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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章

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2章:15-2話「シャルとレオンの約束」


「――拠点の大小はあれど、あまりにも人数が多すぎる」

 


 自陣の拠点へと戻る道中、シンは頭をボリボリと掻きながら呟いた。彼の隣を歩いていたカルが、シンを見上げながら言葉を返す。


 

「確かに、こんな人数が潜伏していたのは想定外だ。俺たちだけでも、今日で二件の制圧。シンたちは、今日までで八件だろ?」

「ああ。“落とした拠点だけ“で八件だ。その内二件は、奴らが新しく根城にしてたよ。まったく、どっから現れたんだか」

「マジかよ!? あいつら、海に向かってると思っていたのに、一体どこから!?」

「だから埒があかねぇんだよ。俺たちが追い詰めてるつもりが、逆に追い詰められてるかも知れねぇからな」



  賊の状況に驚くカルと、うんざりしたように肩を竦めるシンに、カニスが割り込む。

 


「――それは無いと思うけどな〜。フィデリアの両側は聖都コンスタンティアとエスペリアに囲まれてる訳だし、そんな大所帯なら流石に気付くでしょ?」



 カニスが軽い口調で切り出せば、今度はシンがさらに疑うように目を細めて彼に切り返す。


 

「出た出た、インチキ情報屋。カニスがもう少しマシな情報を持って来てくれりゃ、今頃ホクホクで昼寝三昧だったんだけどな?」

「そ、そんな〜! 無いよりはマシでしょ? 第一、八個も拠点を落としてる時点で十分でしょ!」

「俺たちはさっさと"鬼"やら"魔神"とやらを倒してーの。いつまで経っても、街中を歩けやしねぇ」


 

 ため息を吐きながら溢すシンに、彼の後ろを歩いていた“褐色の大男“が肩を落としながら彼に告げた。


 

「⋯⋯シン、ごめん。オデの、せい?」

 

「おめぇのせいじゃねーよ、"トール"。悪ぃ事してる奴が悪ぃんだ」


 

 褐色の巨人――"トール"と呼ばれた男は、彼に短く、辿々しく告げた。

 そんなトールを慰めるように、シンは吐き捨てる。


 

「⋯⋯⋯⋯」



 そんな彼らのやり取りを、レオンは黙って聞いていた。――その後ろについて来る少女たちの貌も、皆一様に沈んでいる。

 


「――おい、レオン! いい加減にしないか! 私だって怒っているんだぞ!?」

「そうですよ、団長! 私たちを置いていくなんて、酷いです! それに、そんなに羽根まみれになって、何があったんですか!?」


「⋯⋯ごめん、エリザ。それに、ミーナ⋯⋯」


 

 目を吊り上げて少年に詰め寄るエリザとミーナ。二人は彼の団員にも関わらず、置いて行かれた事を酷く怒っていたのだ。

 ――だが、レオンは力無く謝るだけ。その貌は暗く沈んでおり、文字通り"敗残兵"の様相であった。


 

「――レオン君」


 

 肩を落とす少年に向けて、蒼い鎧の少女――シャルが声をかける。羽根まみれの小さな身体を震わせてながら、レオンはシャルの顔を見た。

 彼女は、未だ“レオンは私たちのもの“と誇示するように纏わり付く黒い羽根を一つ一つ、忌々しそうに取り除きながら続ける。

 


「どうして、僕に黙って突っ走っちゃったの?」

「⋯⋯申し訳、ありません」

「謝って欲しい訳じゃないの。理由が聞きたいだけ」


 

 シャルの声音は冷ややかだ。それはいつものように穏やかなものではなく、“先輩騎士“として咎めるような口調であった。そんな彼女に、少年は力無く答える。


 

「⋯⋯焦って、いました。シャル⋯⋯団長の、力になれていない、現状に⋯⋯」

「なるほど。⋯⋯それだけ?」

「⋯⋯慢心も、ありました。みんなとなら、大丈夫だと、油断していました」


 

 辿々しく語るレオンに、彼女ははあ、とため息を漏らすと、一際冷たい声で続けた。

  


「――レオン君を連れてきたの、考え直さなきゃいけないね」


「――!!」


 

 シャルの言葉に、レオンは目を見開いた。その様子は言葉を失っているようにも――怯えているようにも見える。

 彼女は、そのまま少年へと続けていく。


 

「――慢心、油断。それはよく分かるよ。あんなに強い団員がいるのに、それを全く活かせていない現状に焦燥を抱くのもわかる」

「功名心だって、それ自体は悪いことじゃない。むしろ、騎士として生きるなら名誉も名声も大事な事だよ。――でもね?」


 

 シャルはレオンの小さな両肩を掴む。目線を俯く少年に合わせ、おどおどとしたレオンの顔を見据えながら、彼女は語気を強くして続ける。


 

「――君は、“必ず勝つ“努力を怠った。油断して相手の実力を見誤り、自身の焦りだけで自分の団員を危険に晒したの」

「⋯⋯!!」

「気付かなかった、とは言わせないよ? ⋯⋯あの大柄な子には悪いけど、あの姿を見たら敵の大将と間違えても仕方がない」


 

 震えるレオンの肩を抑えつけて、シャルはさらに続ける。口調はさらに強くなり、その瞳にも怒りが滲んでいた。

 


「それで自分たちだけで突っ込んで、挙句敗北。指揮官――レオン君は人質に取られ、彼女たちは武装解除した。その意味が、分かるよね?」

「⋯⋯⋯⋯」

「はっきり言ってあげる。君は“負けた“んだ。幸いだったのは、彼らが“味方“だった事。でも、それだって攻撃対象を間違えたんだよ。騎士としてあるまじき失態だね」

「⋯⋯はい」


 

 震えた声で返答するレオン。シャルはそんな少年を抱きしめたい衝動を抑えながら、この小さい後輩騎士に告げた。


 

「君は、ちゃんと分かっているはずだ。⋯⋯だって、君は見たでしょう? “賊に捕まる“という事が、どういう事なのかを」

 

「⋯⋯!!」



 レオンの脳裏に、先日の戦いがよぎる。被害を受けた、団員たちの結末を――


 "絶望(エリザ)"が、どんな貌をしていたのかを。


 少年は、その小さい拳を握り締めた。魔導管(エーテル・ライン)の痛みを、確かに感じながら。

 シャルはその様子を確認しながら、後輩に向けて“指導“を続ける。


 

「団長は負けてはいけない。必ず勝たなければいけないの。作戦をしっかり練って、自軍の戦力を把握し、最適な指示を行う。戦いは最後の手段。出来れば戦わずして相手を“制圧“し、無傷で団員を家に帰してあげる。その責任があるから、団員は団長の導きに従い、戦えるんだよ」

 

「⋯⋯はい」


 

 シャルは、俯いたままの少年の顔を覗き込んだ。――その少年の瞳は、涙で滲んでいた。

 小さな肩を掴む手に、さらに力が込められる。彼女は彼に優しくしてあげたい気持ちを堪えるように唇を固く結ぶと、さらにレオンに向けて言葉を続ける。


 

「可哀想だけど、厳しい事を言うよ。泣いても何も変わらない。君は負けて、団員を失いかけた。あの可憐な少女たちを。⋯⋯その事実を、一生忘れないで」

 

「⋯⋯はい⋯⋯」

 

「だから、僕に誓って。“もう二度と負けない“と。もう二度と慢心せず、どんな状況でも諦めずに“必ず勝つ“と。そして、団員全員を無事に“生き残らせる“と⋯⋯!」

 

「⋯⋯はい⋯⋯!」

 

「いいね? 絶対だよ。約束だからね! ⋯⋯これからは、僕の指示にちゃんと従う事。そして、彼女たちに指示を出すこと。この戦いの目的は何?」

 

「⋯⋯賊を殲滅し、囚われた女性を助け出す事です」

 

「そう。でも優先すべきは、囚われた女性の解放だよ。君の団員に今一度伝える事。優先すべき事は間違えないように」

 

「わかり、ました⋯⋯」

 

「よし。⋯⋯じゃあ、僕たちも行こう。もうすぐ自陣に到着するから、そこで休もうか」


 

 シャルは、少年に向けて話し終えると、先に真っ直ぐ歩いて行った。

 その背中を見送る少年は、心の中で今一度決意し、覚悟を決める。

 


 (――団長は、負けてはいけない。)


 (指揮を取って、みんなを導く。生きて、無事に家に帰さなきゃいけない。)


 (⋯⋯イングリッドさんのように、強くなって。)


 (⋯⋯シャルのように、団員を導いて!)



「――僕は、もう負けてはいけない。⋯⋯絶対に、もう負けられないんだ⋯⋯!!」



 溢すように呟く少年。

 淡く光る双眸。その"右眼"から、血の涙が流れた。


 ――かつて、エリザを救った筈のヒビの入った右眼。ボロボロの魔導管(エーテル・ライン)と、酷く痛む両腕。身に余る力を使ってエリザを救った代償。それは今も少年を蝕み、今度は大切な“五人“を失いかけた。

 その痛みを無視して、今度は自ら唇を噛み切り、口元からは血が滲み、その小さな拳からも血は滴って地面へと垂れていたのだ。



「――絶対に、みんなを失わない⋯⋯!!」


 

 レオンは、自身への絶望と後悔――悔しさを全て燃やしているかの如く、静かに呟くのであった。


 

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