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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章:「フィデリアの鬼退治」

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2章:23話「ねずみ返し洞窟の戦いⅣ【一筋の光明】」


「――っ!!」


 

 湿った岩盤の上で横になっていたアランは、目を覚ますと直ぐに飛び起きた。


 

「⋯⋯っつ!」


「――よお。起きたか、坊ちゃん」



 アランの頭に走る鈍い痛み。包帯で巻かれた額を抑えるように手を添えると、彼に向けて声が届く。

 声の主――シンは、その身に纏っていた深く沈んだ藍色の“ジンベエ“を真っ赤に染め上げ、刀に付着していた血を拭いながらアランへ視線を送っていた。



「⋯⋯ここは⋯⋯?」

「洞窟の横道、ってとこだな。なんとか五体満足で逃れたぜ」



 シンの言葉を聞きながら、アランはあたりを見渡す。――狼人(ルプス)の純徴種、有鱗種(レプト)の男、そして褐色肌の大男がそれぞれ血に染まった獲物や衣服を手入れしているだけで、周りに敵の気配は無い。――どうやら、ゴブリンの血も赤いようだ。

 それぞれが疲れた様子で休んでいる中、シンは刀の手入れが終わったのか鞘に収めてパチン、と音を立てると、うんざりした様子で口を開く。



「しっかし、なんだったんだ、さっきのは。まるで“もののけ“の類じゃねえか」

「⋯⋯なんだ、シン。その“モノノケ“ってやつは」



 フォルクは血染めの短剣を拭うと、疲れた様子でシンに問う。



「“バケモン“って事だよ。“妖怪“とか言っても、伝わんねえだろ?」

「けどよぉ、大した事なかったな! 数が多いだけで、一振りで細切れになるんだから!」

「そりゃお前の力が強すぎんだろ。あんなん食らったら、熊だって真っ二つになるだろうよ」

「なっはっは! 俺の筋肉(マッソォ)は、全てを解決するからな!!」



 ベケットはシンの言葉に満足そうに笑うと、両腕を曲げて上腕二頭筋を強調してくる。

 そこから呆れるように視線を外すシンに向けて、トールが口を開いた。



「シン、おで、やぐ、だっだ?」

「大活躍だぜ、トール。ありがとな。お前がいなきゃ全員死んでたな、こりゃ」



 恥ずかしそうに両手を合わせながら聞いたトールに向けて、シンは微笑みながら心からの感謝を伝えた。

 緊急事態であるにも関わらず、気の抜けた会話を続ける彼らに対して、アランは勢いよく立ち上がりながら叫ぶ。



「お前たち! 今がどういう状況か、わかって――」



 ――だが、アランは言い切る前に再び地面に倒れる。

 その様子を座りながら、膝を組んで頬杖をついているシンは呆れながら彼に告げる。



「起きたばっかだろ? あんまり無理すんなよ。⋯⋯それとも、お前も具合が悪いんか?」


「⋯⋯なっ、なにを⋯⋯! ⋯⋯うぇっ!」



 アランはシンに激昂した様子で答えていたが、途中でえずいてしまう。――同時に、視界の端が僅かに歪むのをアランは感じていた。

 彼はそのままへたり込むように地面に座る。よくみれば、シンやベケットの顔色も良くないように見えた。



「⋯⋯い、一体、何が⋯⋯?」

「さあな。俺たちも具合が悪い。フォルク、何かわかるか?」



 シンの言葉に、フォルクは腕を組みながら一瞬考え込んだ後、小さく溢した。

 


「⋯⋯恐らくだが。魔力が“濃すぎる“のだろう」

「“魔力酔い“、ってやつか。こんな雑草一本生えないところでも、魔力は溜まるもんなんだな」

「⋯⋯それだけじゃないだろうな。原因は、多分あの“バケモノ“だろう」

「あん?」



 ――“魔力酔い“。

 本来、人々に備わり、その体を巡る魔力。通常は魔導核(コア)から作り出された魔力が魔導管(エーテル・ライン)を経て体内に流れるものだが、呼吸などを通じて外界から体内へと入る事もある。

 程よい魔力であればそれを利用して魔力の底上げや身体能力の強化を行う事も出来るが、それも過ぎれば不調に陥る。めまい、倦怠感。重度になれば意識の昏倒、気絶。最悪死にも至る危険なものだ。

 鉱石――主に“魔石“と呼ばれる魔力を帯びた鉱石を採掘する際に、最も気を付けなければならないこの症状は、この不毛な洞窟内では無縁のものである筈であった。

 

 怪訝な顔をするシンに向けて、フォルクは考え込んだ上、自ら吐き出す言葉が信じられないような様子で切り出していく。



「⋯⋯『獣人(セリアン)は土へと還り、ドワーフは岩と鉱石へ還る。エルフは木々や草花と成り、そして“魔族(ノクト)“は(くう)へと還る』」

「昔話なら、今は気分じゃねえな」

「⋯⋯この大陸に伝わる伝承の一つだ。それぞれの種族の“最期“を表したものだとされる。俺も実際に見たことは無いがな」

「じゃあ、例えばドンやカルが死んだら、岩とかになるって事か? とても信じられねえが⋯⋯」

「⋯⋯信じるかどうかはさておき、ドワーフの墓には“岩“を入れるそうだぞ?」

「葬式の話なんて国によって変わるだろ。それが今の話にどう繋がるんだよ?」



 遠回しに話すフォルクに、苛立ちを募らせていくシン。そんな彼の様子を気にも留めずにフォルクは続けた。



「――死んだら、(くう)に還るのだろう? “何が“、(くう)に還るんだ?」

「⋯⋯あのバケモンを斬っていっても、死体は残らなかった。⋯⋯まさか!?」

「ああ。恐らく、奴らの“魔力“。⋯⋯それが散っていったのだろう。俺たちがこうやって魔力酔いに患っているのも、辻褄は合う」

「マジかよ⋯⋯! それじゃ斬れば斬るほど、こっちは弱っていくって事か? 斬らなきゃ斬らねえでやられる。八方塞がりじゃねーか!!」



 フォルクの言葉に、頭を抱えるシン。そんな彼らの様子を尻目に、アランは腰に下げたポーチから声が出ていたのを聞いた。



「――!! シャルさん!?」



 彼は、慌ててポーチの中を弄る。――通信用の水晶。声の主はそれであった。

 アランは表情を綻ばせてそれを掴む。だが、そこから聞こえる声は彼の望む彼女の声では無かった。

 


『――るか、アラン! 返事をしろ! アラン!!』



 水晶から――ブリガンティア王国で任務を行っていたゲルダの声が響く。アランは目に見える程に肩を落とし、声の主に向かって答えていく。



「⋯⋯こちら、アラン。聞こえている。どうぞ」

『――ああ、やっと繋がったか。やられたのかと思ったぜ。手短に伝える。こっちは終わった。だが、気をつけろ』

「? どういう事だ?」

『“灰色の肌をしたバケモン“と戦ってたんだ。だが、突然光り始めたと思ったら、跡形も無く消えていった。もしかしたら、そっちにいったのかもしれない』

「バケモノ?」

『ああ。あいつがこのままいたら、こっちもヤバかった。⋯⋯そのおかげで、ガーランド領は無事に制圧出来た。人質も全員無事。“お父上“も残念ながらご無事だ。そっちは?』

「⋯⋯シャルさんと、はぐれた」

『――!!』



 アランは、力なく水晶に向けて力なく零した。水晶ごしにもはっきりとわかるほど、その先にいるであろうゲルダは言葉を失っている。

 しばしの沈黙の後、ゲルダがゆっくりと口を開く。



『⋯⋯やられたのか?』

「わからない⋯⋯。でも、シャルさんが⋯⋯! ボクのせいで⋯⋯!!」

『落ち着け、アラン』

「ボクが⋯⋯、ボクが、油断したから⋯⋯! だから、シャルさんが⋯⋯!!」

『落ち着け!! アラン!!』

「――!!」



 アランは、鼻を鳴らしながら声を上げていた。瞳から溢れるのは、一筋の涙。抑えきれない感情が、彼の頬を伝う。

 それを、ゲルダが止めた。彼女の叫びで一瞬体を震わせたアランであったが、ゲルダは水晶を通して彼に続けていく。



『――あいつがそんな簡単にやられるかよ。騎士学校きっての“重装兵“だぜ? 心配すんな。絶対大丈夫だ!』

「⋯⋯ゲルダ⋯⋯」

『あいつは、自分の団員を連れて絶対に帰ってくる。そんな時に、そんな情けないツラを晒すなよ? 怒られるぞ?』

「⋯⋯うん」

『信じてやれ。絶対大丈夫だ。それでも心配なら、お前が駆けつけてやれ! “王子様“にでもなった気分でな!』

「⋯⋯うん! ありがとう⋯⋯! ゲルダ!」


「――まだ話し足りないなら、ちょっと下がっててもらえるか?」



 ゲルダの言葉と共に涙を拭ったアランに向けて、シンが割り込んだ。

 ――刀を引き抜き、前方を見つめる。暗闇の向こうに蠢く、大量の緑色の影。彼の団員たちも、各々獲物をその手に握っていた。



「――フォルク。鼻の調子はどうだ?」

「⋯⋯良くない。そう答えたところで、何か変わるのか?」

「気遣い、ってやつだよ。言い方一つで、気分が変わるもんだろ?」

「⋯⋯それを言うから、シンの言葉は素直に受け取れないんだ」



 ニヤニヤと笑みを浮かべながら話すシンに、呆れた様子で返すフォルク。耳まで垂れ下がった狼人(ルプス)の彼は、そのまま続けた。



「⋯⋯それで、何をするんだ?」

「風に乗る匂いを探れ。見知った奴でいい。あの嬢ちゃんでも、急に消えたあの“詐欺師“でも」

「⋯⋯戦いながらか?」

「その通りだ。人手不足は辛いねぇ。募集でも出すか」


「――やれ!! 『グラシアリス』!!」



 軽口を叩いていたシンとフォルクは、その声に振り向いた。


 ――そこにいたのは、“氷剣グラシアリス“を天に捧げるように掲げたアランの姿であった。

 その貌に迷いはなく、先ほどまでの悲しみも――怒りすら、無かった。


 透き通る冬の晴天のように晴れやかなその表情に、影は一切見えなかったのだ。


 アランは、剣を掲げあげたまま言葉を続ける。



「――敵はボクに任せろ。奴らを氷漬けにしてしまえば、これ以上魔力は広がらないだろう?」



 ひゅー、と、口笛を吹くシン。感心した様子で彼はアランへと口を開いた。



「――へえ、こりゃ頼り甲斐があるな。⋯⋯任せていいか?」

「⋯⋯もちろんだ。⋯⋯あ、あなた達も、シャルさんを助けるために、ボクに力を貸して欲しい⋯⋯」

「はいよ。任せな。さっさと助けて、さっさと帰ろう。全員助けて、全員無事でな!」

「――はい!!」

 


 シンの言葉に、元気よく答えるアラン。その表情は、氷のように澄みきっていたのであった。


 


三連休中、五話の物語を更新しました!

皆様の貴重な時間を奪うのに値する作品だと、自信を持って言えるように何度も読み返しながら私なりに精進しています。

読んで頂けるだけで万々歳の私ですが、一つだけ言わせてください。


星が、欲しぃー!!


⋯⋯ウルトが貯まったので、解放させて頂きました。引き続きよろしくお願いします。

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