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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章:「フィデリアの鬼退治」

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2章:24-3話「拠点防衛戦Ⅶ【団長の指示】」


「――ああ、ああ⋯⋯!!」


 

 ――拠点へと向かって来ていた死霊兵たち。黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)が到着し、彼らによってその全ては体をバラバラにされ、地面で這い続けている。

 死ぬことを許されずに蠢き続けている彼らのいる大地は、地獄を思わせるほどに凄惨な光景となっていた。

 未だ“聖女“による救いを与えられない彼らは、自らの意思も無く、ただただ拠点にいる彼女たちの元へと、ゆっくりと這いずり回っていた。そんな中――



「ありがとうございます。治療はこれで大丈夫です。それと、手拭いをください」

「⋯⋯どうぞ。――って、何をしているんですか!!」


 

 黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)衛生兵(ヒーラー)の治療を受けていたルナは、彼女から手拭いを受け取りながら治癒も程々に立ち上がる。

 ――そして、手拭いで体を激しく擦り始めたのだ。

 


「――汚い、臭い。最悪です。⋯⋯くそっ、消えろ、消えろ、消えろ⋯⋯!!」



 ルナは、呪詛を吐きながら擦り続ける。シルクのようにきめ細かく白い肌が、焼けるように真っ赤に染まっていく。

 ――その様子は、自らに触れてきた“腕“の痕跡、感触すら掻き消そうとしているように痛々しく見えた。



「――うう、ぐすっ⋯⋯!」


「――くそっ! 震えが⋯⋯! さっさと止まれ⋯⋯!!」



 そして、それはノエルとエリザも同様であった。

 ノエルはその空色の瞳に虚無を浮かべながら、手のひらで腕を摩り続けている。――今も彼女の目前に映る“腕“から、自分の体を守るように。

 エリザは自分の震えた足を叩き続けている。――翡翠色の瞳を、激しく潤わせながら。

 

 現在の彼女たちは、破れた衣服の代わりに蒼穹の盾(アズール・シルト)が拠点に置いていった蒼い制服を着ている。

 血が滲む程に腕や太腿を真っ赤にしたルナは、その貌を怒りに染めながら呟いた。



「⋯⋯早くレオンの元へ行かないと⋯⋯!」

「あの穴に飛び込むのですか? 無茶ですよ!!」と、ルナを止めようとする治療兵(ヒーラー)

 

「⋯⋯私も、いく」

 


 その言葉を聞いたエリザとノエルも、未だ怯えた様子ながら必死に立ち上がった――が、クラリスが二人を制止する。



「――ダメよぉ。あなた達はここでお留守番。勝手に動かれたら、守れなくなっちゃうわ」

「⋯⋯助けて頂いたことには、感謝します。ですが、私たちは我々の団長を助けなければいけないんです!!」

「あそこから身投げするのを見ているこっちの身にもなって欲しいわぁ。死ぬのは勝手だけど、目の前で死なれるのは夢見が悪いの」



 クラリスに言葉を返すエリザであったが、逆に切り返されて押し黙ってしまう。

 ――そんなエリザをよそに、今度はノエルがクラリスに食ってかかった。



「⋯⋯でも!! レオンが危ないの!! 早く助けないと⋯⋯。早く行かないと⋯⋯!!」

「それが、“団長の指示“なのかしらぁ?」

「⋯⋯!?」


 

 クラリスの言葉に、目を丸くするノエル。そんな少女に向けて、クラリスは続けた。



「心配なのはわかるわぁ。でも、レオン君が“どんな時でも助けて“って、言ったのかしら?」

「言ってたよ! “僕を助けて“って! “見捨てないで“って!! 私たち、約束したもん! 絶対にそんなことしないって!!」

「⋯⋯たとえ、“任務“を反故にしても?」

「かんけーないよ!! 任務なんて!!」



 ノエルは涙目で怯えた色を含めながらも、声を上げながらクラリスに詰め寄る。

 ――クラリスは、誰にも聞こえない声で「⋯⋯可愛い顔」と零した後、気を取り直すように咳払いを一つして、ノエルへと続けた。



「⋯⋯おほん。仮にあなた達があそこから降りたとして、無事でいる保証はあるのかしら?」

「大丈夫だよ! 私たち、“さいきょー“だもん!!」

「⋯⋯それでもし、あなた達に何かあったら。その時、レオン君はどう思うのかしら?」

「⋯⋯どういうこと?」

「逆に聞くわ。レオン君が怪我したら、あなた達はどう思うの?」

「!! とっても心配!! ⋯⋯あっ!!」



 何かに気付いたノエル。その驚いた表情を満足気に見つめながら、クラリスはさらに続ける。



「私は、私の団長からレオン君の話をよく聞いたわ。⋯⋯大半は文句ばかりだったけれど、その中に一つ。――“団員と、無事に戻る“っていう話があったの。それは、あなた達にとって、とても大事な“任務“ではなくて?」

「⋯⋯!!」

「大丈夫よ。レオン君はきっと無事。それを団員であるあなた達が信じてあげなくて、一体誰が信じるというの?」

「それは――!!」




 

『――その人の言う通りだよ、ノエル』



 


 諭すような口ぶりのクラリスに、ノエルが言葉を返そうとした瞬間。

 ――レオンの団員に隠された雪の精霊から、“団長“の声が響き渡った。



「「「――レオン!!」」」


「レオン、無事だったのですか!?」と、ルナ。

「レオン⋯⋯! よかった⋯⋯!!」と、ノエル。

「レオンさまぁ〜!! よがっだでずぅ〜!!」と、クロラ。

「⋯⋯! あまり、私を心配させないで頂戴⋯⋯!」と、ヒルダ。

「レオン様! ご無事でよかったです! 今、どちらにいらっしゃるのですか!?」と、シルフ。



 彼の声に、少女たちはみな各々声をかけていく。――そんな彼女たちに、レオンは少し焦っている様子で言葉を続ける。



『――みんな。僕は大丈夫。心配しないで。すぐにみんなの元に行くからね』

「レオン、そこで待っていてください。すぐにルナが向かいます――」



 ルナが明らかな安堵と興奮に満ちた言葉を落とすも、それを遮るようにレオンが続ける。

 


『――だから、よく、聞いて。時間が無い。作戦を伝えるね。エリザはルナとノエルを率いて、砦に向かって。⋯⋯そこに、きっと“何か“があるはずなんだ』

 

「⋯⋯それはわかったが、お前はどうするんだ?」



 食い下がるエリザ。だが、レオンからの返答はない。よく聞いてみれば、精霊越しの彼の声は酷く息切れしており、苦しそうに霞んでいた。

 そんな少年のただならぬ様子に、今度はノエルが声を張り上げる。



「ねえ、レオン! いまどこなの? 穴の中にいるの!?」


『――シルフとクロラは、リリィ、ライサと一緒に洞窟の入り口に向かって。多分、二人の力が必要になる』


「⋯⋯レオン様⋯⋯?」

「ほ、本当に大丈夫なんですかぁ〜!?」



 ノエルの切実な問いかけすら遮るように、シルフとクロラの反応すら気付かない様子で少年は早口でまくし立てる。

 ――微かに漏れ聞こえてくる、彼とは別の重厚な“呼吸音“。



『――ミーナとカル。そして、ヒルダはそこで待機。その人の指示に従って』


「⋯⋯ふざけないで頂戴! レオン! 私も戦えるわ!!」



 レオンの言葉に、怒りを込めて返すヒルダ。そんな彼女を宥めるように、レオンは話し続ける。



『⋯⋯お願いだ、ヒルダ。時間が無いんだ。僕の言うことを聞いて』

「⋯⋯嫌よ。⋯⋯戦えない私なんて⋯⋯。そんなの、何の価値があるというの⋯⋯?」



 ヒルダは、力なく床にへたり込む。いつも強気な、女王のような威厳を放つ彼女が、この瞬間には酷く脆く、弱い少女に見えた。

 ――その赤い瞳に涙さえ浮かべる彼女の姿がまるで見えているかのように、レオンはヒルダに優しく語りかけていく。

 

 

『君が僕の側に居てくれるだけで嬉しい。無理して倒れてしまう方が、僕はよっぽど悲しいよ、ヒルダ』

「⋯⋯戦えない、私よ⋯⋯? 側に、いても、いいの⋯⋯?」

『当たり前だよ。早くヒルダに逢いたい。勿論、みんなにも。だから、そこで待っていてくれ』

「⋯⋯私もよ、レオン。早く、貴方に逢いたい⋯⋯」



 力なく目を伏せる赤髪の少女の背中を、シルフとクロラが優しくさする。時折嗚咽するようなヒルダの声を聞きながら、レオンはミーナに向けて続けた。



『ミーナ。大丈夫? 無理してない?』

「⋯⋯レオン団長。⋯⋯私。⋯⋯私⋯⋯!!」

『ごめんね、ミーナ。側にいてあげられなくて。でも、無理を承知で、君にお願いがあるんだ』

「⋯⋯団長⋯⋯! なんでも、言ってください!」


 

『――彼らを、“救って“あげて』



 レオンの言葉に、ミーナは目を見開いた。

 ――彼女は逡巡していた。先ほどの醜態。まるで、本当にエレオス様から見放されてしまったような絶望感。そして、自らの力を超えた願いを届けてもらおうとした強欲な願いを。

 ミーナは、震えた声でレオンに答えていく。



「⋯⋯でき、ません、団長。⋯⋯私じゃ、無理なんです⋯⋯!!」

『⋯⋯やるんだ、ミーナ。君にしか出来ないんだ』

「出来ません、団長! 私、わたし! エレオス様に、見放されてしまったんです⋯⋯!」

『⋯⋯ミーナ。優しい君がエレオス様に見放されるはずない。君なら、出来る。僕が保証するよ。ミーナなら、きっと彼らを救える」



 レオンは、まるでそこにいるかのように、ミーナへと語り続ける。

 ――彼女の頭を、レオンが撫でているような気がしていた。それほどまでに彼の言葉は暖かく、そして優しかった。



「⋯⋯出来なかったら、どうしましょう⋯⋯?」

『そしたら、成功するまでやれば良い。それに、そんな後ろ向きな事じゃなくて、出来たときの事を考えよう』

「⋯⋯成功したら。⋯⋯お願い、聞いてもらえますか⋯⋯?」

『勿論。僕に出来る事なら、なんでもするよ』



 ミーナに答えるレオン。彼の言葉を聞き終える前に、ミーナの手の震えは収まっていたのだ。

 そんな少女の肩に乗っていた雪の精霊に、今度はクラリスが声をかけていく。



「――初めまして、レオン君。黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の副団長、クラリス・クロステルマンです」

『初めまして、クロステルマンさん。僕の団員を救っていただき、本当にありがとうございます』

「いえいえ。お安い御用ですよぉ。⋯⋯でも、これを貸しとするなら。今度、一緒にお茶でも如何かしら?」

『⋯⋯そんな事でよろしければ、何度でもお付き合いさせて頂きます』

「ふふふ。⋯⋯その言葉、忘れないでくださいねぇ?」



 不敵に笑うクラリス。彼女の瞳に熱が込められていくことには、雪の精霊の向こう側にいるレオンには伝わらなかったようだ。



『――カル、聞こえる?』

「⋯⋯! あ、ああ⋯⋯!」


 

 そんなレオンは、最後にカルに向けて言葉を放つ。



『――僕の団員、君に任せたよ』


「⋯⋯!! ああ⋯⋯! 俺に任せておけ!!」



 ――“男“特有の、短いやり取り。

 

 しかし、彼らにとっては、それで十分であった。



 

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