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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章

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2章:18話「ねずみ返し洞窟の戦いⅠ」


「――こっちだ」



 腐った海水の臭いと岩肌の湿った空気が充満する洞窟を、魔石を使用したランタンで照らしながら進むシャルたち。彼女たちは先頭を歩く狼人(ルプス)――フォルクの指示に従っていた。

 所々に太陽の光が差し込み、僅かに照らされる洞窟内。しかし、その光はありがたいものではなく、むしろ明暗に目を慣らすことが出来ずに、必要以上の警戒を強いるものだったのだ。

 そんな中、フォルクは目に頼る事なく洞窟を進んでいた。――僅かな風と、それに乗って漂う微かな“女性“や“子供“の香り。狼人(ルプス)の純徴種である彼にとっては、見えているかのようにはっきりと感じているのだ。



「――フォルクさんがいてくれて助かりました。大分進みやすくなっています」



 感心したようにフォルクに声をかけるシャル。それに返答したのは、彼ではなく“有鱗種(レプト)“のベケットであった。


 

「だろぉ!? うちのフォルクはスゲーんだぜ!? 毛むくじゃらで、たまに鼻が痒くなるけどな!」

「⋯⋯ベケットはいい加減慣れろ。何年の付き合いだと思ってるんだ」



 嬉しそうに巨大な尾を振りながら声を上げるベケットに、呆れたように返すフォルク。そんな彼らの様子を微笑みながら見ていたシャルは、彼らに再度質問をした。



「ふふ⋯⋯。お二人は、長い付き合いなんですか?」

「⋯⋯腐れ縁だ。もう十年ほどは一緒にいるだろう」

「! そんなに長いのですか!?」

「ああ。何度か離れた事はあったが、共にいた期間の方が長いだろう。なんせ、傭兵として戦場で出会うことも多かったからな」

「⋯⋯それは、味方として、ですか?」

「⋯⋯もちろん、敵としてもあったさ」



 シャルの質問に、憂うように返すフォルク。少し重い雰囲気になった所を――ベケットが叩き潰した。



「こいつはつえーからな! 殺し合いになっても、決着が付く事はなかったぜ!!」

「⋯⋯そうだな。顔馴染みだからと、手加減したつもりは無いのだがな」

「そうそう! そんで、じゃあ二人で荒稼ぎするかー! つって、二人で組んだわけだ!!」

「⋯⋯組んだというより、こいつが勝手についてきただけだ。こいつは馬鹿だからな。金勘定が出来なかったんだ」


「ふふ。仲良しなんですね」

「⋯⋯言っただろう、腐れ縁だと」



 うんざりするようフォルクであったが、その尻尾は左右に振れていた。

 そんな二人の会話を笑いながら聞いていたシャル。しかし、フォルクが片手を上げると、緩んだ頬は引き締まり、一気に戦闘態勢へと移行する。



「――後ろだ」

 

「アラン君!!」 

「任せてください!!」


「――もう終わったよ」



 シャルの呼びかけに答えたアランは、即座に剣を引き抜き、構える。

 しかし、アランが攻撃することはおろか、動く事さえなかった。なぜなら、シンが既に片付けていたからだ。

 彼は、血糊のついた刀身を振り、血を落とすと刀を納めながら気怠そうに呟いた。



「俺の方が早かったようだな、フォルク。後ろにも鼻をつけたらどうだ?」

「⋯⋯お前の勘は俺の鼻より利くんだ。わざわざ増やす事もない。シンが俺のもう一つの“鼻“になればいいだけだ」

「そんな(まじな)いみてえなもん、あんま信用すんなよ?」



 頭をボリボリ、と掻きながら答えるシン。欠伸をしながら、事も無げに会話を続けるシンに、シャルやアラン、そして赤浪団の傭兵たちは絶句していた。


 

「しっかし、手応えのねえ連中だな。張り合いがねえや」



 彼はパチン、と音を立てて刀を収めると、他の傭兵の様子を気にも止めずに続ける。

 


「もう何度か戦っているが、全員この調子なら、昼には帰れそうだな」


「⋯⋯シン、残念ながら、敵はより狡猾なようだぞ?」

「あん?」



 フォルクは、その狼の顔を酷く歪めていた。その様子を不審がるシンと救出隊であったが、不快さを隠さないまま、彼は続ける。



「⋯⋯最低な奴らだな。ここまでやるのか」

「フォルクさん、一体――」



「――おいおい! こいつらが見えねえか!?」



 シャルが言い終える前に、荒々しい叫びが洞窟内に響き渡る。

 同時に、影から出てくる無数の男達。それを確認すると、救出隊の面々は皆表情を険しくした。


 ――なぜなら、その賊達は、身包みを剥いだ人質の女性や子供達を盾にするようにして、その場所に立っていたからだ。



「おっとぉ、動くなよ? 全員武器を捨てな!! こいつらが大事なんだろ!?」

「貴様ら⋯⋯!!」

「そんなに怖い顔をするなよ、お嬢ちゃん? 綺麗な顔が台無しだぜ?」

 

「⋯⋯ひっ!? た、助けて⋯⋯!!」



 狭い通路を塞ぐように、身包みを剥がされた女性や子供たちが一列に並ばされている。その背後に立つのは、彼女たちの髪を掴み上げ、喉元に薄汚れた刃を押し当てる男たち。

 目を吊り上げ、激情を露わにするシャル。だが、人質に向けられた短刀を見て、その体を動かすことは出来なくなってしまう。

 それはシャルだけではなかった。蒼穹の盾(アズール・シルト)の団員たち、フォルクやベケット、赤浪団の傭兵たちでさえその表情を歪めていたが、目の前にいる人質を見ると皆一様に体を凍りつかせるしかなかったのだ。



「⋯⋯くそ、これでは、“魔剣“を使えない⋯⋯!!」



 アランも同様に、魔剣を握り締めながら悪態を吐き出すことしか出来なかった。

 この狭い洞窟の中でアランが魔法を放てば、それは下劣な笑みを浮かべる男たちだけでなく、人質たちの柔らかな肌が冷気によって引き裂かれてしまう。

 それでなくとも、人質に前に立たれてはシャルたちも攻撃する事ができない。今の救出隊は、賊の非道な行いに怒る事は出来ても、それを打開する事は出来なかったのだ。



「いたいよ! こわいよ! たすけて! おねえちゃんたち!!」

「うるせえ! 静かにしてろ!!」

「いっ、いたい! 髪をひっぱらないで!!」



 恐怖に叫ぶ子供を殴り、髪を掴んで引き上げる男。シャルはその様子を見て、激情そのままに叫ぶ。



「っ!! その手を離せ!!」

「⋯⋯離すのはそっちだぜ? お嬢ちゃん。こいつらが可哀想だと思うなら、さっさと武器を手放しな」

「!! ⋯⋯下衆め⋯⋯!!」

「オラァ、早くしろよ!! 早くしないと、こいつらが“怪我“するぜ!?」



 賊の叫びに、人質たちは皆体を震わせた。シャルは舌打ちを一つしたが、この状況を打開する術は見つからない。彼女は観念したように、その大槌を投げようとした。

 ――その時だった。


 

「――やあやあ! 我こそは、“坂井(さかい)武蔵国守(むさしくにのもり)新左衛門(しんざえもん)辰熊(たつくま)“なり!! 大和武士の名の下に、いざ尋常に参らん!!」



 シャルたちの後ろで、シンがその手に持つ刀を天高く突き上げ、大声で意味のわからない何かを叫び始めたのだ。

 その声に困惑するシャルたち。そして、賊達も困惑を広げていた。


 

「な、なんだ!? 魔法か!?」

「魔法の詠唱だ! お前ら、気をつけろ!!」

「こいつ! 人質ごとやるつもりか!?」



 動揺する賊の姿を確認し、シンを警戒する彼らは人質を握る力をさらに強めていた。

 彼らは圧倒的な優位からか、シャルたちのような美少女たちに見惚れ、気を取られ――油断して、気付いていなかったのだ。


 ――“狼男(フォルク)“の姿が消えていた事に。



「ふざけんじゃねえ! 人質がどうなっても――」


「――今だ! やれ、フォルク!!」

「――応!!」



 フォルクが、賊の集団の中心へと降り立つ。――彼は、いつの間にか洞窟の天井へと移動し、張り付いたまま機を窺っていたのだ。

 シンの号令と共に降り立ったフォルクは、その二本の短刀で賊達を中心から切り刻んでいく。

 彼らの足並みが乱れ、人質と人質の間に隙間が出来るとシンは疾走し、その隙間に体を潜らせ、肉壁の内側へと飛び込んだ。


 

「――ひとぉつ!! ふたぁつ!!」

 

 

 シンは叫びながら、流れるように最小限の太刀筋で賊と人質を結んでいた腕を切り落とし、痛みに叫ぶ時間すら許さずに今度は首を落としていく。

 人質を捉えていた賊が斃れる頃。フォルクもその仕事を終え、倒れた人質を運んでいた。


 

「――ちゃんと、“名乗りを上げた“ぜ? 正々堂々とな。⋯⋯お前らには、そうは聞こえてねえみたいだが」


 

 ――勝利を確信していた賊たちは、たった二人の剣士によって殲滅されたのであった。

 それを見ているしかなかった騎士と赤浪団の面々は、フォルクの言葉で我に返る。



「⋯⋯人質を。酷く衰弱している。早く外に出してやれ」

「! は、はい! わかりました。みんな! この子たちを地上へ!!」



 シャルの号令で、蒼穹の盾(アズール・シルト)と赤浪団は人質を背負い、または抱き抱えて外へと向かう。

 ――こわかった、と泣き叫ぶ子供たちを抱きしめ、今だ体を震わす女性に毛布を与え、時に撫でながら。



「⋯⋯ありがとう、ございました。シンさん。私たちだけでは、何も出来なかった」

「あんま気にすんなよ、嬢ちゃん。俺たちの方が身軽なんだ。あんた達の盾は、この後の“大男“とやらにとっておいてくれ」



 シャルの感謝に、軽い調子で返すシン。そんな彼に、焦った様子でフォルクが声をかける。



「⋯⋯シン、カニスがいない⋯⋯!」

「あん? さっきまでいただろ? どこで逸れたんだ?」

「カニスさん? どこに行ったの?」



 シンたちは、きょろきょろと辺りを探っていたが、ついぞカニスを見つけることは出来なかったのだ。



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