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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章

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2章:17話「ベケット必勝法」


 東の空が明るみ、日が差し始めた頃。

 半島を叩く波の音は今は穏やかなまま、潮を含んだベタつく風が、戦士たちを撫でていく中で。

 


「――みんな。準備はいい? 作戦を始めるよ」

 


 蒼穹の鎧に身を包んだ少女――シャルが声を上げ、それに応えるように戦士たちは静かに首を縦に振る。

 ――シンも、欠伸をしながら声を上げた。


 

「――ふあ〜ぁ。⋯⋯じゃあ、俺たちも行きますか」


「――あ、あの!!」

「あん?」


 

 体を伸ばしながら歩き始めるシンに向けて、金髪の少年――レオンが声をかけた。


 

「よお、旦那。どうしたんだ?」

「⋯⋯あ、あの。⋯⋯どうやったら、あなたみたいになれますか!?」

「⋯⋯はあ?」


 

 少女のような顔を耳まで真っ赤に染め上げたレオンのその言葉に、間抜けそうに口を開けたまま答えるシン。

 そんな彼に向けて、少年は続けた。

 


「⋯⋯僕は、あなたみたいになりたいんです! 自信満々で、団員たちみんなから慕われて、とっても強い⋯⋯。そんな、あなたみたいに!」

 

「旦那には、あの青い鎧の別嬪さんがいるじゃねえか。そういう事なら、あの子に教えてもらいな?」

 

「⋯⋯はい、そうなんですが⋯⋯。でも、あなたからも、教わりたいんです!!」

「あー⋯⋯」


 

 少年の純粋な眼差しに、返答に窮するシン。彼は、頭をボリボリと掻きながら、レオンに返す。

 


「よくわかんねぇけど。⋯⋯俺には俺のやり方がある。旦那だって同じだろ? 俺から言える事と言やぁ、精々“仲間を大切にする“って事くらいじゃねえか?」


「――なんだ、ちっちぇえの! お前強くなりたいのか!?」

 


 目を輝かせながら質問するレオンに、気まずそうに目を背けながら、そっけなく返すシン。

 そんな二人の会話を聞いていた有鱗種(レプト)の青年――ベケットが、レオンに向けて割り込むように入ってくる。


 

「じゃあ! ぜってぇ負けねえ戦い方を教えてやるよ!!」


「――!! ほんとですか!?」


 

 ベケットの言葉に興味深々の少年は、その紫色の瞳を輝かせて聞いていた。

 


「ああ!! そのちっちぇえ耳かっぽじって、よ〜く聞けよ!?」

「はい!!」

「それはな⋯⋯!!」

「⋯⋯ごくり」

 

「――それはな、何度のされようと、“立ち上がり続ける“事だ!!」

 

「⋯⋯立ち、続ける⋯⋯?」

「ああ! そうだ!! 起き上がり続ける限り、負けはねえ!!」

 


 ベケットは、その金色の瞳を輝かせながら、ポカンとしている少年に向けて続けた。

 


「どんだけ伸されたって、戦う意志を見せ続けるんだ。ようは根性だ、根性!!」

「⋯⋯!! はい⋯⋯! 根性、ですね!?」

「そうだ! わかったら、その自信無さげな声をやめろ! もっと腹から声出せ!!」

「はっ、はい!!」

「そして、やはり“筋トレ“だ!! 筋肉(マッソォ)は全てを解決する!!」

「はい! 筋トレ、頑張ります!!」


「――でたでた。旦那、やめとけ。ベケットはこういう奴なんだ」

 

 

 ベケットの言葉に、目をキラキラ輝かせながら答えるレオン。

 そんな少年に、シンはため息を吐きながら、呆れたように少年に告げた。


 

「――無事に生きて帰ったら教えてやるよ。俺たちの後ろ、頼んだぜ? “団長どの“」


 

 そう言って、シンたちは半島の先端――洞窟へと足を進めていく。

 それを見送る少年の瞳には、彼の背中はとても大きいものに見えたのだった。



 +



「――あそこ、だね」


 

 移動を終えたシャルたちは、半島の先端にある洞窟の入り口付近に到着する。崖から立ち上る風は強さを増していき、肥沃な潮の香りを立ち上らせていた。

 森の影から覗く彼女たちは、そこから入り口を守る十人ほどの賊を眺めている。

 


「⋯⋯みんな、準備はいいね?」

 


 シャルの言葉に、蒼穹の盾(アズール・シルト)、赤浪団、シン率いる傭兵団、そしてアランが静かに頷いた。

 そして、アランが、シャルに向けて呟く。

 


「――シャルさん、ボクがやります。奴らを潰すので、少し待っていてください」

「アラン君、大丈夫なの?」

「任せてください! ボクには、この“魔剣グラシアリス“があるので!」

 


 そう言って歯を見せるように天使のような笑顔を見せるアラン。困惑するシャルをよそに、彼はそのまま森から飛び出した。

 


「――!! 何だ!? 敵か!?」

「騎士だ!! あの“魔剣“を使う騎士――」


 

「――彼の者に、永久(とわ)の氷の抱擁を! やれ!! 『グラシアリス』!!」

 


 アランは叫びながら、手にした魔剣――“氷剣グラシアリス“を振るう。

 ――同時に、地面を這うように賊に向かって氷が疾る。

 


「――なっ! 氷――」


 

 入り口を守護していた賊たちは、言葉を言い切る前に足元から“氷漬け“にされた。


 ――絶望の表情を浮かべる、十体の氷像。冷気が舞い散る中、アランは静かに告げた。



「――死ぬ間際くらい、美しくしてやったんだ。そのまま、氷に抱かれて眠れ」



 アランは、たった一人で拠点を守っていた賊を無力化した。

 その圧倒的な様子に、赤浪団の全員は開いた口が塞がらず、感嘆の声すら上げることが出来なかったのだ。

 


「――へえ、これは頼り甲斐があるな」

「⋯⋯あれが、魔剣の力か。出来れば、敵に回したくはないな」

「おで、ざむい。うえ、はだか」

「何言ってんだ、トール!! お前には立派な“筋肉(マッソォ)“があるじゃねえか!!」

 


 赤浪団をよそに、口々に声を上げる“名無しの傭兵団“の面々。

 彼らが騒ぐ中、シャルはアランへと歩みを進めた。


 

「――すごいね、アラン君。前よりも、もっと力を使いこなしてる」

「⋯⋯!! へへっ! ありがとうございます、シャルさん!!」

 


 シャルの賞賛に、先ほどまでとは打って変わって眩しい笑顔を浮かべるアラン。

 喜び続けるアランから目を外し、シャルは声を上げた。

 


「――状況、開始。みなさん、よろしくお願いしますね」


「「「――おうっ!!」」」

 


 “指揮官“のよく澄んだ通る声に、我に帰った赤浪団の面々は声を合わせて返事をしたのだった。



 +



 一方、その頃。

 決戦の地から離れた、拠点近くの芝生の上で。

 


「――『という訳で、姫騎士イングリッドと王子ケーニヒは、互いの暖かさを確かめるように、硬く抱擁を交わしたのでした』」


「⋯⋯うう。感動的です」

「イングリッド、よがっだねー! やっと、王子様とぎゅーってできて!!」

「⋯⋯⋯⋯すぅ」


 

 レオンは、後ろから抱きついているヒルダの膝に座るようにして、少年の右に座るルナ、左に座るノエルに、イングリッドから借りた(押し付けられた)“姫騎士物語“を読み聞かせていた。

 

 少年を囲む少女二人は泣いている。ルナは眉一つ動かさず、されど涙は頬を伝い、ノエルはずびずびと鼻を鳴らしながら。そんな中、ヒルダはレオンの後頭部に顔を埋める形で、少年の香りを堪能したまま眠っているようだった。

 ――レオンといえば、ロマンスシーンを音読する度に、その意味がわからない少女たちの質問に答えていたからか、今は耳まで真っ赤になっている。



 『――砦に行くったって、昨日制圧したばかりだろ? 俺たちで十分だ! お前らは引っ込んでな!!』



 天秤商会の傭兵たちにそう言われ、レオンは『はい、わかりました』とすぐに引き下がった。

 そんな団長の様子に団員たちは困惑していたが、穏やかなまま少年に『じゃあ、僕たちも行こうか』と促され、彼らも引き下がる。

 

 結果、砦には天秤商会だけで向かったのだ。少年たちは手持ち無沙汰になったのか、拠点近くの草原で各々休んでいた。

 


「――何読んでるの〜?」

「――!!」

 


 背後から少年の両肩を押さえつけるように触れるリリィ。彼女は、その可憐な貌をレオンの頬に触れるかのような近さで質問をした。

 


「!! レオンに近寄らないで!!」

「おっと〜!!」


 

 リリィを振り払うように手を上げるノエル。それをかわしたリリィは、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、彼女に告げた。


 

「――“負け犬“の攻撃なんて、当ったらないよ〜」

 

「⋯⋯なんですって?」と、ルナ。

「だって、そうじゃん? 貴女たちより〜、私たちの方がレオンを守れるよ〜?」

 

「うるさい! 次は負けないんだから!!」と、今度はノエル。

「あはは! じゃあ、試してみる〜? 結果は、変わらないと思うけど〜? ⋯⋯あだっ!」


「――もう、この子は本当に。ごめんなさい、みなさん。不快な思いをさせてしまって」

 


 ルナとノエルに挑発を続けていたリリィの頭に、拳骨をお見舞いしたライサ。

 呻きながら頭を抱えるリリィを無視して、黒翼の少女はそのまま三人に頭を下げていた。


 ――翼人(アヴィス)の二人は、レオンたちと共に残ったのだ。

 “洞窟の中で、天馬騎士がどう戦うんだよ“、と言ったシンの命令で。

 そんな二人に、“昨夜“の事を思い出したのか、若干怯えながらレオンは告げる。


 

「⋯⋯大丈夫、です。⋯⋯昨日の事で、懲りたので⋯⋯」

「あら、よかったです。⋯⋯ちゃんと私たちの“教え“、身についているようですね」


「⋯⋯ねえ、レオン。昨日、何があったの?」

「言ってください、レオン。ルナは、とても心配しています」

 

「⋯⋯大、丈夫。⋯⋯“負けた“相手がどうなるか、身を持って教えてくれた、だけだから⋯⋯」

 


 ノエルとルナの質問に、声を振るわせながら答えるレオン。――その肩も、小さく震えていた。

 そんな様子を獰猛な眼差しで見ていたライサは、――少年の手にあった本を見た。

 


「――あら、“姫騎士物語“ではありませんか」

「⋯⋯知って、いるんですか?」

「ええ。⋯⋯私が以前いた“国“でも、人気がありましたので」

 


 ライサは、悲しそうに目を細めながら、少年に返す。

 その様子に気付いたレオンは、黒翼の彼女に再度質問した。

 


「⋯⋯ライサさんは、以前どちらにいたのですか?」

「⋯⋯ふふ。“内緒“、です」

 


 ライサは、心配そうに見つめるレオンの瞳をかわすように、再度笑みを浮かべて返した。

 そんな彼らに、今度はエリザとカルが近づいてくる。

 


「――しかし、こんな所でのんびりしていて、本当にいいのか?」

「そうだぜ!? 一刻を争う戦いの真っ只中なんだぞ!?」

 


 焦りか、緊張か。少しヒリついた声音の二人に、されどレオンは穏やかに返答する。

 


「⋯⋯大丈夫だよ。何かが起こるにしても、それはまだ先。⋯⋯むしろ、僕たちに仕事が回る方が、今の状況ではまずいんだ」


「「? どういう事だ⋯⋯?」」


 

 妙に落ち着き払った“団長“の様子に、困惑するエリザとカルは声を合わせた。

 


「⋯⋯昨日の夜。ずっと、考えていたんだ」

 


 そんな二人に、レオンは冷静に告げる。

 ――その瞳に、虚無を広げながら。

 


「――シャル団長、シンさん、そしてアラン。彼らを、必ず、“殺す“方法を――」


 

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