幕間 コスモノイド解放戦線・旗艦「リベリオン」カシム
※【視点:カシム】
【コスモノイド解放戦線・旗艦「リベリオン」】
硝煙の匂いこそしない。
だが、この肌を刺すような張り詰めた空気は、紛れもなく戦場のそれだ。
メインモニターには、先ほどまでの凄絶な戦闘記録が、無機質なデータと共に繰り返し再生されている。
白銀の流星と漆黒の悪夢。
常軌を逸したエネルギーの奔流、そして神業的な機動。
「ふぅ……」
私は司令席に深く身を沈め、すっかり冷めてしまったコーヒーを啜る。
口の中に広がる苦味と共に、深いため息が漏れた。
眉間の皺が、また一つ深くなった気がするな。
「アルベルト王子の懐刀、漆黒の騎士クラウス。そして、もう一機は『白銀の流星』、宇宙海賊ベレット・クレイか」
乾いた声が、静寂に包まれたブリッジに響く。
「なぜ、奴らがこんな辺境宙域でやり合っている? 一体、何が起こっているというのだ?」
理解不能な状況。
私が長年の経験で描き上げた戦略図に、予期せぬ歪みが生じている。
「カシム司令。あの戦闘レベルは、我々の想定を遥かに超えています。一刻も早く撤退すべきです」
副官サーシャの声には、切実な憂慮が滲んでいた。
彼女は正しい。
この船に積まれた補給物資は、虐げられている同胞たちの命綱だ。
ここで失うわけにはいかない。
「サーシャ。君の言う通りだ。撤退準備を急がせろ」
私は重々しく頷いた。
目の前の敵を討ちたいという血気と守るべきものを優先する理性。
理想と現実の狭間での決断。
それが、老兵である私の宿命だ。
「だが、惜しいな」
モニターに残る白銀の軌跡を、私はじっと見つめる。
「もし、今、ユウキの『ヴァルキリー・ストライカー』がこの場にあれば。我々も、奴らと対等に渡り合えたかもしれん」
老いた私の手には余るが、あの娘の作る翼なら――。
私は通信機のスイッチを入れた。
「ユウキ、聞こえるか? 『ヴァルキリー・ストライカー』の完成は、まだか?」
『司令! 最終調整、完了しました! いつでも実働試験に移行できます! この機体さえあれば……! コンドルの奴らなんて!』
スピーカー越しに響く少女の声。
そこには、日々の疲労と、それを凌駕する確かな決意があった。
私は、このわずかな希望に賭けることにした。
「よし、ユウキ。よくやった。こちらの作戦が終わり次第、改めて指示を出す!」
『了解しました、司令! 必ず、ご期待に応えてみせます! 父さんのためにも……!』
「父さんのために」、か。
通信が切れた後、私は小さく目を細めた。
若者たちの情熱が、この老骨をまだ戦場に立たせてくれている。
私はブリッジの窓の外へ、広大な星の海へと視線を向けた。
旗艦「リベリオン」は静かにその巨体を反転させ、撤退を開始した。




