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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章:「フィデリアの鬼退治」

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2章:26話「シャルの足掻きⅠ【豪商の令嬢】」


 シャルロッテ・ライチはブリガンティア王国貴族、“ライチ家“の一人娘である。


 柔和で温厚な彼女の父に剣を振るう才能は無かったが、その代わり彼にあったのは物品の鑑定――物の価値を測る優れた目利きと、時流と需要を見極める優秀な感覚であった。

 元々は商人の家系として貴族ですら無かったライチ家の当主になると、彼はその人柄と商才を如何なく発揮し、ブリガンティア有数の豪商となったのだ。


 ――需要が無いなら自ら作る。流行の火元はライチにあり。


 そう揶揄される程一代で上り詰めた彼の家は、ブリガンティア王国の中央貴族の目にも止まり、主に“税金“の面で多大なる貢献をしたとして“貴族“になる事を許されたのだ。

 当然、それを僻むように彼を誹る者たちも多かったが、彼のその人柄に触れた人間たちは皆懐柔されたかのように、その態度を改めていった。


 ――対話が出来る、相手であれば。


 “商人として貴族になった“。それは簡単に言ってしまえば“金“を持っているという事。古今東西、“金“の元には人が多く集まる。――良き人も、悪しき人も。


 そんな家の一人娘として生まれたシャルロッテは幼い頃、身代金目当てに“誘拐“された事があった。



 『――オラ! 大人しくしろ! こっちに来いってんだ!!』

 『――いや! やめて! だれかたすけて!!』

 『静かにしろ!!』

 『――きゃあ!!』



 ――三人の誘拐犯。その中の一人から、固めた拳で顔を殴られた。

 

 鮮明に思い出せるのは、腫れ上がった頬で右目が見えなくなり、片方が塞がった視界の中で、

 幼いシャルロッテを見下す、自分より巨大で下劣な“男“達の姿であった。



 +



 (――最悪。嫌な事、思い出しちゃったな⋯⋯。)


 やけにひんやりとした感覚で目を覚ますと、シャルは瞳だけを動かして状況を把握しようとしていた。

 ――ご自慢の“蒼い鎧“はとうに外されており、肌着のみの感覚。両手は後ろ手で縛られており、手首に伝う縄の感触が少女の気分をさらに害した。

 自身の周辺へ視線を移すと、同じように鎧を脱がされた部下たちの姿と、怯えた様子で丸まっている多数の少女と子供達。そして、一つの影が立ち上がり、シャルの元へと近付いて来るのが見えた。



「――おはよ! シャル団長。いい夢は見れたかな?」


「⋯⋯カニス⋯⋯!!」



 シャルの頭上から落ちてきた軽薄な声に、彼女はこの上なく目を鋭くして絞り出すように言葉を吐き出した。



「⋯⋯そんなにおっかない顔をしないでよ。折角ここまで“無事“に運んできたのにさ〜?」

「⋯⋯最低だね。賊と通じていたとは。少しでも信じていた僕が、馬鹿だったよ」

「まあまあ、そんなに怒らないでって。俺の言う事をちゃんと聞いてくれれば、無事に帰してあげるからさ?」

「ふざけるな、この下衆が⋯⋯!」



 少女を見下す男に向けて、憎悪を込めて言葉を返すシャル。そんな彼らの元に、耳障りな嗄れた枯れ木のような声が響く。

 


「⋯⋯戻ったか、カニス」

「ただいま〜。⋯⋯約束通り、連れてきたよ? 上質だろう?」

「⋯⋯おお、これは⋯⋯!」



 声の主――黒いローブに身を包んだ老人と思える男は、シャルの姿を確認すると感嘆の声を漏らす。



「⋯⋯素晴らしい。これなら、上質な魔力を吐き出しそうだ」

「でしょ〜? さすがは騎士学校の生徒だよね。これなら、そんなに人数は必要ないんじゃない?」



 カニスは自慢するように黒衣の男へと軽薄な声をかけていく。そんな彼に、男は言葉を返す。



「⋯⋯そうだな。一旦はこれで十分としようか。では、ここにいる“全員“、連れて帰るぞ」

「ちょっと待ってよ! 話が違うじゃないか!!」



 黒衣の男の感情の込もらない言葉を聞くと、カニスは普段の軽薄な笑みを完全に消し去り、焦ったように声を荒げた。その瞳には、明らかな焦燥と怒りが浮かんでいる。



「騎士学校の奴らで十分だろう! なんでフィデリアの彼らまで連れていく! 上質な魔力を持つ者を連れてくれば、みんなを解放するって約束じゃないか!!」

「⋯⋯何を言っている、カニス。折角苦労して集めたのだ。わざわざここで捨てる事はない」

「なんだと⋯⋯!? ⋯⋯お前、最初から、そのつもりだったな⋯⋯!!」

「甘いのだ、カニスよ。⋯⋯次から“魔族(ノクト)“との約束は、“契約“を以て行うのだな」



 拳を握り締め、唇を噛み切るほどに結んだカニスから男は目を離すと、その黒のローブから青く光る“魔石“を取り出し、シャルへと近付ける。

 ――瞬間、魔石はシャルに近付く程その輝きを増し、蒼い光を迸らせていた。



「⋯⋯これほどまでに適合するとは⋯⋯! これは、さすがに心が震えるな」

「――ぷっ」



 倒れているシャルの前に座り、魔石とその顔を近付けていた男。魔石の輝きで露わになるその男の風貌は土色をしており、卑しくも満足そうに歪めていた。

 枯れ木のような腕と顔。卑屈に刻まれた皺だらけの相貌に向けて、シャルは唾を吐きかける。



「⋯⋯汚い顔、近付けないでくれるかな?」

「⋯⋯⋯⋯」



 男の頬に伝うシャルの最大限の侮辱。その男は眉一つ動かす事なくそれを指で拭うと――



「――!!」



 ――男は、躊躇なくそれを口へと運んだのだ。

 驚愕に目を見開くシャル。その表情には軽蔑と嫌悪を十分に含ませている。

 そんな少女の姿を一瞥もする事なく咀嚼するように味わう男は、満足そうに顔を歪め、溢れるように言葉を落とす。



「⋯⋯体液さえ上質とは、素晴らしい。これは“袋“にする。我らの“糧“となる事、最大限の至福と喜ぶがよい」

「⋯⋯最、悪⋯⋯!!」



 そんな男の様子に、自らの尊厳を壊されるような感覚を覚えながらシャルは射殺すようにその男を見つめていた。

 黒衣の男はそれを一瞥もせずに視線から外すと、踵を返して出口へと進む――



「――どこへいくつもりだ。俺の話はまだ終わっていない。約束を破っちゃいけないって、親から教わらなかったか?」



 ――カニスが口を開く。カットラスの切っ先を、黒衣の男に向けながら。

 男はカニスの凄みにも全く動じる事なく、言葉を返していく。



「⋯⋯生憎、“親“というものは知らん。約束というのも、“獣人(セリアン)“共の戯言であろう」

「通りで。育ちが悪い訳だ――」


 

「――“数百年“、生きているとな。色々な事を、忘れてしまうのだよ」



 黒衣の男は、そう呟くと、


 その枯れ切った小柄な体が、“黒い魔力“に包まれていく。


 まるで、その男の周りだけが“夜“になったように黒が包んでいくと――



 ――石の王冠を被った“緑色の肌“の魔族が、その姿を現したのだ。



「「――!!」」



 その男の異様な変貌に、カニスとシャルは目を見開いて言葉を失う。

 二人は揃ったように口を開いていたが、ついぞそこから声を落とす事はなかった。

 ゴブリンの王とでもいうように“石の王冠“を被ったその男は、カニスへと向けてゆっくりと口を開く。



「――して、“人間“共よ。⋯⋯本気で、我らに勝てると思っているのか?」


「――くっ!!」



 カニスは、この王冠のゴブリンの言葉を終える前に斬りかかろうと動いていた。

 ――だが、彼は呆気なく壁へと叩きつけられる。


 王冠のゴブリンが枯れ木のような指を僅かに動かしただけで、カニスは吹き飛ばされた。

 ――否。指に呼応して彼を包む巨大な黒い魔力が、まるで羽虫を追い払うように彼を薙ぎ払ったのだ。


 壁に叩きつけられたことで、崩れた岩盤に埋れていくカニス。その様子から、シャルは目を離すことが出来なかった。



「⋯⋯全く。弱すぎる。⋯⋯なぜ我らの祖先は、こんな脆い者共に敗れたのか⋯⋯」


 

 王冠のゴブリンは呆れたように言葉を落としながら、声を失った少女を一瞥することもなく去っていく。



 (――夢? 現実? 人が、怪物になった? あれは、何?)


「――!」



 混乱していたシャルは、後ろに縛られた手から、自身の下着にある“固い物“の感触を確かめた。

 

 ――いざという時の為に下着に隠してある“短刀“。幼い頃に誘拐された苦い記憶から、拘束された時の対処法を彼女は常に忍ばせているのだ。ここまで隠し持っているとは、きっとカニス達も見逃してしまったのだろう。

 彼女は手の感触だけを頼りに短刀を取り出し、自身を縛る縄へと押し当てていく。


 (⋯⋯とにかく、拘束を解こう。人質や自分の事を考えるのは、その後だ――)


 シャルは思考を巡らせながら、ゆっくりと短刀の刃を縄へと走らせていく。岩に埋もれたカニスは、微動だにしない。


 ――岩壁から滴る水滴が落ちる音が響く中で、シャルの短刀が枷を刻んでいく音だけが静かに響いていた。


 

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