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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章

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2章:16-1話「“かっこいい“男たち」


 自陣として設営された天幕。

 陽が沈み影が伸びる中で煌々と輝くそれは、森から少し離れた、見晴らしの良い平野に作られていた。

 

 そこから溢れる声。――だが、それは拠点の灯りのように暖かいものでは無く、むしろ賭場のような荒くれ達の罵声が響き渡っていたのだ。


 ――蒼穹の盾(アズール・シルト)、シン率いる名無しの傭兵団、そしてレオン率いる名無しの小騎士団(スモール・オーダー)の団長たちはそれぞれ目を合わせ、言い争いを続ける赤いベストを着た集団と金の刺繍が施された外套の集団の間へと向かっていく。

 


「――せこい事しやがって! 数を水増しして、そんなに金が欲しいかよ!!」

 

「――だから、そんな小せえ事しねえよ!! お前らこそちゃんと数えたのか!!」

 


「――おいおい、おっさん方。何騒いでやがる」

 


 言い争いを続ける傭兵たちの元へ、シンが口を挟みながら歩み寄っていく。

 すると彼らの怒りの矛先はシンへと向かい、彼に向かって怒鳴り始めたのだ。

 


「こいつが砦を壊滅させたって言うから、確認に行ったら、死体の数が合わねえんだよ!」

「うるせーなぁ。そんな大声出さなくたって聞こえてるよ」

 


「⋯⋯どういう事?」


 

 耳元で怒鳴られた影響か、シンが耳を押さえながらうんざりした様子で告げるのをよそに、今度はシャルが荒れている傭兵へと質問を投げかける。


 

「ああ、俺たちが制圧した砦には、二十人近くの賊がいたんだ。全員亡き者にしてやったがな。⋯⋯だが、こいつらが砦を確認しに行ったら、五人しかいねえとほざきやがる。全く、数さえ数えらんねえとは、“赤き狼“ってのもたいした事ねえな!」

 

「なんだと! お前ら“金の天秤“だって、金勘定しかしてねえから人の数え方を忘れたんだろ!? ぼるのは商品だけにしとけ、この守銭奴どもが!!」

 

「てめえ! 言わせておけばナメやがって!!」

 


 傭兵たちの温度は徐々に上がっていき、とうとう殴り合いを始める。

 おろおろ、と慌てるレオン。そんな少年の首根っこをシンは掴み、猫のように持ち上げ、共に巻き添えに合わないようにその場を離れる。


 

「ええと、あの人たちは?」

「ああ、“赤狼団“と“天秤商会“だな。赤狼団は自称フィデリア一の傭兵団で、天秤商会は自称フィデリア一の商会。ドン・アルク――蒼海商会の商売敵だよ」

「⋯⋯彼らも、傭兵、なんですか?」

「そうだよ。いがみ合ってるだけで、対して役に立たなそーだけどな」


 

 未だ首根っこを掴まれたままのレオンに、うんざりした様子で返すシン。

 彼がため息をついて騒動を眺めていると、横からカルが叫びながら彼らに割って入る。


 

「――おい! 喧嘩してる場合じゃないだろ! さっさと賊を片付けないと、攫われた奴らがあぶねーんだぞ!?」


「ああ!? 蒼海商会のガキか! 子供がうろついてんじゃねえよ!!」

「こっちは大人の話をしてんだよ! チビが入ってくんな!!」

 

「っ! てめーら! 言わせておけば、ナメやがって!!」


 

 傭兵の言葉に、今度はカルに火がついてしまう。

 いよいよ収拾が付かなくなる――そんな時、カルの肩に手を置く男――カニスが、声を上げた。


 

「――はい! 喧嘩はそこまでにしなよ。こっちはさっさと女の子たちを助けたいんだから」


「てめえはカニスか! お前は娼館にでも隠れてろよ! 邪魔だ!」

「そうだ! こっちは“信用“がかかってんだ。引っ込んでろ――」



 傭兵は言い終わるよりも早く、その言葉は鋭利な冷たい感触によって遮られた。

 ――ぬっ、と。音もせずに傭兵の喉元にカットラスの刃先が突き付けられている。

 

 衣擦れの音ひとつ立てることなく傭兵の懐に潜り込んだカニスが、剣を抜いたのだ。

 


「――いい加減にしなよ。報酬は“山分け“。⋯⋯このまま口喧嘩を続けるなら、俺たちが“総取り“してもいいんだぜ?」


 

 金色の瞳を鋭く細めながら、傭兵に詰め寄るカニス。

 思わず気押される傭兵たちは、落ちていく夕日と共に訪れた夜のように徐々に静かになっていった。



 +



「――ここまで来たら、敵は半島の先端。“ネズミ返し“にいると見て間違いねえな」

 


 波が崖を打ち付ける音が、遠くから聞こえてくる。風に乗った僅かな潮の香りが、この場所が海に囲まれている事を再度確認させている。

 そんな場所で、天幕に覆われた即席の会議室にシンの声が響いた。

 


「ネズミ返し?」と、レオン。

 

「波で長い時間をかけて削られたのか、半島の先端は切り立った崖になっているんだよ。海運するにしても、あまりに不便な立地から誰も開拓しなかった場所だね」


 

 小首を傾げるレオンの言葉に、軽い口調でカニスが答えていく。

 

 

「――それに、あそこの中は打ち付ける波で出来た自然の洞窟が、アリの巣のように広がっているんだ。身を隠すにも、自然の要塞とするのもうってつけって事さ⭐︎」


 

 カニスが決めるようにウインクをしながら話し終えると、次は補足するようにカルが口を開いた。

 


「海流にもよるけど、小舟を使えば補給はできるか。あそこの穴倉なら、火を起こしてもフィデリアからは気付きにくいな」

 

「そこに、攫われた子たちがいるのかな?」と、シャル。

 

「間違いないと思うぜ? あの洞窟は広い。それに、他に逃げる場所なんてもう無いからな」

 

「決まりだね。それじゃあ、目標は半島の洞窟。優先すべきは人質の保護、そして賊の討伐――」


 

 カルの言葉をシャルはまとめ、作戦を組み立てていく。シンやカニス、カルと共にどのように攻め込むか、補給、人質の救出、護衛、洞窟内部の話と進んでいった。

 一頻り決まった後。シンはニヤリと笑みを浮かべながら切り出した。

 


「――よし。じゃあ明日あたり、攻め込むとするか」

「⋯⋯! 明日、ですか!?」

 


 シンの提案に、レオンが目を丸くする。

 そんな少年を微笑みながら見つめたシンは、そのまま続けた。

 


「ああ。こっちは早く家に帰って寝てえんだ。さっさと潰して、さっさと帰ろう」

「でも、準備が⋯⋯。大丈夫なんでしょうか?」

「こっちの準備が出来るのを、奴らが待ってくれる保証はねえだろ? どの道、時間はねえのさ。あるもんで戦ってくしか、ねえんだよ」


 

 おつかいにでも行くような気楽な口調のシンに、レオンは絶句していた。その瞳は驚きと同時に、全く気追わないシンの様子が少年には眩しく見えていた。


 

「――心配もあるだろうが、早く終わらせたいのは俺たちも同じなんだ」


 

 そんな少年に向けて、今度は狼男――フォルクがレオンの肩に手を置き、言葉を続ける。

 


「俺たちの仲間の大男を見ただろう?」

「⋯⋯はい。あの、とっても大きい人ですよね?」

「奴は“トール“。あんななりだが、一応“無徴種(メンティ)“だ。先天性の魔導管(エーテル・ライン)の異常で、あんなにデカくなったらしい」

「! 先天性の、異常?」

「そうだ。⋯⋯そのせいで、“化物“と呼ばれて故郷を追われたそうだ」

「っ! そんな!」

「⋯⋯そして、今もそうだ。“賊の頭領は大男“と言われたせいで、俺たちはフィデリアを追われてる。だから、シンも誤解を解くために急いでいるんだ。――素直じゃないだけでな」


「――聞こえてるぞ、フォルク。そんなんじゃねえよ」


 

 レオンとフォルクの会話に割って入るシン。 ――彼は顔を背けて喋っていたが、その耳たぶは若干赤くなっていた。

 そんなシンを揶揄うように、今度はカニスが口を開く。


 

「またまた〜、シン。相変わらず素直じゃないよね〜? ツンデレってやつ?」

「うるせえな、カニス。大体、お前らがトールの誤解を解いてくれてりゃ、こんな苦労はしなくて済んだんだぞ」

「無茶言わないでよ〜! これでも頑張ってる方なんだぜ?」

「“頑張った“から許される、ってのは子供だけだ。“大人“なら、ちゃんと結果を伴わねえとな?」



 シンの言葉に、言い負かされそうに返すカニス。彼は相変わらず軽い様子で、揶揄うように続けた。


 

「これは手厳しいね。さすがは、八件も無駄打ちした運の無い団長様の言うことは違うね!」

「ありがたい情報を持ってきてくれた奴のおかげだ。後で沢山お礼をしてやらなきゃな」



 ――しかし、蛇の尾を踏んでしまったのか、シンはうんざりするように目を細めながら切り返した。

 カニスはそこで自分で自分の首を絞めてしまった事に気付くと、取り繕うように続ける。


 

「⋯⋯そ、その情報屋、礼はいらない、って言ってたぜ?」

「遠慮すんな、って伝えておけ」



 軽口を叩き合うシンとカニス。それがレオンには“大人の余裕“に見え、少年は目をキラキラさせて聞いていたのだった。そんな少年に、苦笑いしながらフォルクは再度口を開く。

 


「――まあ、そういう訳だ。トールとも仲良くしてくれると助かる。⋯⋯年は、恐らく君と同じくらいだろうからな」

「!! ほ、本当ですか!?」

「⋯⋯魔導管(エーテル・ライン)の異常のせいなのか、片言でしか話さないがな。本当は優しい奴なんだ。よろしく頼むよ」

「わかりました! ――うわっ!!」

 


 フォルクの話に元気よく答えるレオン。

 ――そんな少年は、突然天幕の外から伸びた巨大な“手“で猫みたいに持ち上げられたのだ。

 

 二メルをゆうに超す巨躯。その巨体のお陰で天幕に入れなかったトールは、持ち上げた少年を瞳孔の無い瞳で興味深そうに眺めていた。

 


「――ちび」

「⋯⋯チビじゃないよ。僕の名前はレオン。よろしくね、トール」

「れ、おん⋯⋯?」

「そう。レオン」

「れお、ん。⋯⋯おで、トール。よろ、じく」

「うん、よろしく! ⋯⋯それと、降ろしてくれると、嬉しいな⋯⋯?」


 

 レオンがそう言うと、トールは優しく地面に降ろしてあげた。――自分の倍以上の高さに持ち上げられて、少年はその華奢な身体を震わせている。

 そんな彼らのやりとりを嬉しそうに眺めながら、シンは続けた。



「懐かれたな。よかったじゃねえか」

「⋯⋯懐かれた、ですか?」

「トールは人見知りするんだ。知らねえ奴にこんな事するのは初めてだぜ? 旦那の優しい心が伝わったんじゃねえか?」

「優しい、心?」

「トールの人を見る目は確かだからな。白目剥いてて、おっかねえが」



 くっく、と拳を口に当てて笑いながら語るシン。和やかな雰囲気だが、明日攻め込むと聞いて不安そうに眉を歪めているレオンの肩に手をかけ、シンはなおも続けた。


 

「そんなに心配すんなって。秘策はあるんだよ」

「⋯⋯秘策、ですか?」

「そうだ。まず、突っ込む。そんで敵が多そうなら、逃げる。それを繰り返すんだ。俺たちの強さは、よくわかってんだろ?」



 

 

「――品が無いな。いくら腕が立つとはいえ、やはり蛮族は蛮族か」


 

 


 シンがレオンに語る途中、天幕の外から冷たい声が響く。

 

 中にいた者たちが一斉に声の主に振り返ると、そこにいたのは、毛先が銀になった、特徴的な黒髪の小柄な少年であった。


 

 

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