアから発せられる、熱を帯びた轟音にも似た低い鼓動が、格納庫の床をビリビリと震わせていた。


……すごい。


ユウキが徹夜してくれたスターゲイザー改、前の機体とは全然違う。


力が、命が溢れてるみたい。


私は新しくなったコクピットの中で、操縦桿を両手でギュッと握りしめながら感動に浸っていた。


冷たいはずの操縦桿が、まるで彼の手を握っているみたいに、じんわりと温かく感じる。


だけど、その張り詰めた静寂と私の空想を破ったのは、ブリッジからの激しい警告音だった。


『前方宙域に、単機の高エネルギー反応! 急速接近中!』


緊迫したナビィの声が、各機のコクピットのスピーカーに響き渡る。


『所属不明機と判断。識別信号、応答なし。ローズマリーさん、戦闘態勢に移行しますか?』


「あらあら、ずいぶんと、お早いお着きですこと」


隣の『クリムゾン・ローゼス改』のコクピットから、キャプテン代行であるローズマリーの声が聞こえた。


仮面の下で、自信に満ちた大人の笑みを深く刻んでいるのが、声のトーンだけでありありと目に浮かぶ。


まるで、待ち望んでいたディナーの客人を迎えるかのような余裕。


「ふふ、その必要はありませんわ、ナビィさん。おそらく、お客様はわたくしたちを、丁重にお迎えに来てくださったのでしょうから」


通信越しでも、彼女の妖しい視線が伝わってくる。


「ちょうどいいですわ。この生まれ変わった翼たちの『慣らし運転』と参りましょうか。ねえ、ユウキさん?」


ローズマリーは、もう一機の『ヴァルキリー・ストライカー改』に乗っているユウキへと、挑発的な言葉を投げかけた。


「あなたも、お付き合いくださいまし。ご自分の可愛いお子様の、晴れのデビュー戦を、特等席で見たくはありませんこと?」


『えっ!? あ、あたしも出撃するの!?』


「当然ですわ。それに、万全の状態で我らが愛しのキャプテンをお迎えに上がらなければ、淑女の名折れというものですわ」


ローズマリーは、有無を言わせぬ甘美な毒を含んだ声で、ユウキの技術者としてのプライドをチクリと刺激した。


『……っ! わ、分かったわよ! しょうがないわね!』


ユウキは、むっとしながらも気合いを入れる。


『ナビィさん! ヴァルキリー・ストライカー改、発進する! サポート管制、お願いするわ!』


その二人の熱に当てられたように、私もたまらず声を上げていた。


「私も行く!」


スターゲイザー改のコクピットで、私は目を輝かせて叫んだ。


「新しい翼の調子も実際に動かして確かめたいし! ベレットのためにも、少しでも早くこの機体に慣れておきたいから!」


「あらあら、ミューも張り切って、頼もしいことですわね」


ローズマリーは、優しいお姉さんのような声で微笑んでくれた。


「よろしいでしょう。ただし、決して無理はなさらないように。あなたは後方からの、進化したフォワードによるサポートと情報収集をお願いしますわ」


「うん! 任せて!」


「では、皆さん、参りますわよ!」


ローズマリーの艶やかな号令が響き渡る。


プシューッという重厚な音と共に、格納庫のエアロックのハッチが開いた。


漆黒の宇宙に、三つの鋼鉄の翼が解き放たれる。


真紅のクリムゾン・ローゼス改。


白銀と青き知性のラインを纏うヴァルキリー・ストライカー改。


そして、新しく生まれ変わった白銀のスターゲイザー改。


三機の機体が、一条の希望の光のように、暗い宇宙(そら)へと加速していった。


先陣を切るのは、深紅のクリムゾン・ローゼス改だ。


その機体は、もはや以前の『じゃじゃ馬』ではない。


ユウキによる緻密な最高速化のセッティングと、ローズマリー自身の「絶対に彼を迎えに行く」という覚悟が融合し、文字通り紅蓮の光線となって漆黒の宇宙空間を切り裂いていく。


その圧倒的なスピードと、機体から放たれる官能的なまでの赤いフォワードのオーラに、思わず見惚れてしまう。


『素晴らしいわ……!』


通信機越しに、ローズマリーの恍惚としたため息が漏れ聞こえてきた。


『この肌に吸い付くような加速感……! この指先と機体が完全に一体となる、神経が直結したかのような反応速度……! 気に入りましたわ、ユウキさん。あなたは本当に、素晴らしい仕事をしてくださったわね。……でもまあ、もう少し早く、わたくしの魂の色である美しいクリムゾンに染め上げてくだされば、文句なしの満点でしたけれど』


『まだ色のこと言ってんの!?』


ユウキの呆れた声が返ってくる。


『ていうか、よくその人間離れした加速Gに、平気な顔して耐えられるわね! あんた、本当に人間なの!? どんな身体の構造をしてるのよ! 一応、機体負荷のデータはこっちでもリアルタイムでモニタリングしておくから、あまり無茶しないでよ!』


ユウキは憎まれ口を叩きながらも、ヴァルキリー・ストライカー改で必死にローズマリーの紅蓮の軌跡を追っている。


その白銀の翼は、ローズマリーの情熱的で奔放な舞いとは対照的に、どこまでもシャープで、理にかなった知的な軌跡を描いていた。


すごい……二人とも、本当にすごい。


私もまた、その後方からスターゲイザー改で追従する。


操縦桿を握る手に、機体の鼓動が直接伝わってくる。


以前よりも、機体と私自身のフォワードが、まるで同じ生き物のように呼吸を合わせ、深く、滑らかに、そして温かく馴染んでいるのを感じていた。


すごい……!


フォワードが、こんなにも素直に私の想いに応えてくれる……!


覚醒した私なら、きっと彼を……ベレットを助け出せる!


私は静かに目を閉じ、意識を集中させる。


覚醒した巫女の力を、宇宙空間の索敵へと注ぎ込んだ。


以前の、ただ漠然と広げていた時とは違う。


遥かに、そして驚くほど精密に、緻密に。


広大な宇宙の情報を、まるで自分の指先で優しく星々を撫でるように、好奇心の赴くままに探っていく。


……そして、捉えた。


急速に接近してくる、純白の機影。


そこから放たれるのは、清廉で、神聖で、どこか底知れないほど強力なフォワードの波動。


私のフォワードが、その異常な純度の高さにビリビリと反応している。


「……! ローズマリー! 見つけたわ! 前方からのあの機体、間違いない! シスター・ミンクスよ!」


『ふふ、やはり』


ローズマリーは、仮面の下でどこか楽しげに微笑むと、クリムゾン・ローゼス改のスロットルをさらに深く、限界まで踏み込んだ。


『お待ちしておりましたわ、アンドロメダの聖なる使者(エンジェル)様』


『ちょ、ちょっと、ローズマリー! 何する気なのよ!?』


ユウキが、レーダーの異常な接近速度を見て焦った声を上げる。


『ほんの少し、「ご挨拶」をしてくるだけですわ』


ローズマリーはそう言うと、真っ赤に燃え上がる紅蓮の流星となって、シスター・ミンクスが駆る純白の天使へと、一切の減速なしで猛然と突っ込んでいった。


「ああっ、もう!ちょっと待ってよ!」


私はハラハラしながらも、二人をしっかりと後方から援護するために、スターゲイザー改の推力を上げた。

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